終わりの始まり
こんにちは~(ノД`)・゜・。
最近は寒いですよね。だから布団を愛するようにしました。狐野葉です!
(これなら、非リア充にも恨みを買わなくて済む最高の打開策!…だよね?)
それでは本編をどうぞ~(^^♪
~平成28年 3月13日~
外は晴天、太陽は既に南の空に昇り、まだ冬の肌寒さが残るものの遮るものがない空の下は暖かい気温に包まれていた。学生は春休みという微妙な短期休暇が近づき複雑な気分となる時期。また社会人は翌年度の計画、準備、人事異動を控えてる者にとっては更にストレスを高める要因でしかない時期。
しかし、学生でも社会人でもないフリーターの彼ら、ラボメン(ラボのメンバー)は或るマンションの広い一室に居た。そこは一言で表すなら「汚部屋」。書類のみが散らかっている部屋だが、最初に入ってきた者には汚い部屋にしか見えないだろう。
だが、これはある少女の習慣の現れなのだ。最初は一緒に活動する仲間の彼らも片づけようとした。が、この建物の主である彼女、おぎゃるに批判されてしまうのだ。彼女曰く「尚だ人間の知能は愚鈍なカテゴリーにあるのか、どうしてこの計算された配置が分からない?」や「弄るな!後で整理する事になるのは私なんだぞ!?」等と罵声を飛ばすに値する行為をラボメンはしようとしていたらしい。
それでも、綺麗好きな男女にとって納得できない事で、このやり取りが数日続いたものだ。おかげで当時は研究が余り進まず疲れるだけの日々。つまらない理由で開戦した激しく長い抵抗戦、最終的に根負けしたのは綺麗好きの一派だった。おぎゃるの必死な抵抗と、最終的に泣かせてしまった罪悪感に負けたのだ。おかげで綺麗好き一派も今ではすっかり部屋に慣れてしまっていた……その部屋だけ。
「お嬢様、リュカさんがお帰りになりましたのでお連れしました」
声と同時に部屋の扉が開かれ、二人の人物が入室してくる。一人は白シャツの上に黒ベストと黒スーツを着用し黒パンツを履いた男、セバス。もう一人は少し厚手のワンピースを着た女、リュカ。
「ただいま!」
リュカは歩きながらラボメンの方向に明るく声を発するが、誰の返事も返って来ない。これは、珍しい事だ。いつもなら、誰かが帰るたびに「おかえりー」等の軽い挨拶が返ってくる。が、今日に限ってそれは起きなかった。それ程までに、ラボメンの意識は何かに集中しているということだ。…まあ、リュカは皆が何に集中しているか見当は付いていた。「親しき中にも礼儀あり」という考えは捨てきれないが、仕方ないと思い、今回だけはそれを免除する。何故なら、今まで研究し続けたものが完成したのだから。
そんな事を思いながら、彼女がある程度彼らに近づいていくと、ラボメンの一人がようやく気付く。否、元より気づいていたが反応できなかったのだ。社会人としては失脚になる行為とも見れるだろう。だが想像してみよう。自分が仕事ではなく趣味に没頭している最中に声を掛けられたら正確に判断し、すぐに反応できるだろうか。もし正確に聞き取れたとしても、反応が遅れてしまうだろう。つまりはそういうことだ。
「リュカさん、セバスさん、お帰り~。少しぼーっとしてたかもしれないや~。大学は午前中で終わったんだね。ほらっ、丁度これについて話を膨らませてたところだよ~」
そう答えた男の名はニッコリ。どこか抜けた感じの雰囲気があり、穏やかに此方に誘うその仕草はとても安心感を与える印象がある。つまり、天然そうで優しい男の印象があるという事だ。ニッコリの言葉に呼応し、ラボメンの全員がリュカに軽い挨拶をしてくる。そんな様子にリュカは苦笑し、ラボメンの輪に入る。
「多々羅は明後日開かれるPS VRのプレゼンテーションの話してたけど、行くの?」
そう切り出したのは未来。今では病院に通院する事もなく、このマンションに住んでいるただのフリーター。年を重ねる度に新しい記憶が埋め込まれていき、それと相反し過去の記憶は薄くなっていた。それでも、どこか平凡とは違った世界に焦がれる思いは、何年経っても変化しなかった。
「行く筈がないだろ。俺達は明後日、もっと凄い事をす、る、ん、だ、か、ら、よ♪」
未来が多々羅と呼んだこの男、自称天才ゲーマーと名乗っているお調子者ではあるが、確かにゲームのテクニックは全国に並ぶレベル。それ以外は至って普通だが、最近変わった事といえば、ある男に運動を手伝って貰っていることだろう。
彼らラボメンは些細なチャットルームで知り合い、普通とは違う世界、安直に言うなら「刺激」を求めた者達だ。それは、6年前におぎゃるがラボを創設し本格的に動き始める。
最初はオフ会をした切っ掛けで研究室に通うようになった。だが、当時は「学生」という身分がそれを頻繁には許してはくれなかった。だから、自立する頃にラボメン全員がこのマンションに住み込むことになったのだ。その6年間の間に色々な出来事があった。開発物で入院、遊びで入院、運動で入院、勉強で入院、料理で入院…等々だ(因みに研究室はこのマンションの地下にある)。
そんな様々な問題、事件と直面しながらも、研究は着々と進み、遂にラボメンは完成させた、仮想世界、VRMMORPGを。
「いやー、最初おぎゃるを見た時、迷子の子供?って思ったけど、本当にやってのけるとはねー」
「ソル、私に会った時そう思ってたのか」
「ソルさん、幼気な女の子なんですから、ちゃんと褒めないとですよ~」
「ニッコリは子供扱いするな!私はもう16だぞ!」
いつもの楽し気なこの空間。でも、いつものなんていう停滞した時間はこれからも続くのだろうか?
