精神錯乱
コンニチハ('◇')ゞ
壁の角に足の小指をぶつけた時の痛みを想像すると悪寒が止まらない狐野葉です!
今思い出すだけでも…ゾクッ( ゜Д゜)!?
そ、それでは本編をどうぞ~(汗)
――うおっ!?
一瞬の浮遊感を感じ、心の中で驚きの声を上げる。
AIに準備が整った事を伝えた瞬間、その瞬間に部屋の全員が転移されたのだ。
ゲーム等に出てくるどんなキャラクターであっても、行動を起こす時には予備動作が存在する。現実であってもそれは同じだ。
それが普通となっている現実に於いて、AIの何の予備動作のない行動は、予想はしていなかったが予想外だった。
その証拠に、転移された全員――セバスを除く――の顔は少し挙動不審になっている。
「「「………………」」」
「…あのさ、真面目な話、さっきから何なん?精神的ダメージが半端ないんだけど」
「フッ、ホラゲ(※ホラーゲーム)の中じゃ、これが日常。この程度で音を上げてるようじゃSAN値(※どれだけ理性を保持、耐えられるかの値)が持たないぞ」
「ねぇ、ここって学校だよね?僕はてっきり、電脳世界みたいなのを想像してたんだけど、何で現実?」
白無は二人のいつも通りの会話をスルーし疑問を口にする。
ラボメンが転移された先は三階建ての学校のグランド。
校舎の大きさは視界に入る限りでは横に300メートル以上はあり、グランドには運動部が使うようなコートが点在。そして、それらを放射線状に取り囲むような金網が存在し、その奥には普通の町が広がっていた。
そんな風景をセバスに抱えてもらいながら観察していたおぎゃるは、白無の疑問に素早く反応する。
「ハハッ!それは天才である私が分かりやすく教えてやろう!まずウイルスにはウイルスの活動出来る場所があり、人間は人間の活動できる場所があるだろ。ウイルスを処理するのはウイルスに近い存在であり、処理する側もそこで活動できなきゃいけない。つまり、私達の知っている場所が舞台となり、システムは私達に近い、または想像できる姿でこのダストルームに存在するはずだ」
嬉々とし自信満々の様子でおぎゃるが説明をする中、それは現れた。
“ドンドン!ドンドン!!……バリーン!!”
校舎の方から、硬い何かに肉を打ち付けるような音が響き、1階のガラスが割れる。
そこから出てきたのは二つの影。外見は人型ではあるが、先に来た者達でないのはその場の誰もが理解できた。
理由は簡単。今回のVRMMORPGでは募集する対象にある条件があったからだ。そして、その条件というのが“対象が学生でないこと”である。そんな条件とは相反し、校舎から出てきた者達はボロボロではあるが学生服を身に着けている。結果、相手はシステム側の存在と判断した訳だ。
「ほらな!私の予想通りだ!わはははは!!」
「いや、今笑う状況じゃないよね!?」
高らかに笑い出すおぎゃるに白無の鋭いツッコミが入る。
「ヴァァァ――」
月夜の明かりに照らされ、全員の眼にはっきりと映ったのは、肌は青白く、目は赤く染まり、体を真っ赤な液体で濡らした男と女。その者の口から発せられる声は、まるで呼吸で声帯を刺激され出てきただけの意味のない言葉だ。
それらはまるで、生と死の狭間にいるものを具現させたような存在――『ゾンビ』と酷似していた。
「ふぅああああ!?な、な、何なんだよあれ!?」
そんなシステム――ゾンビの登場と共に、今まで静観を決め込んでいた一人の男が悲鳴にも似た声を上げる。
肥えた――もっと正確かつ簡単に言うならでっぷりとしているその男は、顔に大量の脂汗を浮かべ、目をこれでもかという程見開いている。
仮想世界に来てから落ち着いている風を装ってはいたが、ここにきてそれが崩れた男の名は「恩タク」。被験者の一人である。
あー、仮想世界に来てから騒音ばかり…勘弁してくれ。
未来は恩タクを吹っ飛ばしそうになるのを押し止め、内心頭を抱える。
