混乱
こんにちは~(^^♪
先日『Twitter』なるものを始めてみました狐野葉です!
ツイートというのをやってて思ったこと。
「思ってること載せれるって気持ちいいね」
では、本編へ!
もし、仲間を殺すのを前提で仮定を立てるなら、その者はどんな行動を起こすのだろうか。
冷徹な奴であれば、足手纏いを消しに掛かるかもしれない。これは強者であるから選べる選択肢だ。生かすも殺すも己の自由、殺しの世界では一番の立ち位置にあるといっても過言ではないだろう。では弱者であった場合はどうするのか。強者を最後まで利用し、助かる確信を得た時に隙を伺い牙を剥く。それが常套手段だろう。自身の弱さを知恵と忍耐で補う賢い者の戦術。
だが、その場所にはそのどちらも当てはまらない行動を起こした者がいた。彼は強者でも、ましてや賢い行動をしてるようにも見えなかった。そういった者はどうなるのか。麻薬のような瞬間的な快楽を求め、進んで身を滅ぼす。ただそれだけだ。
「た、多々羅ァあああああああ!!間違っているのは、お前だろおおがあああ!!」
恩タクは恥ずかしげも無く真っ赤になった顔で怒声を辺り一面に撒き散らし、多々羅に突進していく。どう見ても話し合いが通じる状態には見えない。
そのため、多々羅はやむなしとフェンリルの嚇牙の銃口を恩タクに向ける。ただし、本当に撃とうとしたのではない。
先程の短い戦闘でこの銃、フェンリルの嚇牙が脅威なことはソル・ガレンを除く誰もが理解できたはず。そんなものを自身に向けられれば少しは目が覚めるだろうと思っての行動だった。
勿論、それだけで解決するなどと馬鹿みたいな決め付けはしていない。仮に怯むことがなく、突進、または斬りかかってきたとしても、遅い恩タクであれば十分に対処できる。今自分が一番に気を付けなければならないことは焦らないこと、そう考えていた。
しかし、その多々羅の行動は裏目に出ることとなる。
興奮による脳内麻薬のようなもので恐怖心が麻痺しているのか、恩タクは銃口が自身に向けられたの確認した瞬間、妖刀村正を振り上げ勢いよく投げてきたのだ。その投げられた抜身の刃は真っすぐに多々羅に飛んでいく。
「まッ…!?」
体は動かなかった。恩タクが妖刀村正を振り上げた時点で“投げてくる”というのは危険信号のようなもので理解できていた。理解できていたが、そのときには時すでに遅く、刀は恩タクの手から離れていた。予想していたがゆえに、予想外な行動に体が硬直してしまう。
そんな多々羅に容赦なく白刃が迫り――
「…返上します」
多々羅に刺さることなく恩タクに白刃が飛んでいく。
目の前で起こったのはなんなのか、アドレナリンが大量に分泌されていたであろう恩タクも驚愕のあまりに凍り付く。それは一瞬の出来事であり、常人が為せるわざとは到底思えないほど現実離れしたものだった。
多々羅に妖刀村正が刺さりそうになる瞬間、白無が刀の嶺(※刃の背の部分)を踵落としして刀が空中で回転する。更に空中で勢いよく回転していた刀の柄の頭(※握る先端)を蹴り飛ばしたのだ。
刀は一切のブレも無くまっすぐに恩タクへと飛んでいく。このままいけば確実に恩タクの腹部に妖刀村正が突き刺さることとなり、更なる問題を生むこととなるだろう。それを理解している上で白無の顔に一切の迷いはなく、ただただ冷たい視線を恩タクに向けていた。
そして――妖刀村正は誰に刺さることもなく停止する。リュカが恩タクに突き刺さる前に柄を掴み取ったのだ。
流石の白無もそんな光景を見た瞬間、目を丸くし固まる。
「…ねえ」
その一言だけで、白無はリュカの抱いてる感情を理解する。それは“怒り”というよりも“ド怒り”。
こんな話を聞いたことがある。心がとても綺麗で美しい者程、怒った時の素性は恐ろしいものだと。白無は直感した。今がその時なのだと。
「さっき言ったばかりよね、仲間同士で争わないでって…貴方たちは無視するの?…私、とっても悲しいなあ」
