表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/49

16.獣人の女の子


 笛の音が鳴る。


 瞬間、足を前に出して走り出した。


―――主導権は渡さない、先手を握る!


 やや前のめりに右手に持った剣を相手の脇腹目掛けて横薙ぎに振った。


 自分の中ではなかなかの初撃。


 しかしその斬撃は相対する長刀によって軌道を変えられ受け流される。


 そして勢いは殺されていない。

 勢いの乗った剣の軌道の変化に身体がついていけず体勢を崩してしまい追撃の手も止まってしまう。


 ウィレムがもたついている間に相手は先程の長刀を持っていた手とは逆の手で持っていた中刀を胴に向かって振る。


 慌てて剣で受け止めるが腕に力の入っていない状態では受け止めきれずに押し切られる。

 踏ん張っていた身体は耐えきれずに後ろに飛ばされ、なんとか地面を半回転して何とか受け身を取った。


 回転中に足を地面に擦って痛みが走ったが痛みを無視して身体をすぐに立たせる。


―――相手の姿を見失ったら終わりだ。


 飛ばされたと言っても間合いはそれ程離れていない。

 相手はその距離をすでに詰めていて認識した時には振り被っていた長刀が間髪入れずに胸元を狙って放たれる。


 またなんとか防御が間に合い、突きの軌道を無理矢理逸らすと地面を蹴って距離をを取った。


 乱れた呼吸を整える。

 ほんの僅かな攻防なのにもう肩で息をしてしまっていた。


 対する相手はまだ余裕そうである。

 体力面でも負けているようだ。


 幸い、相手は追撃をしてくる事はなく乱れた呼吸を整える猶予が貰えた。


 自身の腕の状態を確認する。


 さっきの防御を無理に行ってきた反動で麻痺していた。

 痺れは指先が満足には動かない。

 腕も動くには動くがこれでは力は全く入らないだろう。


 次に一合ぶつかり合っただけで剣を取り落として仕舞う。


―――今はこの腕は使えないな。


 たった一度で握力をかなり持っていかれてしまった。

 こちらの方がサイズでは大きい得物を使っているはずなのに受け止めた際に剣から伝わってきた感覚はこちらより大きな大剣を連想させるだけの威力があった。

 もしあと一歩身体を逃がすことに遅れていればその時点で終了していただろう。


 技術では勝てないからと力で押し切ろうと思ったが力比べでも分が悪いと認めざる負えなかった。

 この後どう対応するべきか逆転の手を考えるが、考えが浮かぶ暇もなく相手は再び距離を詰めに駆け出した。


 腕の麻痺に気づいたのか、それとも先程の攻防でどちらが優位かはっきりと確信したからか、明らかに攻撃の手は激しさを増していく。

 連撃の斬撃が振るわれ、時に剣でいなし、時に身体を大きく反らしてなんとか決定打は与えられずに回避する事は出来ていたが捌ききれない物がどうしても出てしまう。


 何とか反撃の糸口を探したいが集中力を防御から外せば一瞬で放たれる斬撃を見切れず勝敗がついてしまう。

 防戦一方から抜け出せない。


 それでも何とか致命的な攻撃は捌き切っているおかげで戦闘不能は回避している。

 相手も決め手の一手がないのならこの均衡が崩れた処を狙えばまだチャンスはあるとそう思った。


―――――えっ?


