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11・初クエスト、及び派閥抗争開始!

「お、さすが女学院。制服もキチンとあったか」

「な、なんだかこんな立派な服を着たことないので落ち着かないんですが……」


 先日までの着なれた服ではなく、制服(ブレザー)に身を包んだ二人に、ゲイリーは軽い拍手を送った。

 諸々の手続きが終わり、無事入学した二人は、さっそくクラン・ベースに顔を出していた。


「そういえば、先輩達の所って制服ないの? 二人ともいつも似たような服装だけど、それ違うよね?」


 エリーが二人の格好をみて尋ねる。

 実際、ゲイリーはいつも黒いパンツに白いシャツ。たまに緑のマントを上から羽織り、ラヴィはそれよりは色鮮やかとはいえ、大体いつも似たようなパンツスタイルだ。というよりも、皮鎧とセットだから服装というか装備である。


「あぁ、ウチらの学校は制服ないからな」


 ゲイリーの言葉に、ラヴィが頷きながら続ける。


「制服があるところは、大体その服が身分の保障になる」

「え?」

「その服が着れるお前らは優秀だって話だ」


 ゲイリーは、ラヴィが作った焼き菓子を口に摘まみながらそう言う。


「え、ちょ、その服が着れるって――じゃあ……下手したらアタシとパルちゃん、あの学校に入れなかった可能性あったの?」


 思わぬ事実に、エリーが「どういうことじゃワレコルァ」という感じの視線を送りつける。


「いや、お前らの能力で落ちるとかあり得ん。パルフェは魔力、お前は文字の読み書き出来るし計算も早い。それに、エリーは、説明会(オリエンテーション)の間に情報収集を怠っていなかったしな。意外とチェックされてんのさ。そういうとこもな」


 そもそも、エリーはパルフェと仲が良い友達だ。同じ学校に入ろうとしたのならば、確実に許可が出るとゲイリーは読んでいた。恐らく他の学校でもそうだろう。それほどの価値がパルフェにはある。


「読み書きに計算って、そんな事で?」

「お前ら二人は教育受けてるようだが、領主の治め方によっては文字がさっぱり読めないってのは珍しくない。ぶっちゃけ王都の周りの農村だと文字が読めない奴の方が多い。ラヴィもそうだったぞ。読み方を教えるのに苦労した」


 ゲイリーの言葉が信じられなかったのか、ラヴィに目線で確かめる。


「肯定。読めなかった。ゲー君に教えてもらって、今は大丈夫」

「ちなみに、文字の読み書きを教えるってクエストもあるけどオススメはしない。報酬は安いうえに、意外と難しい」


 へー。と関心した様子の二人に、ゲイリーは少し優越感に浸る。――菓子粕で、少し口元を汚しているまま。

 ぶっちゃけアホの子にしか見えない。


「まぁ、二人には変な訛りもないから問題ないだろう。むしろ、問題なのは俺たちクランの方だ」

「あ、早速クエスト受けるんだっけ?」


 エリーの言葉に答えるように、ゲイリーは一枚の紙を机の上に出す。


「さて、我々の初仕事――って、お前らは本当に初仕事になるか。は、これだ」

「えーと、なになに……北部荒野の調査……これって、アタシ達が馬車で来た道じゃん」


 エリーは眉を顰めながら、クエストの詳細が書かれている部分を次々に読んでいく。

 パルフェも同じように覗きこみ、読み上げる。


「最優先目標……行方不明になった商隊の調査?」





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 北部荒野。元々はキチンとした呼び名があったのだが、今は『グレイ・マター』の北部にある事からそう呼ばれてる。

  この荒野は、学園都市『グレイマター』を囲む地形の中ではもっとも安全と言われており、そこまで強い魔物は住みついてはいない。が、危険度が0かと言われればそうではない。例えば、その弱い魔物を餌とする中、上位モンスターが寄ってくる事もある。結界の影響があるとはいえ、離れれば離れる程強いモンスターと遭遇する可能性は高いのだ。