リュカはまるでペンを扱うかのように妖刀村正を片手で弄び、語り掛けてくる。一介の女とは思えない異様な光景ではあるが、彼女の顔は最初に見た時と同じく優しい笑顔のまんまだ。しかし、本人が気付いてるか定かではないが、眼は全く笑ってなく危ないオーラを感じさせる何かがちらついている。
「い、いや、その…多々羅君が危ないと思って、ね…」
白無はその場の空気を悪くしないようにと言葉を選んで発言したものの、顔が引きつってしまっているのはどうしようもできなかった。
そしてリュカはその返答に多々羅と気絶してしまっている恩タクを一瞥し、再び視線を白無に戻す。表情に変化はない。
「もう~、今度はちゃんと理解してくださいね。なんで恩タクさんに刃を飛ばしたんですか…私が聞いてるのは動機じゃなくて、その理由です。八つ裂きにしますよ?」
リュカの口から“八つ裂き”という言葉が出てきたことに衝撃をを感じ、ラボメンとセバス以外の者の思考が一瞬停止する。今まで見てきた女の中には、下品な言葉や酷い言葉を使っている者は多くいた。だがそれらの言葉自体には重みはなく、気に留める必要のない空っぽなだけの暴言だった。
それに比べてリュカから発せられた言葉には嫌というほど緊迫感を感じ取れる重みが存在している。それも、そんな言葉を容姿が良く、天使のような優しさを持ち合わせた女が発したのだ。初めて知った者にとっては非常に酷な現実であるだろう。やはり天使は存在しなかった、と。
「白無さん?」
「…え!?いや、え、えと………申し訳ございませんでした」
名前を呼ばれたことにより真っ白い世界に入り込んでいた白無は我に返り、そしてあまりのリュカの怒気に気圧され、苦笑いをした後、即座に土下座した。というよりも、それ以外の選択肢はないというように体と口が動いたのだ。
「…賢そうな白無さんなら理解していただけると信じてました。脅し文句のような生意気なことを言ってしまいすみません。お立ちになってください」
白無の瞬時の行動が功を奏したのか、リュカからの怒気は消え去り、いつもの清純な彼女がそこにいた。
ここまでの人数に見られながらも変わり身が早い彼女には感心しかない。とはいえ、自身を立たせ、砂まで払ってくれる彼女は、元から許す気でいたのか、単に人に甘いだけなのかは分からない。
「多々羅、ゲームでは最強だったお前も、仮想世界では形無しなんだな…お疲れ」
「脳筋は黙ってろ、馬鹿」
「心配してるんだから~。そういうこと言っちゃ駄目だよ~」
後ろから聞こえてきた緊張感のない声に振り向くと、多々羅がソル・ガレンに弄られ、それをニッコリが窘めている様子が目に入る。
どうしてそんなに落ち着いていられるのか、白無はラボメンという組織に興味を持ち始めていた。特に『未来』という一人の存在に。
(…凄いな、未来君。その名のとおり未来が見えていた、もしくは予測した、か……じゃあ、もう気づいてるかな)
やっと解放された。
多々羅による闖入のおかげで恩タクの説得役から外れることができた未来。さっきまで億劫に感じていた気持ちが嘘のように消え失せ、少しだけ綻びを見せてくれた自由な一時の解放感に浸る。
(有益で充実した時間…気持ちいいな)
そんなことを考えていると、丁度自身の真正面の木に小さな穴が開いているのが目に入る。どれくらいリアルに動けるのか、そんな些細な疑問を抱き、足元にあった小石を踵落としで跳ね上げ蹴り飛ばす。
ゴン。
小石は空中に綺麗な放物線を描き、10メートル近く離れている木の穴に鈍い音を響かせ収まる。
この仮想世界に来てから感じていたことだが、ゲームの中とは思えない程のリアルな再現力に、改めておぎゃるを称賛する他ないと感じる。
まあ、そんなことをおぎゃるに言ってしまった日には、サービスタイムに強制連行となるので、滅多に言うことはないのだが。
「た、多々羅ァあああああああ!!間違っているのは、お前だろおおがあああ!!」
気持ちいい感情に耽っているところに、厚かましい怒鳴り声が耳奥に響き、未来の向上していた感情は一気に鎮静化する。
「…朴念仁」
