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18.再開

 翌日、朝食を取り終えた後、シルバから襲撃に関する詳細を調べ終えたと報告を受けたので自室に戻って調査内容を聞いていた。


「まず事件が起こったのはごく最近の事のようです。

 ウィレム様がギルドの調査で取り締まりについていた時期に初めての襲撃が行われています。

 それから数日間襲撃をしている様子はなく二度目の襲撃が行われてから連日続けて商人が襲われております。

 襲撃回数は最初の一回と襲撃再開してからの四日間に7件行われていて計8件となっております」


 一昨日の段階で6件だったから昨日も2回襲撃があったのか。


 それにしても盗賊の襲撃を起こす頻度が多いな。

 自分達の生活の為なら最初の一回目の様に襲撃から何日か休んでも十分に問題ない筈なのにこんな間髪入れて襲撃する意味はあるのか。


「襲撃を受けたのはすべて城へ荷物を運んでいた商人です。うち3件が街の店にも荷物を運んでいましたが現在店を休んでいます。

 どれもアファネでも大きな店ですが三店だけですので街には被害は出ていないそうです。

 そして城への被害ですが一番被害に遭っているのは食料類、次いで文房具類が不足しだしていているようで手の空いている者が街へ買い出しに行っている状態です。

 また被害の中には貴族から発注された品物もあり注文した品を取られた貴族達からの苦情の声が上がっております」

「動こうとする者は?」

「自ら動こうという動きは今のところ見られません。ですがそれは被害が下級貴族にしか及んでいないからであって今後も動かないというのは保証はできません」


 食料が不足しているのは一昨日の段階で聞いていた。

 城で消費の多い文房具も昨日城に帰ってきた際文官の連中が騒いでいた。


 貴族の注文した品なんてどうせ貴族の見栄の為に買った宝石や壺、額縁なんかだろう。

 そんなものは興味ないので別に気にもしないがそれで私兵を出して暴れられて場を乱される。ややこしくなるのでこのまま大人しくしていてもらいたい。


 そしてここで新しい情報が上がった。


「盗賊の調査の方ですが」

「っ!」

「盗賊は確認された数は20名。それを率いているのは”バガンリュース”と呼ばれる男だそうです」

「バガンリュースってどんな奴だ?」

「……ウィレム様は知りませんか。バガンリュースは数年前まで城に勤めていた騎士でございます」

「それじゃあ貴族なのか?」

「いいえ、しがない農民出だそうで一般枠から入団しておりまして、先日リエラも逃げたあの第三騎士団の試験にも耐え抜いた猛者です」

「あれに耐えたのか!?」

「その為入団試験当初から将来有望と太鼓判が押され、騎士団の中でも実績を残していたのですが腕前以上に問題行動が多い男で騎士同士の仲も悪く騎士団では浮いた存在だったようです。

 最終的に護衛対象である身分違いの貴族の娘に手を出そうとして退団させられました」


 まだ見ぬ盗賊の頭のイメージが一瞬で女誑しへと格下げされた。

 今の心境を細かく説明すると凄腕の剣士で問題行動が多くて現在盗賊をやっているって言われた所までは、がたいのいいヤクザで顔に傷があったりなんかしている男を想像していた。特に第三騎士団の入試に耐え抜いた事はそれだけで猛者認定できる程の偉業だが最後の退団理由で腕がいいただのチャラ男のイメージへと変わった。


「退団後に即牢屋に入るはずでしたがバガンリュースは捕まえる前に気づいて逃走。娘を泣かされた貴族の親が報復隊を作って逃亡したバガンリュースを追いかけましたが結局逃げられたままとなっていました。まさかまたこのアファネに戻って来るとは」

「その貴族がまた動くことは……」

「ないとは言い切れませんが被害に遭った娘は押し倒されて迫られはしましたが別に純潔を奪われたわけではなく大事には至っていないですし、現在は無事結婚を終えていますので大丈夫かと」