「でも、それなら商隊が行方不明になった理由がわからないんですけど……。強い魔物がいるって言っても街道付近には近寄れないんですよね?」

「基本的にはな。まぁ、何事にも例外はあるが」


 その北部荒野の街道を、ゲイリー達は馬に揺られてパカパカと進んでいく。

 ラヴィはパルフェを後ろに、ゲイリーはエリーを後ろに乗せて。


「ぶっちゃけ、一番ありそうなのは街道を外れて荒野の中を突っ切ろうとした場合だ」

「そんな人いるんですか!? 魔物がいるんですよね!?」


 信じられないと叫ぶパルフェに、ラヴィは『分かる』と頷き、


「正直、良く出る。街道に沿っていけば、グレイ・マターの管理にある宿場に確実に泊る事になる。その出費を嫌がる商隊が最短距離を走りぬけようとする」

「普通に生息している魔物だと、安い護衛でもどうにかなるレベルだからな」


 そこまで聞いて、エリーの方はピンと来たようだ。

 ニヤっと笑って、


「ひょっとして、大きな商隊ほど嫌がる傾向にある」

「全部が全部って訳じゃないが……大勢の宿泊代と往復の護衛料金を秤にかけてって所だな」


 そして、グレイ・マターは特にそれを禁止する訳でもない。通り抜けてくれたのならば、魔物の間引きになる。そうでなければ――


「ようするに、持ち主のいなくなった荷物を調査の名目でかっぱらって来いって事だよね。この依頼」

「あの街は基本そういう所だ。たまにエゲつない依頼とか、後味悪い依頼が出るから気を付けてな」


 エリーは「大丈夫大丈夫」と手をひらひらさせているが、パルフェの方は少し良心が咎めるのか、良い顔をしていない。


「パルちゃん、大丈夫。見かけたらキチンと助ける。ゲー君は、無意味に見殺しにする人じゃない」

「そ、そう、ですよね」

「っつっても、基本的に安全第一だからな。ヤバい魔物の気配があれば即座に場所を記録して撤退。クエスト達成よりも、全員怪我しないことを優先してくれ」


 この場にいる全員はとっくに分かり切っていたが、ゲイリーとしては最低限の証拠を見つけたらさっさと撤退する予定だった。

 無論、生存者の痕跡があれば追いはするが……。


「でも、どこから調べるの? 宿場町を全部無視してるんなら、それこそ街道の向こう側から後追わないと駄目なんじゃない?」


 エリーが真っ先に意見を挙げる。

 ものぐさのゲイリーと、無表情のラヴィ、引っ込み思案のパルフェと揃っている中で、こうして思った事をポンポン言ってくれるエリーの存在は、ちょうどいいムードメイカーとなりつつある。


「あー、連中も全く闇雲に荒野を走るわけじゃない。大抵ここを通るって道があるのさ」


 ゲイリーは北部荒野の地図を、後ろに乗ってるエリーに渡す。その地図には街道とは別に、赤や青の色付けされた線が書き込まれている。それぞれ色の濃さが違い、中には紫っぽい線も混じっている。


「……こんなにあるの?」

「赤が濃い程本命のルート、そこから段々薄くなる程可能性が低い。紫が確立で中間だな。青い線は……ようするに危険ルートだ。濃ければ濃い程ヤバい。万が一そちらに続きそうなルートを見つけたら即撤退してアドミニに報告だ」


 図書館のクエスト白書から過去の似たような依頼とその結果から分析してみた。と事もなげに言うゲイリー。

 ラヴィも、『それなら安心』と一言で済ませている所から、かなりゲイリーの仕事を信頼している様子が伺える。


「これ、どれくらい時間かけたんですか?」

「結構かかったな。この二日、基本的にこの地図を仕上げるために無理言って図書館に泊めてもらってた」

「…………」


 たった二日で、このレベルの情報をまとめ上げたのかと、密かに戦慄するエリー。

 一目で分かるほどに、情報量の濃い地図だった。


「先輩」

「なんだ?」

「なんで働かないんですか?」

「働きたくないからだ」

「働け」


 何げに、初めて後輩からこの台詞が出た記念すべき瞬間だった。





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「お嬢様、この調子でしたら今晩中には第一層の結界修復は完了するかと」

「急がせて。そうそう大きな魔物が来るとは思えないけど、この街の生命線である事には変わりないわ」

「はっ」


 先日から、昼夜を問わずエマ率いる『派閥』参加の魔術師が結界の修復作業に入っている。

 アドミニからの協力要請もあったが、同時に教師陣と、そしてゲイリー達への貸しとするためだ。


(全く、彼の下には羨ましい人材ばかりが集まるわね)


 エマは、正直少し惜しい真似をしているな、と思いながら、自身のクラン・ベースの執務室で連絡員達を駆使しながら全体の指揮を執る。


(……その気になれば、パルフェをこちらの庇護下に置く事は可能。ゲイリー……そうね、彼の説得に少し骨は折れるでしょうけど、不可能ではない)