腹が立った、やっぱり気絶させた方が…、そんな考えが頭に浮かんでくるが、あんな品性の欠片もない者の近くに行きたくない気持ちも生まれていた。
離れていく恩タクをぼんやりと眺めながら思案し、ふと違和感を感じ取る。
その違和感が何なのかは分からない。それでも未来は直ぐに周りを見渡し、警戒する。多々でさえ今のメンバーの空気は緊迫してしまっている。これ以上プレッシャー掛けられて錯乱する者が出てきたら時間の無駄もいいところだ。
そんな堪え難い事態を避けるため、未来は雑音を遮断し、瞳を凝らす。
木の陰には何も存在しない。グランドにも。金網の向こうからやってくる気配も感じられない。
やはり周りにはシステム対象となるものは存在しない。未来は心の中で無意識に笑みを浮かべる。
(仮想世界に来てからそんな経ってないのに、用意周到なことで)
未来はその場から離れ、声を張り上げる。
「皆その場から離れろ!」
この仮想世界で姿を見せたのはパンデミック映画等で登場する兵器、ゾンビに酷似していた。ならばゾンビ特有の習性も酷似していると考えられるのではないだろうか。
――“墓地から這い出てくる”――そんな習性が。
「ウァア、アア!アア、オアァアアア!」
予想は的中。足下の地面が一瞬に割れ、ゾンビが勢いよく手を伸ばしてくる。
しかし、ゾンビが飛び出す瞬間、未来を含む10人がすぐにその場から走り出していたため難を逃れることに成功する。が、逆に言えば、4人がゾンビの手に掴まれてしまったということだ。
「お兄!助けてー!」
「ちょッ!?まま待って待って!僕本当に体育会系じゃないから!10円あげるから!」
「キャアアアアア!離して!離してよ!離しなさいよ!」
「……………」
まだ小学6年であるみけは涙目で助けを求め、黒とリリィは必死に抵抗するも、ゾンビの出てきた穴に引き摺り込まれつつあった。
そして、気絶している恩タクは放漫な体型が幸いしたのか、下半身までは引き摺り込まれているものの、腹が穴につっかえそれ以上引きずり込まれる様子はなかった。
「みけ!」
うけはみけと手を繋いでいた手を小さな体に回し、引き摺り込まれないように踏ん張る。
今回穴から出てきたゾンビは肉付きが少なく、皮肉が骨に吸着しているだけの瘦せこけた印象が伺える。そして、その見た目通り、死体の臭いというよりも、腐った肉の臭いを漂わせている。骨の浮いた身体に、ボロボロになったその姿。優勢なのは明らかにうけ達の方に見えるだろう。
「――――ッ!?」
だが、そんな弱弱しい外見と裏腹に、引っ張ってくる力が尋常じゃない。必死にみけの体を引くが、徐々に穴の中に引き摺られつつある。
大切な妹が穢れた化け物に連れていかれそうになっている。そんな状況に焦りが思考を塗りつぶし、手に嫌な汗が滲んでくる。
人間はまだ進化の過程にあった時、凹凸の多い自然の物を使っていた。当時は手汗をかくことにより道具が滑ることを防いでいたが、現在はその体質が仇となっている。
そのため一気に引き剝がすのは危険が伴い、できればやりたくない。だからといって無理に引き剥がそうとすると――
「――お兄!痛い痛い痛い!!足切れちゃう!」
ゾンビの指先が異様に尖っており、無理に引くと妹の足に突き立っていくのだ。まるで、じわじわと追い詰められていく獲物をゆっくりといたぶって楽しんでいるかのようにも感じられる。たちが悪い。
うけは滑りそうになるのを一心不乱に堪え、瞬時に片手を離し、尻ポケットに刺さっているペンを取ろうとする。
「――ッ(ない!?しまった、ここは現実じゃ――!?)」
焦りのあまりに忘れていた。ここが現実世界でなく仮想世界であることを。
うけはすぐに離していた手を戻そうとするが、それを見計らっていたかのように、ゾンビの引きが強くなる。完璧なタイミングで隙を突かれたうけはバランスを崩し、みけを庇うように前のめりに倒れ込む。
妹を庇った態勢であったため肩を強打し激痛が走り抜ける。それでも意志の力で妹を離さず、急いで起き上がろうと――
「うけ、動くな!」
