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13.初仕事~ギルドは末期です~

 意識が覚醒する。

 しかし暫くの間ウィレムは何のリアクションも起こさずにいた。


 ちょうど起床時間だったのだろう。

 部屋の扉からノックの音が聞こえてくる。


 返事をしない為しばらくの間扉は開かず室内が沈黙した後メイドが失礼しますと断りをいれながら入って来た。


 それをウィレムは判然としない意識の外側で見つめる。


 メイドは部屋に入ると僕が起きていると思わなかったのだろう。

 顔を見てとても驚いた顔をしていた。


 そこまで経ってようやく自分が意識の外側にあった意識が現実に帰ってきた。


 周囲を見渡してその場所がいつも過ごしている自分の部屋であることを確認をする。


 当然の様に自分の自室だ。


 当然家具の位置一つ変わってはいない。


 部屋の中は昨日立った時にずれた椅子も机の上に置いてある資料も使用人を呼ぶベルの位置もそのままだ。


 朝日が昇り窓からは太陽の光が部屋へと差し込む。


 何もかもが静かな喧騒に満たされている部屋を見てウィレムは頭を掻き毟った。

 動かす腕がやけに重く後頭部は何かで殴られたような痛みが走る。

 まるで鍛錬で後頭部を殴られたみたいな痛みに僕は掻き毟る両腕を力なく垂らせた。


「一体何だってんだよ…」


 そう呟いてカラ笑いをした後、ウィレムは限界を迎えて込み上がる吐き気を抑えられずメイドのお世話になるのだった。





「お水です」


 差し出された容器を受け取ってウィレムは容器に入った水を喉に通していく。

 水は冷たく喉を洗い流し湧き上がる不安感をいくらか落ち着かせた。


「ありがとう。だいぶ楽になった」

「いえ、私が来てすぐに吐かれるとは思いもしませんでしたが殿下に何も無いようで安心しました。私は席を外しますが無理せず横になっていてください」


 メイドは優しく毛布を被せてから部屋から出て行った。


 メイドのお世話になっている間にある程度気持ちも落ち着いてきた。

 改めて今日見た悪夢について考える。


 今回の夢は前回までとは全体的に違っていた。


 まず今回の夢には魔物が出ていなかった。

 リアのパーティーが襲われる夢もリエラが襲われる夢もどちらも魔物が関わっていたのでもしかしたら魔物に関係する不幸な人の未来体験を夢を見せられるのかという予想を立てていたのだが見事に外れた事になる。


 それに結末も違う。


 今回のは夢の視点となる者が死亡する可能性が極めて低い。

 悲惨な結末だろうが奴隷堕ちしたとしてもすぐに死ぬ事なんて無いので死亡する者を見るのも当てはまらない事となる。


 他にもシオンことシオちゃんの名前が出ていた。


 これが視点となる母親がいつも言っているからたまたま聞けたのか、それともウィレムが既に名前、もしくは本人自身を知っていたからなのかは分からないが人物名が出てきたという変化は大きい。


「しかしなんでよりにもよってシオちゃんの家なんだよ!偶々リエラに案内された店が当たるって……これも放って置くとまた(・・)続き見せられるんだよな」


 思い出したらまた吐き気が込み上げてきた。

 悍ましく、醜い人間の負の所業を何もできないどうしようもない視点で絶望感を体験させられた。

 王族として甘やかされた今世は言わずもがな、平々凡々な家庭で育った前世でも人の尊厳を踏み躙って興奮するような下郎に直面するような経験はない。

 ゲームではそんなキャラも見ていたが間近で見るのと画面越しで見るのでは気持ち悪さが段違いだった。


 憂鬱だ。

 夢じゃあ逃げる事もできない。

 目を瞑る事も顔を逸らす事もできないのだ。


 これが誰かの精神攻撃だったらまさに回避不能の災厄物だ。

 それが誰かではなく自分の能力でこれからの人生でずっと向き合わないといけないと思うだけでその考えを拒絶したくなる。


「なんで僕なんだ!!もっとこの能力に合った奴がいるだろ!なんで政治的力も持っていない、動かせる人材も少ない、自力で解決できるだけの力も持っていない、平凡な僕なんかにこんな能力来るんだよ!」

 