 そう、押し倒したの……なんかどんどんと評価が下がっていくな。

 その後はこれまでの盗賊たちの行った襲撃の詳細の話に移った。


 最初はアファネ周辺は魔物も弱く安全だからと護衛2人だけしかいないで抵抗もできずに奪われた。


 2,3件目は襲撃まで間が空いていたので盗賊が出たという話がすぐに入り5,6人と護衛の数を増やしたが相手の人数にやられてしまった。


 4件目は数で駄目なら質で勝負とAランクを三名雇ったが全滅。バガンリュースと凄腕の護衛がいるというレオナさんの話にでた経緯となった事件だ。


 5件目は盗賊なんてどうにかなると高を括ったアホ商人で1件目同様抵抗もできずにすべて奪われた。


 そして僕が被害に遭った商人を見た6件目。それなりの人数を雇ったが20名に囲まれ荷物を大半奪われながらも(荷台を3つ中2つを奪われている)戦闘はせずに逃げてきた。


 この6件目で盗賊の数の多さから城は昨日ようやく守備隊を街道の循環警備につかせる様に手配した。


 しかし7件目は守備隊の来る前に事が終えられ、8件目は守備隊が駆けつけることに成功したが返り討ちに合い向こうには負傷者も出せないまま8名が戦闘不能という惨敗で帰ってきた。

 まだ半数以上は残っていたが一人を相手にこの様では撤退もやむ無しだろう。


 守備隊を出した成果はその場にいたお頭の顔を覚えていた者の証言でバガンリュースだと判明した事ぐらいだ。もう一人の凄腕はローブで姿を隠していて男か女かもわからず子供のような背丈だったと言う者もいるそうだが情報があやふやで信憑性に欠け特定には至っていない。

 Aランクを二人一遍に相手にできる者なら名の通った実力者の中から該当する者がいそうなものだが。


 盗賊たちの拠点だが目下捜索中だそうだ。


 バガンリュースの評価はともかく盗賊としてはやり手の集団の様なので解決までまだ時間が掛かりそうである。



「それで今日はどうされますか」

「部屋でのんびりしてるよ」


 シルバはそれを聞いて安心している。


 僕はそんなシルバから顔を反らしニヤリと笑う。

 当然情報収集の為にウッドロックやビグルに会いに行こうと思っていますよ。

 部屋に籠りっきりは昨日だけで沢山だ(結局アルティアに連れられて街には出てるけど)


 この日はシルバが用事があるとかで不在だから念を押しているようだけど大丈夫!シルバのその期待は裏切らないよ!