これは未来だけでなく大半の者が抱いた感情でもある。
何故なら、今いるこの世界は敵の敷地内。そんな場所で情報が欠如している中目立つ行為をしたらどうなるかは想像に難くない。どんな状況に陥っても最後は正常に働く思考、判断力がものを言うのだ。
はっきり言って、今の恩タクは恐怖という感情一色に染まった顔をしている。思考が正常でないのは明らかだ。
更に補足するなら恐怖というものは、他人に伝染する。これは、人間が昔から集団で暮らしてきたからこその反応――集団心理というものだ。1人でパニックになる分には構わないが、複数人が恐慌状態に陥ると危険性が一気に高まる。
その上、助かったとしてもその者同士で変な結束を固め仲間割れするという面倒な事態になる場合も考えられる。
これらのことにより、精神的二次被害も後々考慮する必要が出てきたのは確実。……お荷物とは、本当に厄介だ。
「お兄…怖い」
恩タクの恐怖心による声に煽られ、みけはうけの体にそっとしがみつく。そんな不安を抱えてしまった自身の天使を宥めるため、うけは優しくみけの頭を撫でる。
「妹よ。皆がいる、何よりこのうけがいる。みけのことは絶対守るよ(…あ、死亡フラグ)」
「お兄……仮想世界を出たらみけのおこずかいで何か買ってあげるね!」
「うん!楽しみにしてるよ!(何?この神がかったフラグ形成…何か泣けてきた)」
うけはみけが落ち着いたことにひとまず安心する。が、またも人を不安にさせるような声が周りに響き渡る。
「お、おいそこの銃持ってる――多々羅とか言ったか!それで早くなんとかしてくれ!」
恩タクはゾンビの姿に怯え、切羽詰まったような顔で多々羅に言う。その姿はまるで雷を知らない犬がそれを見て吠え散らかしているように見える。
そんな恩タクの様子にその場にいる者達は流石に距離を置きたい気持ちに駆られるが、声を掛けられた者は無視する訳にはいかない。
多々羅は仕方なく恩タクの方へ向き直り、優しいと思える声で話し掛ける。
「えーっと、恩タク…さんでしたっけ?まずは落ち着――」
「こっちはいいから!早く!早くゾンビを何とかしてくれ!」
「えー…あー…うん……んー…はー…」
多々羅の温情によるカウンセリングは、ものの数秒で終わりを告げた。
確かに、確かに未知の生物をリアルで目にすると怖いのは分かる。その気持ちを分かってもいい、分かってあげてもいいのだろうが、ゾンビとの距離はまだかなり離れている。さらに動きも遅い。ここに到達するまでに落ち着いて分析する事ができるぐらい余裕がある。
…そうであるのにも拘わらず、必死の形相で訴え掛けてくる恩タク。流石にこの落ち着きの無さに理解できない多々羅は考えていた行動選択の優先順位を変更する。
最初にゾンビの掃討。システムを分析できないのは惜しいが仕方がない。後回しにはなるがまた後で実験すればいい事であると自身の気持ちを納得させる。
次に恩タクの心を鎮める。正直とても面倒だと思いはするが放って置くわけにもいかない。だが、もしこれが無理であったなら強行手段…恩タクを沈めるしかないだろう。乱暴すぎる?……気にしない、気にしない。
――頭の中で考えをまとめた多々羅はゾンビを見据えると、他にも幾人もの視線が此方に向いているのを感じ取る。その視線が誰の者達のか見当はついていたが、一応視線だけ動かし周りを見ることにした。…やはりラボメンが同情の眼を向けていた。
可哀そうだと思ってるなら恩タクを何とかしてくれ、と吐露しそうになるのを我慢する。
正直何故俺が恩タクの為に!と思いはするが、ここで私情を挟む者はただの餓鬼でしかない。そんな事は多々羅も大いに理解しているのだ。
多々羅は内心溜息をつきつつ、フェンリルの嚇牙を構える。そして――
「あーたまァっ!」
多々羅が引き金を引く前に、ゾンビ1体に顔と同じくらいの大きさの何かが投擲される。