 それでもそうしないのは、他人の、それも比較的とはいえ真っ当な――真っ当になった男から、無理矢理人を取り上げるのは彼女の矜持に触るからだ。


「エマの姐御!」

「何?」


 今度は、筋骨隆々としたガタイのいい、日焼けした男が乱暴にドアを開けて入ってくる。彼女の傘下――ではないが、協力関係にある『生産職組合(ギルド)』の人間だ。


「悪いが、頭の回る奴を貸してくれ。妙な他のエリアのクラン連中が妙ないちゃもん付けてきやがる! 粗悪品なんざウチは絶対に売りに出さねぇってのに!」


 先日からこれだ。正確には、ゲイリーがクランを立ち上げた頃から。

 最初はちょっとした嫌がらせ程度だったが、今では連日昼夜を問わずに、エマが関係する様々な所で問題を起こしてくれている。偶然などでは絶対にないし、単独組織に出来る事でもない。


(そうよね……金の卵を産む存在を手に入れる邪魔をされたら、嫌がらせの一つもしたくなるものね)


 膨大な魔力持ちは、それだけで価値がある。

 例えばマジックアイテム。これらを作りだす頭が無くとも、過去の有効なそれらを『充填』することで『復活』させる事が出来る。それも、何度でも。

 戦争中には、食事、排便、仮眠以外の時は、ひたすら『充填作業』を酷使させられて発狂した魔術師が何人もいると聞く。


「わかった。すぐにこちらの交渉人を送り込む。それまでなんとか時間を稼ぎなさい。謝罪は不要。ただ、『待て』と指示をなさい」

「わかった。恩に着る!」


 よっぽど急ぎ、そして焦っていたのだろう。協力を得られたと分かるや否や、綺麗とは言えない一礼をして、嬉しそうに走り去っていく。


「お嬢様、お茶と軽食が出来ました。どうぞ」

「ありがとう」


 今度は奥から出て来たメイドが、絶妙なタイミングでティーカップとサンドイッチの乗ったトレイをエマの前に差し出す。


「まったく、ゲイリーには後で、貸し借りとは別にラヴィニアのフルコースと良いお酒を要求しなくてはね」

「出来れば、ラヴィニア様には我々に調理を教えていただきたいのですが……」

「これから機会はいくらでもあるわ。ゲイリーのクランとは、手を携える必要があるもの」


 互いにね、と。エマは、不眠不休で働いているにも関わらず、その疲れを一切顔に出さない。

 『お前も少しは見習え』と、(ゲイリー)を知る全ての人間が言うだろうセリフである。


「しかし、ここまでやってくれるとは……」

「私見ながら、金の卵を産む鶏(パルフェ)を取り逃がしたのですから、せめて何らかの利権を、と言った所でしょうか」

「それで、私の『派閥』を揃って切り崩そうと? 暇人ね」


 エマは、ここ数日でいちゃもん等の嫌がらせから、傘下に対して離間工作を図ってきた者達のリストに目を通す。


「ほとんどは捨て駒でしょうね」


 エマは、この一件の裏にはおそらく教師陣がいると見ていた。


「こう言うのもなんだけど、我々は可能な限り『真っ当』に派閥を運営してきたわ。だからこそ、疎ましい連中は多いはず」

「そういった派閥が後ろにいるのは間違いないでしょう」

「正確には、そういった連中を利用している奴が、ね」


 エマは、執務机の上に積んである束ねた書類の一つを手に取り、パラパラとめくる。


「ソイツの首根っこを引っ捕まえて、奪える物を全て奪い、有効活用するのが私達の仕事ね」


 懐から煙管(キセル)を取り出し、刻み煙草を雁首(がんくび)に詰め込み、指先から魔法で作った火花を飛ばして火を付ける。


「お嬢様、喫煙はお体に……」

「えぇ、だから回数を減らしてるじゃない。これくらいは見逃しなさい」


 つい先ほどまで食事とお茶を味わった舌は、今度はスモークの苦みを味わう。それをゆっくり吐き出しすと、今度は鼻で、煙の豊潤な香りを楽しむ。激務の合間の、ほんの僅かな休憩だ。

 ホントにゲイリーは見習え。


「どうせ、すぐ―」


 エマが、スモーキーな香りの余韻を楽しんでいると、「ドンドン!」と慌ただしいノックの音が鳴り響く。

 エマは、執事とメイドに『ほらね?』と苦笑を向けて、「構わない!」と入室を許可する。

 すぐに、旅装の上から迷彩模様の軽装備を身に付けた女が入り、その場に膝を付く。

 エマはこんな貴族っぽい事を止めてほしいのだが、全員が敬意を示す動作は必要だと意地でも続けている。


「申し訳ございません、エマ様。森の結界修復の援護に当たっていた偵察隊(スカウト)から報告が」

「魔物なら排除しろと伝えてあるはずだけど?」

「いえ、むしろ魔物は全く見ないのですが――」


 そして女は、懐から下げていた袋を取り出し、中身を取り出す。

 それは、血に濡れた包帯や短剣、裂けた衣類の一部なのだ。


「どうやら、負傷した何者かが、森の中を逃げ回っているようです」




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