 攻撃に合わせて振った剣が宙を切った。

 一瞬、何が起きたのか分からず衝撃に備えた体は抵抗のない状態に対応できずに振った剣の方向へと流された。


 開けた身体に向けて容赦なく攻撃が迫ってくる。


 ウィレムは顔を歪めながら体勢を低くして剣を振ってまた防ごうと無理矢理振るったが今回は間に合う事はなく脳天を打ち抜いて意識を失った。





 目を覚ますとウィレムは頭を押さえながら身体を起こした。

 記憶は、……正常に覚えている。


「見事に完敗したみたいだな」

「ウィレム様!大丈夫ですか」

「うん。手加減されてたみたいだから疲労しただけで身体には怪我はないよ」


 ウィレムが起きたのに気がつきリアが心配する声を上げて顔を近づけてきた。

 それに応えながら差し出されたタオルを受け取った。


 冷たいタオルが気持ちいい。


「でも私なんかよりだいぶ持ってましたよ」

「守っているだけで精一杯だったよ。それに最後のは何が起こったのかすら分からなかった。……リエラは何をしたか分かる?」

「え~と最後のはウィレム様が集中力が切れて体勢を崩した所をリエラにつかれたとしか」


 リアにはそう見えたらしい。


 自分としては集中力が切れた気はしなかったが現実として目測を見誤った。

 気づかないうちに疲労が溜まっていたのだろう。


 何と言おうとあの空振りで完全に勝負が決まった。


 でも……やっぱり納得できないな。

 大分攻撃の速度に慣れて持久戦を持ち込もうと防御に徹していた矢先だもんな。

 なんかリエラが仕掛けていたのかもしれない。


 別に敵対している訳でもないんだから後で本人にでも聴いてみようか。


「ところでリエラはどうしたの?」

「まだ修練中です。……なんかウィレム様が倒れた後、老獪教師様がハイテンションで近づいて来て他の者とも一戦交えようと言って連れていかれました」

「……あぁ、それは」

「リエラも一緒にウィレム様の看病をしたがっていたんですけど、リエラでもあれ(・・)|には抵抗は無理だったようで。私は寒気がして逃げちゃいました」

あれ(・・)|が相手じゃ仕方ない」


 両肩を掴まれてあの厳つい髭が目の前まで来るぐらい迫られながら言われていたのだろう事が容易に想像つく。

 やられた方も堪った物じゃないが見る方としても避けたくなる絵ずらだ。


 リアが逃げてしまうのも無理はない。


 しかし放っていくわけにもいかんな。


「い―――や――――!!!」


 予想通りというか予想以上というべきか………。


 いざ助けに向かうと開口一番にリエラの悲鳴が上がった。


「無理です。嫌です!来ないでください!!」


 ウィレムの視界にリエラを捉えると泣き叫びながら追いかけ回される姿が映る。


 追っかけているのは城の騎士達である。


 それも爺厳選の第三騎士団で剣に命を捧げて毎日鍛錬、鍛錬で己の身体を鍛えるのが趣味の変態の集まる集団だ。

 筋肉隆々なだけでなくテンションが既に高く暑苦しい。

 通称『変態集団』とそのままである。


 この集団の事を何故そう呼ぶのかというもっともな理由が”強くなるなら強いやつと戦え”、”100回挑めば勝てると思ったら200回は挑め”、”崖っぷちこそ快感だ”という格言の元、日々活動している……のだがやり過ぎなのだ。


 特に入団試験はその筆頭。


 第三騎士団は実力面では申し分なく実績もあり本性を知らない街の人々の評価は高く騎士団になるなら第三騎士団を希望するという子供も多い。


 その為、毎年多くの実力者が入団を希望しにやって来てテストとして摸擬戦を行う。


 大抵の場合は試験官に勝つ事はなく戦闘過程を見て失格か合格かを決めるのだが、稀に実力者が現れて試験官に勝ってしまう事がある。

 勝った者はその瞬間合格は決定なのだが、同時に変態共の標的になってしまうのだ。


 標的になったら最後、戦いたい者達が群がって挑戦、再戦を再々に渡り挑まれる。


 試験なので逃げる事もできずに挑戦を受け、幾度となく戦ったとしても倒しても倒しても挑戦者は立ち上がるので減る気がしない。


 いつしか立ち上がる挑戦者の姿はゾンビに見えていき……。

 それまでの周りとは一線を画していたという自信は恐怖によって崩れ去る事となる。


 しかも挑んでくる変態は負けてもとても満足そうな顔をしている。

 おっさんの快感に浸っている顔はとても気持ちの悪い物で順番待ちの人達は余りの気持ち悪さに挑戦を辞退することもある。



 そんな変態に目を付けられてしまうとは……。

 Aランクの冒険者だった実力を変態達の目は逃さなかったらしい。

 摸擬戦を行いたいと思った者が試験同様殺到したはいいがリエラは試験を受けに来たわけではないので強制的に摸擬戦を受けなければならないという事はない。

 リエラが乗らなければ戦えないのだ。

 だからリエラは逃げるを選択して、変態共は追いかけているのだろうが寝ている間に何戦やらされたか知らないがリエラはもう戦いたくない状態になっている所を見ると十分に変態の恐怖は体験してしまったのだろう。

 それでも訓練場からは逃げていないだけで僕は凄いと評価したい。



 …………真に怖いのは一年で入団した者が変態に変わる事だが。



 僕はこれからそんな変態に近づかないといけない。


―――正直な感想で逃げたい!!