投擲されたそれは、ゴオーッと普通では出ないような音を立てながら圧倒的スピードで飛んでいく。
そしてそれが男ゾンビの頭部に着弾した瞬間――水袋が弾けたような音、固い何かが一瞬にして粉々になる音が素晴らしく生々しいハーモニーを奏でる。効果音を付けるとしたらドパバギギョン!という感じだ。
投擲されたゾンビの1体は首から上が無くなり、首の断面から鮮血が緩やかに流れ始めたところで倒れる。体は時たまにビクッビクッと動くが起き上がってくる様子はない。初システム処理完了、である。
そんな結果を見届けたソル・ガレンは片手を頭に置き、片目を瞑り笑う。
「――やりすぎちった」
そう言いつつも照れてる。そう言いつつも満面の笑顔。…うん、全く思ってないね。
「お前、何やってんの?」
多々羅は真顔で質問する。
「石投げた」
ソル・ガレンは笑って答える。
敵地で、それも見渡しの良いところで音を出すことが、どういう事を招くか分かってねぇ…やっぱ脳筋だ。
そんな事を心のメモに書き込むと、視界の端で葵が妖刀村正を構えるのが見えた。
恐怖に負けじとゾンビに向き合うその姿は大和撫子宛ら勇敢な剣士にも見える。
兎にも角にも、被験者の中に進んで動ける者が居たのは喜ばしいことであり、ありがたい。が、そんな覚悟を決めてくれた葵には申し訳ないが、フェンリルの嚇牙の試射をしたい訳だ。
ここで頼りになるのはやはりラボメンの一員。葵に向けていた視線を盗み取ったのか、リュカが葵を制してくれていた。
そんな計らいに(視線を盗み取られたのには悪寒を感じたが)感謝しつつ、再びフェンリルの嚇牙を構え――
「ヴァアアアアアアアアアアアア!!!」
――咄嗟に、とでも言うのだろうか。多々羅はフェンリルの嚇牙で残りの1体、急に叫び出した女ゾンビを撃った。
銃弾はピュピュッという乾いた音をその場に残し、ゾンビの胸部に命中…そして爆散する。
胸部の肉が抉れ、露出した体内から大量の真っ赤なそれが噴き出し、女ゾンビは何の抵抗もなく崩れ落ちる。…その場に残ったのは風が運んでくる微かな異臭と静寂だけ。
「……あー、すぐに倒せたけど、まじビビったわー(…リコイル(※撃った時の反動)がキツくなくて助かった)」
「そうだね~。ここに来てからドッキリ系が多くて、ちょっと~辛いものがあるよね~」
多々羅の独り言にニッコリが同意する形で答えてくれる。
振り返ると、現実でも爽やかだったニッコリの笑顔は今も健在だった。
その名に恥じぬ笑顔、流石である。…まあ、その笑顔を他の表情に変えてみたいという悪戯心が心内で燻りはするが、それはしない。しない…しないよ?……また後日考えよう。
ゾンビ2体を処理したことにより、恩タクの精神状態はひとまず落ち着きを取り戻した。
しかし、だからと言って、この場でゆっくりとしている訳にはいかない。一難去ってまた一難。この場に自分達がいるという情報がシステムに漏れているのは明白。さらには自分達が立っている場所はグランドの真ん中。無駄に時間が過ぎれば囲まれること必須の場所なのだ。
それならばと見通しの悪い場所、狭い場所に行こうとするのは早計。そんなことを実行する者はただ自殺願望者でしかない。
なら、どこに移動すれば安全なのか……そもそも、こんな事を考えている者はラボメンの中にはいない。当たり前だ。敵地に自分達が安全に行動できる場所など存在する筈がない。早く自身の安全を確保するにはダストルームのシステムを破壊するしかない。AIの話で分かり切っていたことだ。
ここは機械的な死と生物的な死が蔓延る世界。いや、仮想世界。
現実では己の保身を守る事が長寿の秘訣。
だがこの仮想世界は、己の身を犠牲に戦わなければ生き延びる事ができない世界なのだ。矛盾はしているがそれは認めざるを得ないここの現実。
そして、それを理解せず早死にする者を出さない為に、ラボメンは一人の重たい身体を動かそうとしていた。