未来は、初めてラボメンに会った時の事を思い出す。初めて顔を会わせた場所は貸切飲食店。チャットでいつも呟いていた未来、ソル・ガレン、ニッコリ、リュカ、うけ、みけ、おぎゃる、多々羅の8人が集合した。おぎゃるを見た時は、子供の悪戯と考え皆が落胆したものだ。お陰で男達による説教という名の口喧嘩が勃発し、何故か最後は男達が説教される立場になっていた。そんな些細な出来事から今に至ったのだ。こういう時は皆で喜び、皆で祝賀会を開きたい気分になっているだろう。
しかし、未来は目的の物が完成した喜びよりも、それとは異なる何かを感じていた。胸の内がざわつく…という感覚だ。どうしてそうなっているのかは未来自身にも分からなかった。高揚しているのか、緊張しているのか、心配しているのか、将又何かを恐れているのか…。
だが未来は感情を面には出さないようした。どんな組織においても場の空気を読めない者は悲しい結末を迎えるものだ。例えば、楽しい宴会の最中に他の客とちょっとしたトラブルが起きたとする。お互いに謝罪し直ぐに解決を図るのが無難な対応だろう。だが、そこで大声で罵声を飛ばす奴が居たらどうなるかは予想に難くない。勿論、ラボメンにそんなクレーマーが居ないことは分かっている。それでも、未来は内心の心境よりも周りの喜んでいる雰囲気を満喫することを選んだのだ。
「うけ兄!うけ兄!すごいね!すごいね!楽しみだね!」
「そうだな!明後日、僕達は仮想世界にいるのか…うへへ」
「楽しみなのは分かるけど、自分の妹の前でそのニヤケ顔はどうかと思うぞ……おぎゃる、ちょっとした好奇心なんだけど、脳を使うVRMMORPGって言ってたよね、一体どういう仕組みになってるか説明をお願いしていいかな?」
未来は場の空気を壊さない様にオブラートに包んだ質問をする。そんな質問に他のラボメンも気になったのか、好奇心に満ちた目でおぎゃるの方に向き直る。するとおぎゃるは、深い溜息をつくと共に頭痛がするとでも言うように自分の顔を片手で隠す。だがラボメンは不快には思わなかった。理由は簡単。顔を手で隠しきれておらず、にやけて喜んでいる顔が丸見えだからだ。
「全く仕方ないな、諸君は。そんなに気になるんだったら教えてやろう。まず、人の脳から生じる電気、つまり脳波を利用するんだが、その中のα波がスイッチとなる。私が開発したこのヘルメット型の機械は微弱な電気を流し脳波とのインターフェイスという役割をする。これでα波に接続すれば、目を閉じてリラックスするだけですぐに仮想世界に行ける訳だ。だが、それだけでは浅い意識であるためすぐに現実へと覚醒してしまう。そこで、α波と接続した後、今度はβ波とδ波をON・OFFと切り替えられる様に接続させる。こうする事によって強制的に夢の中、つまりは仮想世界に入れる訳だ。しかしこのままだと脳が壊れる可能性が極めて高い。そこで!この首輪型のインターフェイスの出番という訳だ。眠ってる間、五感を仮想世界の情報として使用する。だから脳への負担は軽減されるセーフティーの役割にもなるということだ。ここまでがこのVRMMORPGについての仕組みだ。次は仮想世界の仕組みを説明しよう。まずヘルメット型&首輪型インターフェイスを用いてRNAウイルス、つまりレトロウイルスを情報伝達手段として応用する。そして、レトロウイルスにVRMLのようなものを上書きすることにより、インターフェイスを用いて、直接自分の脳内に映像を写し出す。ここまでは、視覚と聴覚の情報を再現出来ている。残りの触覚、嗅覚、味覚の再現は、視覚と聴覚とサブリミナル効果を使う事により、シナスタジアを強制的に全員に起こさせて解決だ。これを一言で説明するなら、“コントロールの効くマインドウイルスを使ってる”という感じだな。どうだ、分かったか?」
説明に一段落がつき、おぎゃるは良き生徒の理解の返答を求めた。が、生徒達からの返答は無言。その空気の静けさは空しい程に彼らの心境を語っていた。当然、そんなラボメンを見た彼女は気持ちはガッカリしていた…のではなく、興奮していた。普通は自分の考えが他人に理解されない事は寂しく悲しく感じることだろう。だが彼女の考え方は、「理解できない者は、徹底的に理解させたい」という可愛らしくも皮肉めいたものだ。実際、他のラボメンにとっては悲しいことだろう。何と言っても、大人の彼らが、中学生の彼女の考えについて行けなかったのだから。