 本当にこんな変態が何で騎士なんだよ。

 お父様もなんで第3騎士団の元団長を教師にするかな。

 お陰で第三騎士団との遭遇率は非常に高いんだよ。


 ウィレムは10歳の少女を追い回す変態集団を見て現実逃避しているとリエラがこちらに気がついた。

 涙目のままこちらへと向かってくる。


 ついでに変態たちも迫ってくる。


 僕が標的な訳ではないのに恐怖一色で嫌な汗が止まらない。


「ウィレム様――――――!!助けてえぇぇーーーーーー!!」


 必死に叫び声を上げて僕の後ろへと隠れるリエラ。

 リエラが逃げるのを止めた事により変態集団も止まった。


「おう、王子様起きたのかい。悪いがあんたの従者を少し貸してくれ」


 お前ら本当に騎士だよな!?

 もう格好(鎧のみ)以外質の悪いチンピラだぞ!


 特にそのえへへ、笑いは完全にアウトだ。


「断る」

「そういうなって……そいつだって本性では戦いたいって思ってるんだぜ!叶えてやるのも主としては当然の判断だろ?」

「「「そうだ。戦うのは快感だぜ」」」

「お前らがもう手遅れなだけだ!!」


 ダメだコイツ等、どうしようもできねぇ……!

 これは早急に解体をした方がいい!


 お父様に直談判……駄目だ。

 恐らく解隊したメンバーが他の部署でさらなる被害者を作るのがオチだ。


 他の騎士団は真面なのになんでこの騎士団だけ………ってそんな事より今の状況だよ。

 リアも耐えきれなくなってリエラと一緒に服を掴みながらふるふると震えている。


 この変態に差しだす?

 絶対ノーだ。


 どうする………どうしよう……どうにかできる気しない。


 こいつらの説得はするだけ無駄だ。

 強行突破するしか選択肢はないか。


 そう思った所で、


「おーい!団長との対決の時間だってよ」


 救いの一声に追っかけてきた者達がバッと振り向いた。


「なに!もうそんな時間か!」

「俺は今日3戦はしてもらうんだ!」

「団長は俺の物だ―――!」


 あっという間にその場には僕達三人だけが残される。


 二人とも呆然だ。


「…………取りあえず僕の部屋まで戻ろうか」

「「(コクコク)」」


 色々と疲れた果てた僕たちは変態が戻ってくる前にその場から去るべく移動を始めた。


 断っておくがあの騎士団が異常なだけだ。

 信じて欲しい。

 あんなのが二つも三つもあったら僕は城から逃げ出すことを模索する。





 部屋に戻るといつものようにシルバが待機していた。

 鍛錬終わりの疲れを取るためにスイーツも用意されている。


「どうかされましたか?」


 僕達を見るなりシルバはすぐにこっちの様子に気がついた。


「いや……なんというか……質の悪いチンピラの前では無力だと実感させられてきた」

「チンピラですか。そんな者が出たのならすぐに駆除すべきですが…………相手が相手ですので今後から気を付けて下さいと言うしかありませんね」

「止めれないか?」

「無理でございますよ。異常さを差し引いても彼らの実力は国の利となりますし、あれで民衆には人気が高い。それにあれらを野に放つ方が危険だと思いませんでしたか?」


 感じたよ。

 制御下から外れたら同士を際限なく作ろうとするだろうよっ!


