14.第一回派閥会議(仮)
|お父様(国王)から取締役に任命されてギルドに通う事になってから3日。
ギルドの調査兼後始末の大盤振る舞いも3日目ともなると忙しさに慣れてきたのか少なからず余裕が生まれてきた。
一番の理由として各自が自分の役割を確立した事で指揮系統が出来上がったのが大きい。
上下関係ができた事により問題への対処に対して相談し合う様になり直接僕の方まで来る者の数が減少していった。
仕分け作業と捜索活動が終われば更に楽になる。
しかし処理する速度が上がっただけで量が減った訳ではない。
今もギルドマスターの部屋には調査、処理の確認をする書類の山が運ばれては積まれてを繰り返している。
ここで作業を止めればすぐに書類は溜まって書類に埋め尽くされてしまう。
そんな状態であることを承知でウィレムは仕事の手を止めて部屋から出ていった。
ギルドの各ある部屋の中で応接間と同様に必要がある時にのみにしか使われないギルドの巨大会議室が存在する。
天井が高く広大な空間に大きな円形のテーブルと背に星のマークの象った椅子が置かれている。
その席にはそれぞれ今回の被害者の代表を務める面々が腰を下ろしていた。
その中にはイナリ屋の代表レオナさんの姿も確認できる。
着席した者は全部で12名。
その背後には付き添いをしてきた家族が立ったまま同席しており、この空間には現在30名以上の人達が入っている事となる。
『あなた方の今後について』とだけで報告させたので欠席者も出ると思っていたのだが全員集まって良かったと安堵する。
本来王族に呼び出されたのに来ないという選択肢を一般市民が取れる訳がないという一般常識がウィレムには抜け落ちていたがこの場でそれを注意できる程察しにいい人間はいなかった。
集まった者達の表情も様々。
不安な者、自信がありそうな者、無表情な者に緊張で顔が強張っている者といるがそのすべてがこちらからの呼びかけに応じて集まった事には変わりがない。
ここに集まった中には今回の呼ばれた理由を把握している者もいるだろうが王族が呼ぶほどの事かと誰もがこの会議に疑問を持っている。
集まった者達が全員席に着きシルバがよく冷えた紅茶を給仕してまわる。
飲食店関連の者達が運ばれた紅茶が高級な茶葉を使った物であると気づき小さな動揺を見せたが言葉は飲み込まれ給仕を終えたシルバが部屋の扉を閉めた所で今まで沈黙で座っていたウィレムは席から立ち上がった。
全員の視線がウィレムへと注がれる。
張り詰めた空気が身体を火照らせながら代表となる者達を一度ずつ一瞥すると開会を告げる挨拶を述べた。
「本日は御忙しい中集まっていただきありがとうございます。……僕は王家第七王子のウィレムです。今日は皆さまとの話し合いをする為にこのような席を設けさせていただきました。
少々込み入った話で時間が掛かるかと思いますがお付き合いをお願いします」
挨拶を終えると周囲を見回す。
全員話を聞いてくれるようで口を開く者もいない。
しかし動く者はいた。
挙手をして発言の許しを求めていた。
その男に視線を向け無言で発言を許す。
「挨拶はもういいでしょう。ここに集まったのは我々がギルドに借金をしていることが原因だと言うのも分かっています」
発言したのはビグルという優男でこの街の”クロツチ”という酒場を経営している。
借金をした者達の中では成功を収めた者で客の大半は冒険者でそういった者達の間では有名な人である。
その人脈で今回の情報はある程度知っているようだ。
ビグルの言葉に多くが同意と言う意味を込めて頷いた。
「では挨拶はこのくらいにして要件を述べましょう。まず現在集まってもらったのは言われた通りギルドの借金の件です。
ご存知かとは存じますが現在ギルドは先の騒動で王国から調査が行われています。その調査で皆さんの借金も調べさせてもらいました」
すぐに借金を返せとでも思った者達が騒めき出したので言葉を切り騒ぐ者達を抑えてもらう。
「それで私達はどうすれば?」
「金を今すぐ返せと言う物ではありません。皆様の借金はギルドで雇っていた職員とその仲間による詐欺行為の被害の結果であると分かりました。……つまり皆様に謝罪をさせて戴く側です。まずその話をさせてもらいます」