そしてそれは未来も同様。質問したのにも関わらず1つも理解できなかった不甲斐無さに落胆し、これから起きる事に諦めかけていた。そう、それをラボメンの間では『サービスタイム』と呼んでいる。それは学生でいう補習。だがその補習はおぎゃるが眠くなるか、その者が理解できるまで終わらない苦行時限。因みに最高補習時間は12時間という馬鹿げた実績が存在するが、これまでの補習で理解できた者は居ない。更に、質問した当事者が理解できるまで詰め寄るしつこい教師が居るように、先程未来はおぎゃるに質問してしまった。そのため、確実にそのサービスタイムに出席することになるだろう。極めて希望は薄く、覚悟が必要なことだ…抵抗はするが。
そんな事をラボメンの面々が考えている中、おぎゃるが再び話始める。
「そうだな、諸君にはさっき言った結論を教えておこう。まず、痛みを感じると言っても精神的なものであるということ。そして、あまり大きな痛み、つまり痛みという情報信号を送る事はこのインターフェイスでセーフティーとしてロックされているから心配ない。安全性を考慮して、ウイルス侵入、被害、増殖を防ぐためにダストルームを作ってある。そこに多大なシステムを使っているから、私達が行く場所では情報処理能力が不足するというわけだ。これは現実の私達が仮死状態にならないために必要な事でもある。そして…ん?」
おぎゃるは目を閉じ、頭で内容を整理しながら説明したため気づかなかった。未来、リュカ以外のラボメンが寝てしまっていた事に。そんな彼らを見た彼女は、ふと思う。
やっぱり寝顔が可愛いーー!ほんとやめられんな、これは!
彼女は「寝顔フェチ」という変わった習性があった。
~平成28年 3月15日~
その日は仮想世界を満喫する日…だったのだが、満喫どころか、作業に駆られる一日となっていた。あたりは既に暗くなり、19時を回った頃にようやくインターフェイスのセッティングが終了した。
そこは、どこにでもある普通の体育館。それどころか体育館内には何十人もの人が存在した。そう、仮想世界体験を実行するのが遅れたのはその人の多さが原因。ここまで多くなければ体育館などという場所ではなく、マンションの広い部屋等を使っていただろう。
…そもそも何故ラボメン以外の人が仮想世界を体験する事になったのか。その理由は至って単純。「被験者が多ければ、得られるデータも多くなる」というおぎゃるの意見からだ。彼女の考え方だと、自分が開発しなくても仮想世界は十数年後には衰退している産物になっている。だからもっと先の世界に進むために「現実はつまらないだろ常考」というチャットルームに入ったことのある人だけを被験者として募集したのが事の発端だ。結果、50人近くの人が集まり、インターフェイスが足りなくなってしまったという事だ。
「疲れたー、まじニートにやらせる事じゃないってこれ。…つかソル、お前よく体育館なんて貸してもらえたな」
多々羅は溜息をつきながら体育館の貸切に成功したソル・ガレンに話しかける。
ソル・ガレン、自称運動の天才と名乗る阿保であるが、その運動能力は化け物じみた性能を持っていた。そして、そうであるが故に学生時代は暗い過去となっていた。そうであるが故に今を楽しんでいた。
「ふっ、俺は学生や先生から人気者だからな」
ソル・ガレンが言ったように、彼は学校の生徒の外部顧問をやっていた。
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『回想』
・生徒の前で先生の車と競争、勝者ソル・ガレン
・サッカーで生徒全員と試合、勝者ソル・ガレン
・野球の試合でピッチャー…、多数のトラブルにより勝者無し
このような事を全て挙げるとキリがないが、ソル・ガレンは適度な運動に満足していた。生徒どころか先生まで憧れの目線を送ってくれていた。と、思っているのはソル・ガレンだけだった。
実際は、生徒と先生が協力してソル・ガレンを敗北させようとしていたのだ。
「いいか!!あんなちゃらい男でもできるんだ!負けたくない生徒は日々の鍛練を怠るな!」
「うおー!!ぜってい、ぶっ倒す!!」
そう言って生徒共々は日々ソル・ガレンを観察し弱点を探していた。