後方から多々羅の声が聞こえた瞬間、ゾンビの両肩に何かが撃ち込まれ、撃ち込まれた内部から爆発したかのように肉片が飛び散り、ゾンビの腕が千切れ飛ぶ。
うけはゾンビの返り血と肉片を被るが、みけは兄の腕により守られ比較的綺麗な状態のままだ。そんな妹を気にし、うけは出来る限り体に触れないように抱きかかえはしたが、みけはしっかりと兄にくっ付いてきた。
「ぅあ……ヴァガアアアアア!」
そんな間にも、両腕を吹き飛ばされたゾンビは体を引き摺りながら速い動きで穴から這い出てくる。逃した獲物を再び捕まえようとボロボロの歯を剝き出しにし迫ってくる。
うけはそんなゾンビを冷静に無視し、急いでその場から走り出し距離をとる。妹を抱えているとはいえ、ゾンビは体を引き摺っているため此方の方が速い。それに、先程助けられたように此方には頼もしい仲間がいることを思い出し、不安は和らいでいた。
そしてそんな期待通り、後ろのゾンビの部位が弾けるような音が響き渡り、迫って来ていたゾンビの音は消える。
ここまで頼もしい仲間に、先程の醜態を晒してしまった。そんなことに悔いを感じながらも、他の者達は大丈夫なのかと周りを見渡す。
最初に視界に入ったのは自身と同様に多々羅に助けられているリリィの姿。その周りではゾンビを片手に一体ずつ持ち、自身の武器として無双しているソル・ガレンの姿だった。
後者の異様な光景に目を奪われ掛けそうになるが、視界を動かすことによりそれを防ぐ。皆、特に黒と恩タクの安否が確認できていない。危ないようなら助けが必要だろうと思っての判断、これ以上情けない姿を見せる訳にはいかない、と自身の心に固く誓う。
だがそんな心配も杞憂に終わる。
黒は既に助けられていたらしく、怪我も無い様子だ。ただどうやって助けられたのか、濡れていない箇所がほとんど見当たらない程の赤黒い液体で体を汚していた。傍から見たら、ただのゾンビにしか見えない。
ゾンビの手から逃れられた者達は少し離れた場所で何かを話し込んでいる。その傍には気絶したままの恩タクも転がっているが、怪我を負ってないのか放置されていた。
兎にも角にも最初の襲撃で犠牲者が出なかったことにホッと胸を撫で下ろし、多々羅の元に向かった。
「わるい、取り乱した」
多々羅の元に駆け寄り、助けてくれた礼と謝罪を言う。これは至極当然の行為ではあるのだが、こんな世界の中だと軽い言葉にしか感じられず、罪悪感が強くなる。一言でいうなら“足を引っ張っている”という事実が胃を締め付けるような痛みで満たすのだ。
しかし、多々羅はうけのそんな心を見透かした訳ではないながらも、長く付き合ってきた仲間である。仲間を支える、そんな綺麗な言葉で飾るのではない。いつものように接する、それが多々羅という人物だ。
「スぺラプレパラベリルポポ(簡易復活の呪文だ)」
礼と謝罪の返答が謎の言葉。うけには何を多々羅が伝えようとしているか全く分からなかった。なのに多々羅の眼は此方をジッと見つめ待っている。非常に気まずい状況だ。
とにかく早く返答せねば、と返す言葉を探すが見つからない。そこでうけは口を開いた。
「……スぺラプレパラベリルポポ(取り敢えず真似しておこう)」
謎の言葉を言われたならば、謎の言葉で返せばいい。日本人の仲が良い者同士が交わす謎の会釈システム。この原理がどうやって生まれたかは知らないが、大抵の場合はこれで乗り切ることができるはずだ。
その証拠に多々羅の眼は笑っている。みけの方はというと……目が据わっていた。
「ようこそ、二次元ザ・ワールドへ。これで君も二次元の仲間入りさ」
「お兄、変な世界に行かないでね」
「………」
今度こそ、返す言葉が見つかることはなかった。
ラボメンの前に再び現れたゾンビを排除するも今後の動きはどうなっていくのか!学校探検!
『ブレインロック現象』というのを読者の皆さんは知っていますか?
脳が死を意識すると寿命を待たずに天に出荷されてしまうあの現象です。
恩タクが気絶で済んだということは、生への執着は強いのかもですね♪
それでは今後ともごひいきに。