それからウィレムは今回の詐欺の手口を話した。
話の途中何度か激怒したり泣き出して崩れる者もいたが7歳の子供のウィレムへと怒りをぶつける者はいなかった。
話が終わった時には皆不安は無くなった物への悲痛と困惑で場の空気は重くなっていた。
「それで王族であるウィレム様がその話をしてどうすんだ。これまでのあいつらに預けていた金を返してくれるっていうのかよ」
「いえ、現在のギルドには満足に謝礼をする事すら出来ません」
ウィレムははっきりというと席を立つ音が聞こえた。
「そういうことなら俺はここで退出させてもらう」
席を立ったのはこの中で最も成功を収めていると思われる細工物を生産する商人のアカヤだった。
「俺の店は順調なんだ。借金が無くなるってだけで十分だ。ここであんたの話を聞かなくても問題はない訳でもうここに居なくてもいい。
ならウィレム様の話を聞きたいと思う奴らはここに残って後は席を外してもいいだろう。後は俺抜きでやってくれ」
アカヤは言うだけ言うと部屋の扉を開けて去って行った。
場の空気が再び騒めく。
去って行くアカヤを僕が止めなかった事で立ち去っても問題がないと分かりここに残るか帰るかを悩んでいるようだ。
特にレオナさんやビグルの様に生活を送るのに困る事がない者達はそれが著明に見られた。
しかしこの場面で誰かしらこうなる事は予想していたので至って冷静に思考を巡らせている。
もしこれがレオナさんだったら少しは引き止める為に行動したがそれ以外ならもう二つ三つ去っても計算内である。
でもそろそろ話を戻さないと空気が悪い。
「一席いなくなってしまいましたが先を進めさせてもらいます。
先程言ったようにこれまで皆さんの稼いできた金額を返すことは出来ません。ですがそれに代わってこちらからは二つ提案があります。
まず、今までの生活はそのままに僕と手を組みませんかという勧誘。
もう一つは僕の元に来て手足となって働いてもらうかです。
ギルドだからと信じてこういった事態になってしまった皆様なのでこれだけ言った所で信用できないでしょう。なのでこれからご説明をさせていただきます」
場の返答は沈黙だった。
参加者達は現段階では決断しかねている為お互いの返答を探り合っている。
しかし退出を考えている者はいない様に思えた。
(思ったよりも残ったな)
ウィレムは心の中で大きな溜息を吐いて肩の力を抜いた。
ここまではこの場に残ってもらえるだけでも上々。反発もないのでやりやすい。
ウィレムがこの提案をしたのには理由がある。
詐欺の発覚の際ウィレムは被害者たちの詳細を確認した。
金をギルドに借りさせた後ドブラは金を貸した者から更に金を巻き上げる為に借金返済処置と称してギルドが所有している店で営業をしていた。
このギルド、金はないが土地はかなり持っていたので店の場所もバラバラで調べなければすべてギルド所有の土地とは気がつかなかっただろう。
そして店を営業させたドブラ達はこの店で月一で稼がせた金を借金返済はせずに手元に入れていた。
契約書に支払期日がなくドブラが支払いの受取人にしていたので被害者たちは借金が減っていると思っていたのだろうが借金は一切減っていなかったのだ。
しかしこれはもう借金はなくなったので伝えて逆上されても困るので言わない。
解決した借金はいいのだが今度は営業する店の件で問題ができた。
店の所有していたギルドは今回の件で多額の賠償金と立て直しを強いられギルド本部からの援助があったとしても支払いきれない事は明白。
そこでギルド所有の土地を王国で買い取る事となった。
ここまでで話が終わればよかったのだが王国の土地になる事でその土地での営業は本来の開業方法である国から土地を買い取ってから開店し直す必要ができた。
しかし今まで借金を返していた被害者達に営業を続ける為の土地の買取ができるのはビグルとさっき出て行ったアカヤくらいの者だろう。
またこれまではギルド所属の店という事で他の商人は手を出してこなかったがこれからは商売敵として妨害してくることも十分に考えられ仮に土地を買って営業を続けたとしても今までより経営は苦しくなるだろう。
つまりこのままいけばまたこの人達は職を失い路頭に迷う事になるのだ。