「恩タクさん!別に全員が戦えって言うことじゃないんだから!ここに居たら危ないよ?」
訴え掛けるように言ってはいるが、目の前の巨体は動こうとしない。昔の自分なら血祭りにあげていただろうと思う未来。
だが、暴力でひれ伏させても意味がない。自身の意志で動くことができないのは、この世界だとお荷物以外に他ならないと確信しているからだ。
最悪、いつまでも動かないような意志を感じたら気絶させて連れていく、というのが多々羅の考えらしい。
悪手であると言わざるを得ないが、人道的な方法としてはそれしかないのも事実。ただしこれを決行した場合、問題となるのは、気絶から目覚めた後の恩タクの行動だ。何をしでかすか分かったものではない。
「あんな所に行くなんて馬鹿じゃないのか!?君達の眼は節穴か?あれを見てみろ!」
恩タクは校舎の方に指差し訴える。
未来はウンザリしながら顔にはそれを出さず、校舎の方に視線を向ける。その視線の先――校舎の窓には何体もの不気味に動く影があった。
「あんな校舎に行くなんて君達は正気の沙汰じゃないよ!…落ち着いて考えてみてくれ。あの校舎の中にはもう他の人達が来てるんだろ?なら目に付きやすいここなら他の皆が気付いて合流できるだろ。それにここなら広いから急に襲われる事もない。さっきみたいに落ち着いて対処できる。戦力増加、安全確保、即対応もできて一石三鳥じゃないか!」
成る程。ではお前は少人数は寂しいから皆で仲良くゾンビに囲まれたいと。乱行パーティーに飢えているんだな?…いいだろう。お前の脳がどういう風になってるか頭を割って確かめようじゃないか。その後は黄泉への先達者として軽蔑を払って徒花でも飾っておいてやる。勿論、お前の脳漿ぶちまけてな!……そんな事を有言実行する筈もなく、未来は落ち着いた面持ちで説得を続ける。
「…恩タクさん、此処で待ってるってことは何もしないって事だよね?――校舎の中は凄いね。あれだけゾンビいたら、外の様子を見る余裕も無いんじゃないかな?仮に見つけて貰えても、此所まで来て貰うまでが危ない掛けなんじゃない?――これは、他人任せ過ぎると思いませんか?」
先程の恩タクの熱論から真意を話しても理解してもらえないと感じた未来は、恩タクの意見に賛同した形で意見を述べる。
普通の場合ならここまで不平である事を明かされれば納得せざるを得ないだろうが、今は普通の場合ではない。何と言っても自身の命というチップで、天へのビザが買えてしまうのだ。それも永遠の。
だからそれぐらいのことでは恩タクの信念は曲がらない。曲げられない。
「で、でも、まずは自分達の安全確保を優先するべきだと思うんだよ。この世界に安全な場所は無いかもしれない…でも、あの校舎内よりはマシだろ!」
「それは――」
「なんだよ!まだ分からないのかよ!?僕は皆を心配して言ってるんだぞ!?それに僕があんな意味の分からないのと戦える筈がないだろ!!」
あー…ほんとなんで説得役やってんだろ、僕……
未来は内心そうぼやきながら次の言葉を考えていた。
そもそも何故周りにラボメンがいるのに未来しか説得してないのか?――それは未来が病院の精神科に通院していたという事実が理由である。
ゾンビを掃討した後恩タクをどう手懐けるか相談していたのだが、気づいた時には「カウンセリング経験者なら、直ぐに心を通わせられるはず!」という結論に至り、カウンセラーという難役は未来に任命された訳だ。
当然、本人の意志は“説得はしても心を通わす気は無い”というものである。
「戦闘は極力避けるから心配いりません。それに見つかっても何とかしますから」
戦闘を避ける?校舎なんて限られた空間で避けることなんてできる訳がない。
何とかする?我ながら説得が適当になってきてる…。
