行動
こんにちワン!(*'▽')
近々犬を飼うことになるかもしれない狐野葉です!
アニマルセラピーなどというものが私に通用するか…クックック、楽しみです。
それでは本編へ♪
ゾンビの襲撃を退け殲滅し終えたグランドには複数の穴が点在。その穴の中に殲滅したゾンビの血が流れ込むことにより重く濃い濃度の酸っぱい臭いが漂っていた。
そんな場所から少し離れた場所、校舎とは反対側にある金網にラボメン達は集まり話し合っていた。
「これからの行動方針についてだが、案のある者はいるか?」
声を発したのはその中でも二番目に若いおぎゃるという人物。身長は150センチちょっとという小柄な体型ではあるが、ギフテッド教育を受けた16歳にして、既に多くの博士号を獲得している天才少女だ。彼女を中心に話を進めることに異論を上げる者はいない。
「学校壊せば攻略完了じゃない?」
大胆な作戦を提案したのは驚異的な身体能力を有する能天気、ソル・ガレンだ。
そんな者の提案に対し、おぎゃるは考える間もなく首を横に振る。
「ソル、お前は荒療治が過ぎる。……第一、校舎内の者達はどうするつもりだ。管理者の破壊がここから出る方法ではあるが、先程のような管理者の破壊は意味がない。それを作り出している主要管理者の破壊が目的なんだ」
「だから学校が壊れれば下敷きになって動けなくなるじゃん。誰も死なないし作業が捗る、良い作戦♪」
「…脳筋ゴリラ、お前の常識をこっちに当て嵌めるな」
「ならもっと良い案出せよ、ただのゲーマーが」
「あ”?頭を使うことができない脳筋よりはマシだろ。火を付ける」
「なめてんじゃねーぞ。ゲームしか取り柄のない悲しい廃人が。酒タバコエロ本を投げ入れる」
「なめてんのはそっちだろ。学校がその程度で潰れるか。犯人を停学処分させて一件落着だわ」
「その言葉そのまま返してやるよ。火なんか学校に付けたら火傷しちまうだろ。人様の迷惑も考えろ」
いつもの口喧嘩が始まる二人。そんな二人を端に追いやりラボメン達は話を再開する。時間制限がないとはいえ、時間を無駄にするのは危険が伴う。話し合いに参加させるべきなのだろうが、ソルと多々羅を無視し今度は黒が答える。
「皆の役に立てなそうで心苦しいんだけど、僕とか恩タク君みたいに戦えない人はどこか頑丈な所に閉じ籠ってるのはどうだろ?自分で言うのもあれだけど、邪魔になっちゃうでしょ」
確かにそれは一理ある答えだ。斯く言うおぎゃるも、先程の襲撃でゾンビに捕まらなかったのは執事であるセバスが助けてくれたから。こんな世界に来てしまった以上、お荷物になるのも連れるのも双方共に御免こうむりたい。それはおぎゃるも感じていることだった。なら、黒が言ったように籠城作戦を行うのは良い案かもしれない。1つの問題を除いては。
「頑丈なところ、心当たりあるんデスカ?」
おぎゃるが口を開くより早くリリィが疑問を口にする。本人の顔を見ると、ここに来た時よりは顔が笑ってない。ゾンビに一度掴まれたことにより、多少恐怖を感じてしまっているのだろう。
それに対し黒の表情はこの仮想世界に来てから今に至るまで何の変化も無く、ゾンビに足を掴まれたことなど痛切にも感じていない様子だ。
「ん―ー。例えば、体育館倉庫なんてどうだろう。扉もそこそこ厚い鉄のはずだし、出入り口も一つ。そこだけ押さえておけば入られる心配はないし、仮に窓ガラスがあったとしても小さい上、上の方に付いてる筈だから外から入られる心配はない」
そこに籠城する上でのメリットを淡々と語る黒の顔には確信にも似た自身のある表情だ。建物を建築するときの配慮というものを理解しているがためだろう。
これだけのメリットが存在するのであれば良い案のようにも感じるが、多くの利点で1つ欠点を払拭できる訳ではない。ほとんどの場合がその1つの欠点のために消えない後悔という念を抱くことになるのだ。
それを理解しているが故に、おぎゃるは肩をすくめ否定する。そんなおぎゃるの判断に当然黒は「なぜ?」という顔をしているが、疑問を口にするより早く彼女は答えた。
「出入り口が1つ、守るのもその扉だけ、侵入は厳しい――聞こえはいいがそれはこう言い換えることもできる。囲まれたらそこから出入りすることができない、攻めることができないからゾンビが溜まっていく、侵入されたら終わり。――最悪のケースを想定できてない作戦は後にお前を追い詰めるぞ」
自身より若いおぎゃるに注意されてしまったことにより、あちゃーと片手で額を押え苦笑する黒。その様子からは、自身の提案が通らなかったことには別段気にしている様子は見られない。正論と認識できれば素直に納得できる性格なのだろう。
状況、意見をすんなり受け止められる者、“執着心が少ない”というのだろうか。それは現代社会というよりも人間という存在ができる前から数少ない人種だ。悪い意味でも良い意味でも存在するその人種は、この状況下において、ごたつくことが無いという意味で有難い存在と言える。
「――じゃあ他の案を考えるとき、僕は戦えない人として考えてね。邪魔にならないように努力はするから」