それ以前に既に路頭に迷う寸前の者達のが大半ではあるが……。
先に生活すら満足にできずにいる者達から対処を始めようとウィレムは話の続きを喋り出した。
「まず僕の配下となり手足となって下さる場合の説明ですがこの場合仕事は住まいはこちらで用意した宿舎に移動、仕事は低賃金で城の汚れ仕事に回ってもらいます。収入は大体このぐらいですか」
「な!?我らを奴隷のような待遇にする気か!!」
僕はその危険な状況下にある事を知らせる事はしない。
ただ僕の手を取った場合の説明をするだけだ。
そして提示資金を見せるとまさに予想通りのタイミングで僕からの提案に不満の声が上がった。
たぶんだがこの男は王族に雇われれば高賃金が約束されたとでも思っていたのだろう。
他にも同様に思っていた者達が声を出さないまでも不満を露わにしていた。
「ではどういった待遇がお好みだったのです?」
「そりゃあ、城で働くんだ。高収入であるのが普通だろう?王族なんだから金なんて幾らでもあるんだろうからな」
本気で言ってるのかこいつ。
「他の皆さんも同じですか?この人の言う様にもっと金を寄越せ。王族がケチケチするなよ、と?」
発言した男は当然の事、他の者達も無言で頷く。
僕は今までしっかりとした姿勢で座っていた席を一人で部屋にいる時のようなだらけた姿勢になる。
そして深いため息をついた。
その姿は相手をとても舐め切っていて会議室内には一種の驚きと気が飲まれた事により静寂が訪れる。
「貴方方は随分と自身の事を過大評価しているようだ」
さっきまでの真面目で丁寧な説明をしながら話し合いをしていたとは思えない独り言の様な周りを馬鹿にした一言。
聞いていた者は虚を突かれて反応できず異様な空気が流れ出す。
一向に何も反応がない周囲、そんなに意外だっただろうか?
呆れ顔を崩さないように注意しながら発言をする者を待つ。
誰も反応がないのか?
短い時間のはずなのにとても長く感じた。
「き、きさま、王族だからって俺達を馬鹿にすんじゃねえ!!」
「流石に今のは我慢できないわ!」
「子供だからと思っていたがやっぱりお前も貴族たちの親玉だってことか!!」
そして喋り出したら喋り出したで周りも呼応して騒ぎ出す。
君達には中間がないのか中間が。
少し手を差し伸べるのに躊躇いを感じてしまうわ。
「黙れ」
短くそれでいて鋭い一言を発して睨み付けると怯んだようで声が止んだ。
子供の声にしてはドスの聴いた感じに聞こえただろう。
僕は再び姿勢を直して座る。
「貴方達は大きな勘違いをしている。貴方達は悪質ではあるが詐欺にあった間抜けな者で更に事業に失敗している者ばかり、今声を上げた人達はもう今回の事がなくても生活を満足にできない状態であるのは調べがついています。そんな者を僕が欲しいなんて思う訳ないじゃありませんか。貴方達は自分が無能で何もないと自分の評価を改め直してください。
あぁ、別に不満があって帰りたいのなら一向に構いません。
どうぞ、どうぞ、席を立って後ろの扉からお帰りになって下さい」
会場全体から睨む視線が突き刺さってくる。
しかし席を外そうとする者はいなかった。
逆上されて集団で出て行くか不安だったがさっき叫んだ3人は縮こまって下を向き、他の者も従順に従う姿勢を示した。
僕は内心ホッとしながら口調を改めて話を戻した。
「それではこの自信過剰で話が中断になったので話を戻しましょう。
この提案の僕が欲しているもの、および皆さんの得についてを話しましょう。
簡潔に述べますが僕が欲しいのは貴方達ではなく貴方方の子どもです。僕は今年で7歳を迎え国王から徐々に仕事の依頼が舞い込んでくるようになる。今回のギルドの調査がその一環です。
しかし僕にはまだ数えるほどしか自分で動かせる人がいません。だからあなた方の子供を僕の下に置きたいと考えたのです。……ですが今のままでは親と同様雑用にしか使い道がない。なので僕からの提案を承諾した家庭の子どもにはアルマーレ院に通っていただくこととなります」
ウィレムが「アルマーレ院に通ってもらう」と宣言した瞬間場の空気が一変した。
アルマーレ院はアルマーレ教会が開いている塾……よりも寺子屋と言った方が分かりやすいだろうか。