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「生徒皆が俺を熱い眼差しで見てくれたよ」
「そっか。…おっ、おぎゃるが演説するみたいだぞ」
インターフェイスの準備が終わり、後残るはこの体育館に来てくれた被験者に注意事項を言うだけとなっていた。もっと正確にいうなら、機密保持契約のようなものだ。そのため、体育館のステージでおぎゃるが説明する事となっていたのだが…。
「え、えーっと、あ、集まってくれて、えと、その、か、感ちゃっ!?痛っ!」
おぎゃるは緊張で言葉を噛みまくり、最後は自分の舌を噛んでしまったようだった。そんな様子を見た被験者は不安になる者、不満に感じる者、また愛らしいと思う者等で様々だ。
唐突ではあるが、ラボメンはここに集まった者達とチャットでは話した事はあったが、実際に会って話したのはこれが初めてだ。更におぎゃるに関しては学校に通っていなかったため、知らない大勢の人の視線には慣れていない。つまり、人見知りなのだ。
どうして、そんな者を説明役としてステージに上がらせたか。本人が言ったのだ。どちらが上の立場であるかわからせる必要がある、と。
もうここまでの様子を見せたらどちらが上かは明白だろう。おぎゃるが華奢な少女、被験者が少女を見守る大人達という具合に。
「…あいつ、大勢の人の前だとてんで駄目だな。ニートの俺でも出来んぞ」
「この人数は大勢っていうか?」
そんな時、その様子を見ていた執事、セバスは紳士然とした動きでおぎゃるの元に歩み寄り、頭を撫でて慰める。たったそれだけの行為だけを見ただけだというのに、その光景は女は勿論、男まで魅了させるオーラを感じさせた。
そしてセバスは、少女の代わりに注意事項を話し始める。
「まず初めに皆さん、この度はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。前々から私共が求めた仮想世界をようやく完成させる事ができました。 これも全て皆様の助力を持ってして成しえたものと考えている次第でございます。そして、ここで再確認しますが、これを世間一般に言い触らさない事をお約束下さい。これは、現段階では細かい作業が多過ぎるため、また、使い方によっては危険な代物になるためで御座います。これを、約束出来る方はインターフェイスを着用しても構いません。最後に、皆様は同じ意志を固めた同志とお嬢様からお聞きしております。…これで私からは以上です」
末恐ろしい。ラボメンが感じたのはそんな思いだった。まず、被験者から助力を得た覚えも無いのに感謝する行為。無知を曝け出す行為ではあるが好感を持たせる言動。更に最後におぎゃるへのフォローを入れるかと思えば、世間話のように切り上げたその所業。過保護な者ならその後に「この子は人見知りですがどうか同じ意志を持つ者同士仲良くして下さい」等のような言葉を繋げるだろう。だが、セバスは敢えてそれを言わない事により、彼女への威厳を保ち、彼女への危険予防と偽りの関係予防を施したのだ。その行動は正に主人に忠誠を誓い仕える執事の誉れ。見事である。
セバスの説明が終わると被験者の不安や不満は消え去り、愛着の一色に染まっていた。そんな周りの様子におぎゃるは赤面し、セバスの後ろに隠れるのだった。
数分後、マットの上に横になりインターフェイスを全員が着用するとカウントが始まる。
『3』
「俺の神ゲーマーとしての武勇伝を刻むとき!」
「ゲームでも体が動かせるならこっちのもんよ!」
「昨日は楽しみで寝れなかったんだ~。今はぐっすり~」
「お兄、あたしも昨日は眠ってないんだよ。凄いで…zzz」
「みけ、まだ若いんだから、ちゃんと寝なきゃ…zzz」
『2』
「う~、舌が痛い」
「さっきあげたお薬、即効性だからすぐ楽になるよ」
「リュカさん、お嬢様の為にいつもありがとうございます」
『1』
「ここ数年間の時間も悪くなかったけど…いよいよか」
『βシステム…始動』
ここから僕達の、終わりの始まりだった
遂に完成させた仮想世界、VRMMORPG。次回の物語は仮想世界で始動。
ようやく次回は本編らしい本編に入りますね。小説家としては胸が高鳴ることウキウキなのです。
どうぞ、次回の物語までお楽しみにして下さい。
それでは今後ともごひいきに。