黒はもう何も案がないというように両手を軽く上げて後ろに下がる。が、そんな黒に疑問の声が掛けられる。
「ん、何を言ってるんだ?体育館倉庫に向かうんだろ?」
「…え?」
先程その案はおぎゃる本人の言葉で断られたではないか、というように黒は首を傾げる。
そんな姿におぎゃるは分かりやすく肩を落とし説明を始めた。
「私は確かにお前の提案を拒否した。理由は先程も言ったように先を見据えた作戦ではなかったためだ。ならどうするべきだと思う?」
問題について回答を求めるように質問された黒は、数秒間は真剣に考える素振りを見せるも、その後は断念し頭にはてなマークを浮かべるのみとなった。
それを見たおぎゃるは頬を少し紅潮させるも、仕方ないとでもいうかのように片手で口元を押さえ説明を続ける。
「フフ……その作戦に穴があるなら穴を消せるように補えば良いだろう。つまり、部屋に入って来られても大丈夫な状態にすればいいんだ」
「入られても?……迎撃できるように武器を準備しとくの?確かに体育館倉庫なら色々武器になりそうなのが――」
「黒さん、籠城作戦は敵に囲まれた状況下で建物を盾にして身を守る戦術ですよ。入られたら時点で作戦は瓦解してます」
おぎゃるの回答にリュカがフォローを入れる形で、黒の思考が先行してしまうのを押し留まらせる。
それを確認したおぎゃるは再び説明を始める。
「この作戦は第一に入らせないというのが手っ取り速い方法であるが、ゾンビ相手にそれは無理がある。壁を壊してやってくるかもしれない。数を生かして扉を押し倒しにくるかもしれない。穴を掘ってくるかもしれない。ならシステムでも発見できない隠し通路を準備しておけばいいとは思わないか」
引き籠っていたとしても何れ入られてしまう可能性が高い、ならシステムに把握されることのない逃げ道を準備する。
その作戦、それこそ無理なのではないかと思わざるを得ないものだ。
そもそもこの世界、ダストルームはウイルスを排除するための空間。ラボメン達とそれを掃除する存在が共存できる世界なだけであって、この世界に手を加えたらシステムに察知されるのにそう時間は掛からないだろう。
要するに、システムに気づかれない様に逃げ道を準備をすることなど到底不可能な上、下手すれば自分達の居場所をシステムに教える行為にしか成り得ない作戦なのだ。
「隠し通路って…逃げ道のことだよね。ばれないように作るにしても時間が掛かるし、何より作ってる途中でシステムに侵入されたら終わりなんじゃない?それに……いや、何でもない」
白無が疑問を口にし、最後に言葉が言い淀んだ理由は察しがつく。
おぎゃるが黒に注意した“最悪のケースを想定できてない作戦は後にお前を追い詰める”という言葉がそのまま彼女にも言えてしまうがためだろう。
隠し通路というのは敵から発見されにくいように隠してるだけであり、必ずしも発見されないという訳ではない。だからシステムに発見されてしまった場合は、その唯一の逃げ道が裏目に出てしまうのではと白無は言いたかったのだ。
だが、それを察せられないほど能無しではない。おぎゃるは子供らしからぬ、ふてぶてしくも鷹揚とした態度で答える。
「心配無用だ。使い捨てになってはしまうが鍵は既に持っている。後は閉まっているドアを開けるだけだ」
「ん、鍵ってなに?どこでそんなものを――」
「――あいつだよ」
おぎゃるの指差した方向に顔を向けると、そこには小声で未だに口喧嘩している二人の姿、ソル・ガレンと多々羅の姿があった。
それを見た被験者達は、数秒何を言ってるか分からないといった表情をしていた。そしてすぐに何を言っているのか想像ができたのか、何とも言えない微妙な表情に変わる。
「あの、もしかして……ソルさんが鍵なんですか?」
「あいつの身体能力は異常だからな。鍵くらいソルであれば容易に勤まる」
おぎゃるのその言葉に、自分たちが想像した通りなのだろうと確信し、各々が一部の不安を抱えながらも覚悟を決める。
そうして最後に伝えるべき話に移行した。
「―――ということなので、今後は先程説明したチームに分けて行動していくことで決まりですね」
ラボメン達はあの場に長居するのは危ないと考え、今は木の陰に身を隠すように移動して話を進めていた。行き先は、校舎の端に見える体育館だ。それも都合よく丈の高い木の群生が並木道のように繋がっているため、校舎からは姿を見られることなく体育館に着くことができるだろう。
「チームは<食料調達班>、<探索班>、<校内見取り図作成班>、<システム情報収集班>、そして体育館倉庫で待機してもらう<バリケード作成班>の5つ」
5つのチーム――
<食料調達班>。この世界において空腹で死ぬことはないが、心理的空腹感は伴うらしい。そのため、正常に物事を判断、精神を安定、疲労を回復という意味合いで食料確保は必須条件となり確率した。