協会が民間人の学力向上の為に始めた民間教育施設で教育内容は読み書きや計算、一般常識を教えられる。
僕の通う学園とは違うのはまず生徒は平民だけ、それから寮のような物は無いので街外から通う生徒もいない。在学期間も3年だけで貴族が通わないのでマナーやダンスといった授業はない(ここだけは羨ましく思う)。
この世界では文字書きや計算ができる一般人の数は少なくそういった教育の場に子供を通わせるのは重宝する。
しかし幾ら民間向けとはいえ無償で通える訳ではなく通学金が必要だ。
そしてその金額は学園と比べれば微々たる物だが庶民には手が出しにくい金額である。
一年間の生活費と同じ額を三年も払うようなものだ。
裕福な街と言われているアファネでも子供を通わせている家は半数にも届いていない。
それをいま僕は通わせてやると言ったのだ。
この場にいる者とっては十分驚愕して然るべきことなのである。
「本当に通わせられるのか?」
何度も言うが通学金は庶民には大金である。そしてここに居る家庭の子供は20はいるだろう。それだけの大金を用意できるのかと心配しているのだろう。
「さっき貴様がいったのだろう。王族は金なんて幾らでもあると、ここに居る全員を生かせたとしても僕が通う学園の学費より安い。無駄な質問はせず質問の答えを決めなさい。”自分達が低賃金の重労働になるが子供には学園を通わせられる”という案を承諾するか、それとも蹴るか」
「通わせた後はどうなる……」
重ねて行われる追及にウィレムは答える。
「確定ではありませんが学寮を見て仕事の斡旋をします。もし優秀であるのなら僕の仕事に付けるのも考えていますよ。勿論先程皆さんが望まれる様な好待遇で。
それで子供が生活費を稼げるようになったら割に合わない仕事をする皆さんは辞めてもらっても結構です。別に縛り付けようなどと考えてはいないので」
会議場にはまた静寂が訪れた。
さっきまで騒いでいた連中は神妙な顔になって考え始めたがもう退出する気は無いようだ。
ウィレムからの提案は長く見れば得しかない。
だからこそ何か罠なのではと疑っている様子だ。
手を伸ばしたいが話が上手すぎて逆に怪しいと踏み込むのに躊躇っている様な。
一度考えを纏めさせる時間が欲しそうだ。
そう思った所で、
「私、王子様の案に乗ります」
手を挙げながらそういったのは円卓に座る代表者たちではなくその後ろに立っていた付き添いをしていた娘であった。
「名前は?」
「ランと言います」
「ランさん。悪いけどそれを決めるのは各家が代表者と決めて座らせた者だけだ。もし君がこの案に乗るのなら君のお父さんを説得しなければ認められない」
「お父さん!」
「………あぁ分かったよ。俺はウィレム王子の提案に乗ろう」
「ではこれにサインを。仕事や住まいの説明を後日した後本契約としますので今日は退出を」
ウィレムは何も書かれていない白紙の紙を賛同した者の前に渡し名前を書いてもらうと男と付き添い達は部屋から出て行った。
そしてそれを皮切りに今まで渋っていた者達が続々と賛同の声を上げていった。
最終的に現在の生活を続けるのは厳しいと思われていた家の者達全員の名前が書かれる。
会議室の人口密度が一気に減った。
さっきまで丁度良かった円卓の席が妙に広く感じる。
「それで残った俺達にはどんな提案をしてくれるんだ?」
部屋に残った代表者は酒場”クロツチ”のビグル、飲食店”イナリ”のレオナ、そして今まで一言も発していない焼き鳥屋”グリルバード”ウッドロックの三名とその付き人のみとなった。
―――見事に食べ物系だけだな。
ここまでの交渉でウィレムはこちらにもっと有益な交渉をしてくれると踏んでいるのかビグルは話を急かして来る。他の二人も態度には出さないが乗ってこようという気があると受け取ってもいいようだ。
しかし残念ながらそう思った通りに話は進まないのが現実だ。
「悪いですが提案はしません。貴方方には今すぐにこの場で契約をするか下りるかを決めてもらいます」
驚きの声が聞こえる。
まさか損得を提示しないまま契約するのかしないのかを決めろと言われると話思っていなかったのだろう。
ウィレムは話を続ける。