 シルバがいなくなってから外へと抜け出すのに時間はそんなに掛かんなかった。




「それで一人で街に来たのかよ」

「悪いか」

「悪いだろ!……ウィレム様の事は大将として認めたが王族が護衛を付けずに出歩いてるって時点で問題大ありだ」

「まあまあ気にしない気にしない。あっ、ミューちゃん」


 こめかみを抑えるウッドロックを尻目に後ろからやってきた娘のミューちゃんに近づき頭を撫でる。

 ミューちゃんはまだ4歳だからか無邪気で可愛い。


「おいウィレム様、うちの娘に何していやがる!」

「なにって頭撫でて可愛いから抱っこしてあげただけですが」

「うちの娘が可愛いのは認めるが野郎が触るのは禁止だ」


 ウッドロックは紛れもない親バカだ。

 娘の為なら店に来たお客さんが困っていたとしても娘を優先するぐらいの事は平気でする……らしい。

 その間に奥からウッドロックの奥さんがやってきた。


「あなたお客さん来てるわよ!」

「だが……」

「ウィレム様に触られるならいいことじゃない。そのまま使用人として雇われれば将来安泰よ」

「ぐぬぬ……」


 ついでに奥さんにも弱い。

 奥さんに詰められたウッドロックさんは一瞬でやり込まれていた。


「ウィレムお兄ちゃん」

「なに?」

「これミューが作ったの可愛いでしょ」


 見せられたのは木々でできたウサギのおもちゃだった。

 不格好ではあるがウサギだとはっきりとわかり4歳が作ったとしては非常によくできている。

 流石商人の子で手先が器用だ。

 よく出来ていると褒めると嬉しそうに笑う。


「おいウィレム!表に出ろ!」


 ――――――ビシッバシッゴキッ


「ウィレム様これからも娘と仲良くしてやって」

「……はい!」


 突っかかってこようとしたウッドロックさんがピクピク痙攣して倒されていた。

 やっぱりどこの世界でも夫より妻のが強いのだろうか……。


 その後ウッドロックは戦闘不能で使い物にならなかったので奥さんに盗賊について聞いたが目新しい事は特に聞けなかった。


「ウィレムお兄ちゃん、バイバイ」

「また来てくださいね」


 母娘に見送られて店を後にする。

 店を出た後もウッドロックの悲鳴が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


 気を取り直して次はビグルの所にでも行くかと思っていると見知った姿が視線の先に入った。


 商人達と一緒にいた獣人の女の子だ。

 耳や尻尾は隠しているがこの顔を見間違う事はなかった。


「ねえ」


 僕が声を掛けると身体をビクつかせながら振り返って僕の顔を見てまたお前かという顔をする。

 覚えていてくれたみたいだ。


「覚えててくれたんだ。どうかな、この前言った護衛の話、働いてみる気にはなれない?」

「お前、前に自分を王子様とか言ってた」

「うん。僕一応王子だよ」

「ならなぜこんな街中に護衛の一人もつけないで歩いている」


 あぁ、確かに城から抜け出しているから護衛は付けていない。

 貴族でも護衛位付けるのに一人もいないのはおかしいよな。


 痛いところを衝かれる。


 この日初めて護衛を連れないで街を出た事を後悔した。

 そもそもついていたら外出できなかったのでどうしようもないが。


「ちょっと訳があって……」

「お前は嘘吐きだ」

「あっ、ちょっと」


 女の子は強引に去って行こうとして僕は慌てて女の子を追いかける。


「僕本当に王子だよ。ちょっと調べ物をしていて城の兵士の目を盗んで街に情報収集できたんだ」

「そう言って奴隷にして売るんでしょ」

「奴隷?そんなことしないよ。まだ動かせる手勢も少ないし君みたいな強い子が欲しいんだ」

「…………」

「今は最近商人を襲っているっていう盗賊を探しているんだ。君がいたあの商人を襲った一味」

「……っ、消えろ」


 その瞬間女の子の気配が変わったのを感じた。

 殺気の混じった気配。これ以上近づくなという女の子からの忠告だ。

 それでも僕は分かっていて話し続ける。


「分かった。……それでも僕は君が欲しい」

「…………っ!お前は!」

「だから近日中に僕は盗賊を捕まえたらまた君を勧誘しに来る」


 僕の一方的な宣言に女の子は目を丸くして珍獣でも見る目で見返してくる。


「なんでそこまで私を……」

「そんなの決まっている。その力が欲しいからだ。僕の傍に置きたいと思ったからだ。

 一方的だろうと僕は君を勧誘することを止める気はない。力ずくでも君が欲しい」

「……勝手ね」

「だから僕は次に会う時までに盗賊を捕まえて誠意を見せる。それまで判断は保留のままでいて欲しい」


 女の子の瞳をまっすぐに見つめ僕は君が欲しいのだという気持ちを精一杯伝えた。

 