 でも俺達じゃあどうやってもあれに勝てる気がしない。

 できればもう関わらない場所に隔離したいって気持ちだ。


 最低でも逃げられるようにはしないと次同じことになってまた囲まれたら今度こそ大事な何かを失ってしまうような気がする。


 取りあえず当分の間はリエラとの接触はなんとしても避けないとな。


「せっかく用意してもらったし三人でスイーツを食べようか」


 いつまでも立ったままでいる訳にもいかないので僕は二人も座らせてデザートを食べることにした。


 フルーツの甘みが疲れた体に染み渡る。


「ウィレム様。今後の事ですが」

「何かあったっけ?」

「いえ、ウィレム様は何もないのですが」

「?」

「リアとリエラの編入試験がもう僅かです」

「確かまだ時間はあったはずだけど」

「それは二人の学力が合格点に届いていればです。今のままでは合格するか不安な状態です」


 その言葉は合っているのだろう。

 リアとリエラの表情が曇り顔を反らした仕草からもそれが分かった。


「なのでこれから二人には試験日まで勉学に専念してもらいます」

「「えぇ……」」

「流石に王子の従者が不合格というのは拙いですので」

「それは仕方ないか。前みたいに無茶はさせるなよ」

「心得ております」

「「………」」


 二人がトラウマに入って放心してしまっていた。


 しかしこればっかりは助け舟は出してやれない。

 最終的には二人の為にもなるんだしモンスターペアレントみたいに甘やかしてもいい事はないだろう。


「いつからだ?」

「問題なければ今すぐです」


 問題とすれば僕がもっと一緒にいたいって事ぐらいだ。


 それ以外に止める理由は思いつかない。


 二人は絶望した顔になっているがここで落ちたら元も子もないからな。

 今回は二人の身柄を引き渡す。


 そんな訳でこれからまた二人とは別行動になる事となった。

 ……折角従者になったのに一緒にいる時間より分かれている方が多いな。




 ◆





 また一人になってしまった。


 一緒に勉強を、と思って机についたのだがサランダ先生に僕が居たら甘えが出てしまうので退出してくださいと追い出された。


 自室に戻っても退屈なだけで街に出るのも時間的に無理そう。


 だからなんとなく城の中を徘徊することにした。

 城の中を探索するのは久しぶりだな。


 小さい頃(今も小さいが)は外に抜け出せなかったから専ら城内探索ばかりしていた。


 城の中は場所によって人気に差があるし人も偏ってくる。


 例えばさっきの修練場や中庭なんかは武の者が多い。

 集団での演習だったり自主練だったり修練をする者がほぼ必ずいると思う。


 逆に部屋が密集した場所なんかは文官の者が多い。

 それと貴族も見かける。


 貴族は居座っているのではなく報告をしにって感じだが。



 それで今いるこの場所は城の入り口付近から少し外れた積み荷の受取場だ。

 ここで城に物資を運びに来た商人とそれを受け取る文官が受け渡しをする。


 丁度それらしい人達が集まっているのが見えた。

 商人が荷物を持って来たらしい。


 ――――ちょっと覗いてみようかな。


 興味本位で近づいて行くと人だかりの中で商人らしき男が文官らしい男に押されて倒れた。


「品物がないとはどういうことだ!」

「だから道中で盗賊にあったんだよ!それもかなりの人数だ!」

「そんなこと関係あるか!お前たちは誰の荷物を運んでいたのか分かっているのか!?」

「こっちだって必死だったんだぞ!その言い方はないだろう!」

「なら損失分をお前が払ってくれるのか!」


 どうやらあの商人は道中で盗賊にあったらしい。

 命は助かったが荷物は荷台ごと奪われてしまったようで馬だけが後ろにいる状態だ。


 それに対して文官の方は苛立ったように声を上げている。

 こちらはこちらで冷静じゃない。

 反応が過剰だ。


 少し喧嘩腰で危なく見えた。


「旦那は荷台ごと品物を奪われてこれからの商売にも支障をきたしてるんだもっと言い方ってもんがあるだろう!」

「そもそも首都の近くに盗賊が巣くっている時点でそっちの問題だろ」

「何だと貴様!」


 倒れた商人の取り巻きの言葉で文官の男は簡単にキレる。

 今にも殴り掛かりそうな勢いでちょっと不味くないか、と思っていると上司の者がやって来て怒っていた男は下げられていった。

 その後上司の男と倒された商人(この商人の代表だったようだ)が数度話をすると商人側が頭を下げて謝った仕草をして話は終了した様であった。


 ほっと息を吐き僕もここから去ろうとした。


 他に面白そうなことはここにはなさそうだからな。


 そんな僕の視界に―――――――


 一人で立っている獣人の女の子の姿を見つけた。


 獣人というのは文字通り五体の幾つかが獣の姿をした者のことを言う。

 完全に獣が二足歩行になっただけの者から頭に耳が生えてたり尻尾が生えているだけでそのほかの部分は人間と遜色ない者までいる。

 目の前にいる女の子の獣人はどうやら後者の様だ。


 前にも話したがこの世界では獣人も人間として枠組みされる。

 でも元々は区別されていた事から獣人に対する反応はどこか厳しい物であり、アファネでは街に出ても滅多に見かけることがない。


 それにウィレムがこれまで見てきた獣人はどれも大人の獣人で自分と年の近い獣人を見るのは初めてだった。


 銀色の髪と整った可愛らしい顔。

 そして何よりあの猫耳に尻尾は反則だ。


 ――――モフモフしたら絶対気持ちいいだろうなぁ。


 カチューシャなんかで付けたものではない本物の猫耳だ。


 触りたくない訳がないっ!!