未来は冷静に自身が言った言葉を分析し把握する。――説得すると言いつつも心が説得を面倒くさがっている自分がいると。
そして、その考えをさらに肯定させるかのような罵声が飛んで来る。
「あのさー…さっきからしつこいんだよ!ここでは個人の意見も反映されないのか!?僕は校舎には行かない!!――そもそも僕はこんな世界に来たくて来たんじゃない!お前らのせいだろ!機器の安全管理がなってない状態で人を実験体にしやがって!死にたいなら勝手に死ねよ!!」
刹那、未来は考えることを放棄し、固く握りしめた拳を恩タクの向けて振るおうとしていた。反射的に体が動いていたのだ。
そして――
「……やめた。カウンセリングで殴る方法、無かった」
未来は固めた拳を解き、説得失敗をラボメンに伝えるため恩タクに背を向け――
「そーーーい!!」
ああ、何をしてるんだろ……
その時だけ時間がゆっくり進んでるような感覚に囚われ、自身の視界に映った光景をはっきりと捉える――多々羅が暗い笑顔を携え、恩タクを殴り飛ばしてる風景を。
「うブホッ!?」
恩タクは手で顔をガードするでも身を屈めて顔を守るでもなく、無防備な状態で多々羅のパンチを食らい、後ろに倒れ込む。
「未来、甘やかしちゃ駄目だよ。強弁を放れる奴には一発殴ってやった方が良いんだから。じゃないといつまでも学習しないぞ?」
拳を用いる教育方針と言うのだろうか。そんなニュアンスを込めて語った多々羅はまだ拳を固めている。顔も先程のままだ。
未来はそんな多々羅を見て苦笑し、騒がしくも頼もしい仲間に感謝する。
「それはどうも」
恩タクは自身の眼前に拳が来るのを理解できたが、何分体が重い。運動というよりも、動くこと自体あまりやってこなかったため、避けるに避けられない。防ぐに防げなかった。
そして、鈍く重い衝撃を左頬に感じた瞬間、視界が急速に横に流れる。
――次に目を開けた時、自分は地面に倒れ込んでいた。突然のこと過ぎて頭が現状に追いつかなかった。動揺していたのだ。ほんの僅かな時間、頬の痛みを忘れるくらいに。
「……あ…あぁあぁあああああああ!?!?(痛い痛い!痛い痛い痛い痛い!くそ痛い!?)」
「恩タクさん、これで少し頭冷えたかなー?ほんとこれに懲りて止めてくださいね。もしこれ以上チームをかき乱すなら――“風穴開けるぞ”」
多々羅はドスの利かせた言葉を最後に発っしたところで、近くまで歩み寄って来ていたリュカが咳払いをする。
「んん!仲間内で争うのはそこら辺で切り上げて。…そして恩タクさん、確かに恐怖するのは仕様がないことです。でも、チームワークを乱したら元も子もないですよ。今は取り敢えず冷静になって下さい」
恩タクは殴られた頬を手で抑えながら俯く。その姿はなお一層情けなさが増すばかり。
しかし、あそこまで自分勝手に暴走したのだ。大半の者が、そんな姿を見せられても同情することは出来ない。
だが、お人好しである葵は違った。唯一恩タクの傍に駆け寄り助け起こしたのだ。
「大丈夫ですよ、皆で助け合いながら一歩一歩現実に近づいていきましょ。協力しあえば皆、助かり─―きゃっ!?」
愚者、馬鹿、ゴミ…何とでも言い表せる行動――男である恩タクは女である葵を突き飛ばした。
そう。これが大抵の人間の選択。怒りに塗り潰された者は、たとえ救いの手が伸びてきたとしても容易く払いのける。自身の感情を静めるために。
「た、多々羅ァあああああああ!!」
故に恩タクは葵の持っていた妖刀村正を引ったくり、多々羅に抜身の刃を向けて走り出す。
血塗られた世界で早くも仲間割れ。そして多々羅に襲い掛かる恩タク。果たして仮想世界でのラボメンはどうなるのか!
男性の読者の皆さんは女性を突き飛ばした事はありますか?
女性の読者の皆さんは男性に突き飛ばされた事はありますか?
因みに男である私は、女性に日常の中で裏拳を食らわされた事があります…。顔面直撃…あれはヤバかった( ;∀;)