「先程の方達はまだ僕の下に本当の意味で部下と受け入れた訳ではありません。私の元に雇う者であって城の雑用係いつでもクビにして縁を切る事ができるやすい関係です。しかし貴方方にはここで契約をした瞬間僕の部下として扱われる。僕という主を持ち命令には従ってもらう主従の関係になります。
そして王族の機密事項や秘密裏に行っている情報を共有することも出てきますのでもし僕の元を去ろうとしたりそれを外部に漏らしたりすれば……消します」
ウィレムの消すという言葉は文字通りこの世から消すと言う意味だ。
三人の表情が一気に引き締まる。
この契約をするのはそれ相応のリスクがあると事ここに至ってやっと呑み込めたのだ。
「その契約は貴方の為ですか?それともこの国の為ですか?」
質問をしてきたのは沈黙を貫いていたウッドロック。視線を合わせ嘘を許さぬ視線で睨み付けてくる。
「僕の為です」
ウィレムは言い切る。
この会議の被害者救済処置に国は関与していない。
国は見捨てるつもりだったものを僕が拾ったのだから国のために働かせようなんて気微塵もある訳ない。
仮に国の為になるのは僕の行動の延長線上で利益になった時だけだ。
彼らには国の部下ではなく僕の部下だという事をしっかり認識してもらわなければ困るし綺麗事で国の為なんて言う訳がない。それにそう言って部下になるような奴を僕は信用しない。
「ふん……随分とはっきり言うな。………いいだろう。グリルバード含めて王子にすべてを預けよう」
「おいっ!ウッド、何を簡単に決めてやがる」
「簡単ではない。王子が俺を勧誘すると言った時から俺の主として仕えて良いか見ていた。その上で認めたんだ。お前達もそれでいいな」
ウッドロックはビグルに答えてから自分の意見を自分の家族に確認した。
後ろの二人(たぶん妻と娘)は頷くと「そういう事だよろしく」と言ってまた喋らなくなった。
ビグルしか知らない事だがウッドロックは昔はBランクでもAランクに有望な冒険者で初心者冒険者の面倒見がよく目利きもあり彼の御眼鏡にかなった者はBランク以上の将来性を認められると言われていた。
そんな奴がなんで詐欺なんてとも思うが詐欺を行ったドブラは昔ウッドロックが面倒を見た冒険者の一人でその頃は純粋に冒険者を憧れウッドロックの事を師匠なんていう関係だった。一度は認めたそんな男がまさか自分を騙すとは思っていなかったため疑わずにギルドから金を借りてしまったのだ。
しかしこの決断の早さは正直ウィレムにとって予想外の出来事ではあった。
もう少し相手から情報を求められると思っていたのだが。
承諾してくれたのだからと良しとする。
了承したウッドロックから視線を移し、まだ決めかねている二人の答えを無言で待った。
ウッドロックがこのタイミングで決断した以上ウィレムはこれ以上自身から話す気はなく、断られたとしても自分は彼らに十分な選択する時間を与えたと判断した。
この会議は自分の為の人材確保するために私情で今回の立場を使って行っている。これが終わればその分仕事をしてチャラにしないといけない。
それだけの手間を取っているので今回の目的であるレオナ親子が断ってきたらショックではある。
ドブラが捕まったから悪夢は無くなったといってもだ。
内心でレオナさんの英断を願う。
ビグルは……おまけで来てくれればいいぐらいだ。
とても長く思える様な、それでいて心臓の音はやけにゆっくりと感じられた。
いつまで続くのかと思われたところで示し合わせた訳でもなく両代表者は答えを告げた。
「私はこれからウィレム王子の申し出を受けます」
「クロツチも同意だ。だが部下になるからには最大限サポートしてもらうぞ」
どちらも下りなかった事で身体から力が抜けた。
机に隠れて見えなかった手をきつく握りしめていたのゆっくりと解かれた。
「歓迎します」
最後に一言告げてこの時三店舗が正式にウィレムの傘下に加わったのだった。
裏設定13
ウィレムの自室は8畳半の寝室に15畳の客室、入浴場やベランダと王族に相応しい程広い。
ただウィレム自身があまり広い部屋が好きではなく大半を寝室だけで事を終えようとするのであまり使われていない。
もう一つの寝室と同じぐらいの広さの部屋には一時期趣味になった物などが大量に置いてある。