「勝手にすればいい。どうせ無理だろうけど待っていてはあげる」

「ありがとう。必ずまた会いに行くよ」

「……………ふんっ」


 今度こそ女の子は去って行った。

 その背中は一瞬で街に溶け込み見えなくなる。

 しかし前とは違って言うだけ言ったので心残りはない。


「よし咄嗟でも宣言しちゃったし頑張ろうか」


 女の子の事を思い出す。


――――やっぱりあの子はかなりの腕を持ってそうだ。

――――たぶん今を逃がしたらもうあんな子捕まらないな。


 それから予定通りビグルに会いに行って盗賊の手掛かりになりそうな情報を聞き込みしていった。




 ◆




 その日の夜


 バガンリュースの一味は仕事の成功を祝って宴を開いていた。

 四日ぶりの休みに団員の殆どが上機嫌で騒いでいる。


「ヒャハハ酒が身体にに滲みるぜ」

「これなんて上物だぁ。今までの酒がどぶ水に感じるぜ」

「お前そんなに肉ばっかり食って腹に堪んぞ」

「肉うめぇ――――!!!」


 昼過ぎから始めているというのにこのバカ騒ぎは一向に衰えずにいた。

 その中の一人が集団から離れて食事をとっているローブを被った子供に声を掛ける。


「おい、お前も来いよ」

「いい」

「てめえ俺の酒が飲めねえってのか?」

「おいおい、ブータレ、そもそもそいつはお子様でお酒なんて飲めねえよ」


 声が集団の方にも聞こえていたのかこちらに近寄ってきていた。


「それに女でもガキじゃあ華にもなりゃあしねえ」

「確かにな」


 ―――――ハハハハハハ!!


 ッ、……女の子は最初に近づいてきた者の首筋にナイフを当て他の者にも足元にナイフが突き立っていた。

 今のに男達は反応できた者はおらず皆笑った顔が凍った。


「わ、悪かったよ。冗談だ」


 ナイフを当てている男が許しを請いて謝ってきたのでナイフを引くと男の襟やボタンなどが零れ落ちる。

 ナイフを当てられていた男は真っ青な顔で女の子から離れて男達と一緒に去って行った。


 下種め、と子供は悪態をつく。

 殆どの者が貴族に大切な者を奪われた者達だがそれを理由にして暴れたいだけの低脳ばかりだ。

 本当につまらない仕事を受けてしまった者だと思う。

 給料がいいからと飛びついたが給料が低くてももっと内容のいい仕事を選ぶべきだった。


 ローブを脱いで座り直すとローブからは人間の物ではない動物の耳が飛び出す。

 その素顔はウィレムが勧誘していた獣人の女の子であった。


 次の仕事を考え、女の子もウィレムの事を思い出していた。


 服装は上物だが護衛もつけないで街を歩くような事をしておいて自称王子だと名乗り続ける自分と同じぐらいの歳の男の子。


 最初に会ったのは盗賊に襲われた商人に紛れて城内へと潜入しようとしていた時。

 商人と城から出てきた文官の視界から外れているにも変わらず首筋がぞわぞわして振り返ると城内の柱の陰に隠れて私を見ていた。


 ここまで意外と簡単に入り込めたから油断していたのもあるがまさかこんな子供がこんな所にいるなんて思わなかった。

 見つかってしまったのは不覚であった。

 非常に拙い。

 ここで騒がれたら逃げる事ができても顔が割れてしまう、と私は男の子が声を上げると同時に逃げる体勢に入った。

 しかし一向に男の子は声を上げず一度近づこうとして踏み止まっただけで何もしてこない。

 私を商人の一員だと思ったのだろうか?