 前世の記憶が戻る前はどうでもいいと思っていたが今は一度でいいから触ってみたいと思っていた。


 服装からして城の者ではなさそう。

 商人の関係者?

 その方があってそうだな。


 僕と同じぐらいの年齢だから親の付き添いだろう。


―――――?


 声を掛けようと思って近づいたところで違和感を直感で感じた。


 僕と変わらない歳の子なのに纏う雰囲気が全く違う。

 あれは武の心得のある者が纏うものだ。

 それもかなり濃い。

 はっきりは分からないけどリエラより上かもしれない。


 改めてじっと見る。

 よく見ると周囲の者はこの子に気づいていない。

 まるで空気に溶け込んでしまっているようだ。


 流石にじっと見過ぎていたからか相手も僕に気づいた。

 気がついたのなら隠れていても仕方がないと僕は自分から女の子へと近付く。


「僕はウィレム。君って強いね。もしよかったら僕の元で働かない?」


 僕の言葉を聞いて相手の顔が強張った。

 まさか初見の開口一番に勧誘されるとは思わなかったらしい。


 僕もなんで初見の、たった今あったばかりの女の子を勧誘しているか分からないのだから当然だ。


「僕ここで王子様してるんだ。僕の護衛についてくれない?」


 獣人の女の子は驚いた表情でこちらを見返してきた。


「少し歳が上だけど君以外にも女の子がいるんだ。一緒に働いてみない?」


 返答が来ないのでさらに誘い文句を言うとようやく女の子から返事が返ってきた。


「ウィレムなんて王子は知らない。それに私は冗談が好きじゃない」

「あっ、ちょっと」


 そう言ってその場から去ってしまった。


 勧誘は失敗。


 最後の言葉の時、僕に向かってだけ物凄い殺気を放ってきた。

 あれはリエラには悪いが一枚か二枚は格上だ。


 あの歳であのレベルって絶対に即戦力の上に将来有望の人材だったよな。

 もっと強引に言った方が良かったかな?


 まぁ駄目だったものは仕方がないか。


 気づくともう周りには人がいなくなっていた。

 時間も潰せたし部屋に戻るか。


「聞いたか?」

「盗賊の事だろ」


――――ん?


「もうこれで何件目だ?」

「6件。アイツじゃないけど流石にこうまで続くと腹も立てたくなるな」


 廊下の角で話し声が聞こえたので止まるとどうやらさっきの商人にまつわる話のようだった。


「しかしおかしいよな。街への積み荷はしっかり届いているのに城への商人に関わっている商人に限って襲われているんだろ?」

「あぁ、お陰で料理人が材料足らないって街に出て買いに行かされている。今じゃ街の商人が自分たちの利益上げるために襲わせているんじゃないかって声も上がっているな」

「それ聞いた。でも証拠はないんだろ」


 聞いたとおりだとさっきのような事が続いているみたいだな。

 問題にもなっているけどまだ犯人の尻尾はつかめていないって感じか。


 その後もその話が続きつい立ち聞きしてしまった。

 その中でも盗賊の数は20と多く、アファネは他より危険が少ないから通常の護衛の数は2,3人で対処は無理だとか。一味の頭は結構な実力者で更に凄腕の護衛もいるんじゃないかと言っていた。

 ただの文官にしては知り過ぎな気もしないでもないがあくまで噂で確実に知っているわけではないので何も言わずにその場を後にした。


 しかし盗賊か。

 べヒモスにギルドの腐敗に続いて最近問題が多いな。

 リアとリエラもいないけどちょっと首突っ込んでみようかな。


 …………怒られないよね。



 


裏設定15

継承権を降格になった側室の子エリックは5年間アレク王子の出産後正室が男の子が生まれなかったのでアレクに問題があった時の代用品として側室の子でも継承権入りが決まった。

本来なら双子の王子が生まれればすぐに降格になるはずだったが、継承権入りが決まってから双子の王子が生まれるまで一年も間がなく国内では継承権3位報告がようやく国全体に広まったばかりだった事もあり、すぐに降格の報告をするのは良くないと継承権は双子王子達が5歳を迎えるまではそのままで徐々に降格していこうという事になって現在の9位は妥当な順位なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