<探索班>。その名の通りダストルームを探索し有益な情報を求める自由度の高い班。ただし、他の班が求めている物資を手に入れる、他の被験者達と遭遇した場合のコミュニケーション等の使命もあるため義務的要素の高い役割とも言える。
<校内見取り図作成班>。今回のステージは『学校』という場所ではあったが、それは学校というにはあまりにも大きい。見取り図を見つけるのが一番ではあるが、この世界ではそれを全て信じることもできない。そのため、校舎内を自らの足で探索し見取り図の作成を手掛ける非情に重要な役割。この班の作成した見取り図により、今後の行動方針は明確に決まっていく。
<システム情報収集班>。現段階において一番重要度が低い役割であり、一番危険な役割でもある。この世界のシステム、ゾンビの情報を得る班。これは多数のゾンビに気付かれない様に対峙しなければならないステルス性の高い能力が求められる。取り返しがつかない事態に陥った場合でも、その場の被害が最小限になるように行動しなくてはいけないため、過酷さとプレッシャーの伴う非常に危険な役割。
<バリケード作成班>。主に非戦闘員で構成される班。体育館倉庫に籠城し、作戦を練る、又は休養を取り他の班の者達が帰ってきたときには見張りを担って安全圏を確保するシンプルな役割。最初に始める行動としては、籠城する上で扉を差し固め、その手前にもバリケードを築くことだ。
「――この他に何か意見がある方はいますか?」
体育館を間近に後ろを振り向き確認を取るリュカ。そんな問いに全員が異論はないと各々が意思表示を示す。
「じゃあチーム分けは――」
「今決める」
リュカの言葉に被せるように未来は強い口調で言い放つ。その言葉の中に込められた意志は本物であり、揺るぎないものを感じさせる強い気持ちが含まれていた。
実際そのことは事実であり、何故急にそんな風に答えたか。未来は精神的に疲労していたためだ。
この世界に来てから既に数十分経過している。それなのにも関わらず、何も楽しく感じれないのだ。
初めての体験にはいつも、わずかながらも楽しさを覚えていた。だがこの世界に来てからまだ何も成し遂げていない上、何もできていない。つまり、未来を精神的苦痛に追い込んでいるものの正体は“暇”という感情だ。
この世界での死が現実に直結するというのに呑気なものだと感じるかもしれない。でもその考え事態間違っているじゃないかと内心疑問を抱いていた。
現実世界でも歴とした死が存在する。その上でこの世界はその死をゲームに再現しただけに過ぎない。逆に「かくれんぼ」のルールのように『見つかったら死』等という理不尽な死が存在しなかったことに親切だとも感じる。
(同じ光景を数十分、もう見飽きた。早く自由行動させてくれ)
20歳を迎えた者が子供のようにソワソワとした情けない態度を取ることはない。しかし、未来は真剣な眼差しをリュカに向け、目で自身の解放を訴える。そして、リュカが優しく微笑み「ええ、勿論です」と頭を縦に振るのを確認すると同時に、心の中のガッツポーズをとった。
「そうですね。中の様子が分からない状況下では、安全が確保できてる今の内に決めておくべき、ということですよね」
(………え?)
「そんなに目で訴えなくても伝わりますから安心してください」
人を称賛するようなリュカの物言いに、未来は顔を伏せ目を瞑り考える。こういう場合は、真実を伝えた方が良いのか否か。伝えた場合は双方共に少し損する気がする。伝えなかった場合は双方共に得する気がする。故に――
「…じゃあ、僕は<探索班>でよろしく」
――はぐらかす。深読みすればどちらの意味とも取れる言動により、その場を切り抜ける。
そんな未来の言葉に何を思ったのか、リュカは静かに微笑みチーム分けを開始した。
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<食料調達班>
・うけ
・ニッコリ
<探索班>
・未来
・白無
・葵
<校内見取り図作成班>
・おぎゃる
・セバス
<システム情報収集班>
・リュカ
・多々羅
<バリケード作成班>
・黒
・恩タク
・リリィ
・みけ
・ソル・ガレン
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『Real Total Comprehensive High-performance Virtual World』
~Weapon(武器)~
『名称』
【妖刀村正】(レア度:B)
『能力』
【飢えた刀】Lv1
【血の残痕】Lv1
『装備』
無し
『名称』
【フェンリルの嚇牙】(レア度:A++)
『残弾数』…36発
『能力』
【尾撃双牙】Lv2
【繋縛嚇牙】Lv2
『装備』
【サプレッサー】A+
次回から未来視点で仮想世界探検が始動!!今後のラボメン達の行く手を阻むのは何なのか!
ダストルーム攻略がようやく始まります。
あれだけ強いのにどんだけ慎重なんだよ!?と思った読者様、次回から始動いたします。
今後の未来の活躍、楽しみに待っていて下さい。
それでは今後ともごひいきに。