 なんにしても姿を見られた以上は城の中に入るのはやめておこう。


 そう結論付けると今度は私の方も男の子について観察しだした。


 一番ありそうな文官の関係者を考えてしまったが何もしてこないところを見ると貴族かもしれない。

 そう考えて改めて見るとあいつの服はシンプルだけど民間人の生活の豊かな部類が着るような服を着ている文官共と比べても上物で高級素材を使った一品だと伺えた。。


 貴族のボンボンか、となんか納得してしまった。どうせ私の事を物珍しさで見ているんだ……と。


 男の子に気を取られていて周囲の視線に危うく入る所だった。


 丁度話し合いが終わったようで商人の方は積み荷の残りを下す支度を始めた。

 周囲の視線の範囲が変わっていた。

 この位置では視界に入りそうなので少し移動しようと慌てて避けようと商人たちの視線の流れを計算する。

 すると死角となるのはあの子供に向かっていかなければならなかった。


 嫌だな、と一瞬だが態度に出てしまった。

 今日二度目のミスだ。

 これで男の子にこちらが視線に気づいていた事に気づかれた。


 男の子は物陰から出てきてこちらに向かってきた。

 正直他人との接触は避けたかったがこんな状況で逃げる訳にもいかない。

 仕方なく私はその男の子と喋る事を選んだ。


 すぐに商人の付き添いとしての何通りかのシミュレーションをする。

 何が来ても大丈夫……。


「僕はウィレム。君って強いね。もしよかったら僕の元で働かない?」


 私は耳を疑った。聴き間違いだと思った。


 私は幼少期(今も十分子供だが)自分で言うのもなんだが過酷な環境で生活をしていた。

 そのおかげでそれなりに腕には自信がある。


 昨日のお頭の話だとAAランクよりは上であるらしい。

 本来それだけの腕前があればそれなりに自給のいい仕事も雇ってもらえる。

 あのお頭が元騎士だったのだから間違いない。


 しかし私は獣人だ。

 現在獣人は人間と同じ枠組みになっているがそこには明白な差別が存在する。

 どんなに凄腕だったとしても雇ってはもらえない……いや、かっただ。

 こんな傭兵仕事をする前、真面な仕事を探したがどこも雇ってくれなかった。


 面談の時に私を見る目は侮蔑があった。

 女の獣人だからと追い払われることも少なくない。


 そんな私に対していきなり勧誘をしたのだ。

 思わず驚いてしまったのも仕方のない事だと思う。


 そしてこの男の子は更に可笑しな事を抜かした。

 いきなり自分が王子だと言ったかと思えば自分の護衛として雇いたいという。

 王子の護衛って言ったら近衛兵の事だ。


 平民どころか獣人である私には夢のまた夢の仕事だ。


 出まかせを言っている?


 わからない。

 男の子の真意を探ろうとするが判断がつかなかった。


 でもこの国で王子といったらアレク王子にエリック王子に後、双子の王子ぐらいしか知らない。

 この国の国王様は隣国から種馬王なんて呼ばれていてご子息も多いそうだからまだ下にも息子がいるとしても可笑しなことではないがウィレムという名の王子を聞いた事はなかった。


 更に他にも私と年の近い女の子がいるという。

 この瞬間、私はこの一見無邪気そうな男の子が実は鬼畜野郎なのではと思わせた。


 貴族という連中は私利私欲の為に平気で人を貶める。

 噂では奴隷商と結託して奴隷を増やしている動きもあると言われていた。

 この男の子もそういう貴族の類ではないか。


 そう考えると相手の顔がとても歪んで見えてしまった。


 結果私は勧誘を断った。



 でもその日は潜入を邪魔されたというのに気分が良かった。

 嘘だろうと自分の事を強い戦士としてみてくれていた。

 あの自称王子はあの場面で自分の立場を知らないはずである。

 普通なら商人の下働きや兵士の連れ子、最悪奴隷として見られてもおかしくなかった。

 今までの仕事でも獣人の子供だという理由で戦士として見られないで罵倒されたことは数多くその度に傷ついてきた(やり返しても良い相手には容赦なくやり返しているが)。

 だから勧誘が嘘でもその過程で戦士として勧誘されたことを喜ばずにはいられなかった。


 私もやっと貫禄がついたのかなという自信は翌日の守備兵にチビちゃん呼ばわりされて粉砕させられたけど……。



 そして今日、去り際に追いかけてくることもなかったからてっきり諦めたのかと思っていた自称王子が今日街で息抜きをしていた矢先にまた会った。


―――追われていた?


 最初はそう考えたが周りには人はいない。

 私を捕まえに来たという感じではない。

 本当に偶然のようだった。


 そしてこの自称王子は懲りずにまた開口一番に勧誘の話をしてきた。


 城の外なのに相変わらず一人でいるので王子ではないだろうと指摘しても、頑なに自分の事を王子だと言い張る。

 貴族ですら護衛の一人も連れていないと疑わしいというのに王子だと主張してくるのにイラッときた。


 構っていられないと前の様にさっさと立ち去ろうする。

 しかし今度は追いかけて来た。


―――しつこい


 こんな街中では撃退もできない。

 せっかくの休みを邪魔されたくはないのに。


 だからいい加減にして欲しくて奴隷にする気なのは分かっていると言ってやった。


 お前の考えはもう分かっているんだぞ、という意味合いも込めていったつもりだ。

 これでもう諦めて追いかけてこないだろうと思った。


 それなのに自称王子は全く気にも留めずに簡単に否定して勧誘を続けてきた。

 間髪入れずに返答してきた所為か一瞬私の方が一兵士として勧誘しているのではと思ってしまった。


 もう少し話を聞くのも有りかもしれないという気持ちも若干生まれた。


 だが話を聞くうちにこの男の子が盗賊を追っているのだと知った。

 それで未練がましい気持ちは一切なくなった。


 当然だ。

 今、私はその盗賊団に雇われているんだから。


 集められた傭兵同士の戦いに勝って1カ月の間バガンリュース達の用心棒として働くという契約で仕事を務めている。

 

 傭兵稼業は信用が無くなれば誰にも雇われなくなる。

 たとえそれが悪党から足を洗うと言っても裏切ったという事には変わらず裏切り者だというレッテルが貼られてもう仕事は出来なくなるだろう。


 もし話が本当だったとしても断るしかなくなった以上もうこいつとは話したくないと殺気を放った。

 しかし殺気を放っても男の子は離れてくれない。

 鈍いのかというと表情が強張っているのでそうではないと思う。



 その後は―――――。



 女の子は思い出して顔が赤くなった。

 獣人は差別され腫れ物に扱われ何をしても怒られることがあっても褒められる事はない。だからあんなに自分が求められるのは初めての事で自分でどう対処するのか分からず頭を抱えてしまう。


「なんだか心情が乱れてるようだな」


 そこへバガンリュースがやってきた。


「なんかよう」

「いやなにおもしれえ話が入ってな。なんでも王族でも問題児と評されている第七王子様が一人で俺達の調査をしているんだとよ」

「王族が……拙くないの?」

「問題ねえよ。そいつは王子って言っても部下も碌にいなくて自分の兵ももらっていないような奴でやってるのは精々街での聞き込み位なんだとよ。そんなんもうとっくに守備兵共がやってるだろうにその王子様は本当に馬鹿だぜ」


 バガンリュースの話を聞いて女の子の脳裏には昼間の男の子の姿がよぎった。


「その王子って街での調査も自分でやっているの?」

「ほう。珍しいな。てめえも興味を持ったか」

「いいから答えて」

「へいへい、たぶんだが自分でやっているだろうな。話じゃあ城を抜け出す事でも有名ってことだから護衛すらつけてないってこともあり得るかもな」


 それを聞いて女の子は目を見開いた。


 まさか本当に王子だったの?

 護衛って話も本当だった?

 名前は……名前はなんて言ったっけ。確か……。


「その第七王子の名前って」

「確かウィレム・ローグレイだよ。なんだやたらと聞いてくるじゃねえか。何かあるのか」


 女の子は首を振る。


「王族の事なのにやけに詳しいんだな」

「はっ、これでも俺様の耳は広いんだぜ」


 自慢気に言ってからバガンリュースは去って行った。

 その後女の子の方は今度あの王子様に会って勧誘されたらどうしようと本気で悩むのであった。


(裏)設定17

ウィレムの現在の強さは冒険者でEランクとDランクの境目ぐらい。

リアの強さはEランク

リエラは当然Aランク

シルバは……リエラよりは強いのは確実です。

第三騎士団は平均Aランク。

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