 目を瞑れば脳裏にこびり付いている抑え込まれた母親の姿が浮かび上がりその時の心情、娘の姿を見ずとも分かる悲痛な叫び声が甦ってくる。

 その後に何が起こるかなんて容易に想像できてしまう。

 それも考えれば考える程どんどんと悲惨な物を思い浮かべてしまう。

 このままじっとしていては負の感情が際限なく溢れてきそうでウィレムは咄嗟にベッドから起き上がった。

 まだ体は重いが何もしていないより体を動かしている方がまだ考えないで済む。

 ベッドから出て顔を洗いに洗面台の前に行くと鏡には酷い顔の自分の姿が映っていてウィレムは顔に何度も何度も水を掛けて気持ちを切り替えようとした。


「切り替えろ。これが前と同じものだとするならまだ現実で起こった事じゃねえんだ。解決するのは簡単な事だ。問題を解決すりゃあいいんだから。

 幸いなことに明日からギルドの取締で不正を調べに行くんだ。相手がギルドの職員って事はもう勝ち決定だろ?……回避できることなんだ」


 沈んだ意識を浮き上がらせるべく口に出して自分を鼓舞する。


 思い返せば今回は前回ほど困った状況じゃない。


 相手はギルドの職員。

 これから自分は彼らの上司の立場で働く事ができるんだ。

 証拠を探して契約を破棄させれば何の問題もなくシオン親子は助けられる。


 助けられる、助けられるんだと自分に言い聞かせて何とか不安を抑えた。


「ウィレム様、お加減はいかがですか?今日は休みにしましょうか?」


 部屋にシルバが入ってくる。


「いや大丈夫だ。大分落ち着いてきたから問題ない。それよりみんなには迷惑をかけたな」


 心配を掛けないようにさっきまでふらついていた足に力を入れて背筋を伸ばして返事をした。

 こちらを見たシルバは一瞬目を細めたが何も追及してこなかった。

 その後ろには心配そうにこちらを見るリアとリエラがいてまるで病人を扱う様に近くに寄ってくる。


「「ウィレム様!」」

「大丈夫心配ないよ」


 言葉で大丈夫だと言っても二人の表情は心配そうなままなので両手で頭を撫でて誤魔化す。

 二人は気持ちよさそうな顔なってされるがままになる。

 これ以上心配されるのは嫌なので一呼吸入れていつも通りの会話を口にする。


「明日の関係者の資料は?」

「既に手配しております」

「後で目を通したいから持ってきて」

「畏まりました」


 シルバもいつも通り答えてくれてそれからはいつも通りの生活を送った。

 サランダ先生には明日からはリアとリエラの二人の面倒を頼み、鍛錬は軽い物にしてもらった。


 今日は午前中の内に日課を終わらせる予定になっていたので朝食を取ってからは休みなく動いていたのだが身体の調子は悪くなるどころかだんだん回復していって昼食の時間になる頃には身体の違和感は無くなっていた。

 別に怪我を本当に負った訳ではなく痛みはただ夢の影響でそう感じていただけだったので治って当たり前だった。


 しかし体調は戻ったはいいが生憎午後からはやることがない。

 外に出ようかと思ったが今日は雨が強く出かけるには良くない。

 しょうがないので自室に戻る事にしよう。


 明日から別行動になるんだしリアとリエラの二人とでも遊んでいよう。





「あら?そこに居るのはウィレム殿下?お久しぶりですわね」

「えぇ、お久しぶりです。カーランシアさん」


 金髪、長髪、縦ロール。

 長いヒールの靴に派手なドレスなのに衣装負けしないスタイルの良さと顔だち。

 オーホッホッホという笑い声が非常に似合いそうなこの女性はカーランシア・セイフレッド。

 伯爵家のご令嬢で4歳上の義姉のセラ姉の友人。家は確か継承権第2位のアルフレッド兄さんの派閥に属していたと思う。


「しばらく見ないうちに随分と他人行儀になりましたのね。昔はカーラお姉ちゃんと言ってくれましたのに」

「僕ももう7歳ですよ。流石にお姉ちゃんは」


 そして幼い頃からセラ姉と一緒に遊んでもらっていて血の繋がらない姉弟と言っても過言ではない程仲が良かったので昔はお姉ちゃんと呼んでいたのだ。

 もう1年以上は会ってなかったが…。


「ならセレナさんの様にカーラ姉と……そうそうセレナさんからもし貴方に会ったら伝えて下さいと言伝を頼まれていたわ」

「な、なんでしょうか」


 セレ姉からの言伝……嫌な予感しかしないんだが。


「セレナさん曰く『やるなら徹底的にやれ!慈悲を掛けるな!それができないのなら泣いて寝ていろ!』だそうよ?何のことか分からなかったけどセレナさんの頼みを断ったら後が怖いですから引き受けましたわ。これってどういう意味なんでしょうね?、あらウィレム殿下お顔が物凄く引き攣っていらっしゃいますわよ」

「いえちょっと……あはははは……」


 自分でも引き攣ってるのが分かる。


 返事をしようにもカラ笑いにしかならない。


 セレ姉言葉は昔からなんか当たるんだよ。

 無視して酷い目に合った事もある。


 それは異能の力だろ?、と思うかもしれないがこの驚異の的中は僕限定で他の人のはまったくと言っていいほど当たらないから断言できない。


 セレ姉は目の前にいるカーランシアさんの領地の一つを任される。


 今回の僕の仕事の延長線上で仕事ができると判断されれば最後には領地の運営まで任されるのだ。


 学園が休みの日も王都には帰らず任された領地に行って運営をする。

 この前の僕の誕生日の際に一回帰ってきたがすぐに戻っているので僕の現状なんて知らないはずなんだけどな。


「それと顔色が悪いですわね。体調管理はしっかりしないと駄目ですわよ。その顔だとちょっとセレナさんには報告できないわ。

 それでは私はこれで、ごきげんよう」


 カーランシアさんはいう事が終わると去って行った。


 あの人絶対セレ姉の伝える為にわざわざここで僕を待っていたな。

 昔から可愛がってもらってはいたけどセレ姉に弄られる時には絶対に助けてくれなかった。寧ろセレ姉の弄られ終わった後の追い打ち役をしていたな。

 今回も伝えた方が僕が困ると思ったんだろうな。


 カーランシアさんの姿が見えなくなると静かに事の顛末を見守っていた二人が声を掛けてきた。


「「ウィレム様」」

「なに!?」

「あの人ってカーランシア様ですよね?」

「うん」

「本物なんだ。私初めて見ました」

「私もだよ」


 状況が読み込めないがなぜか二人が興奮気味だ。

 手を取り合ってカーランシアさんの行った方を見て目をキラキラさせている。


「二人ともどうしたの?」

「どうしたのって知らないんですか?」

「カーランシア様って言ったら伯爵家のご令嬢で文武両道」

「なんて言っても有名なのは領主から兵を借りたと思ったら翌日に領土に燻っていた盗賊を捕縛して首領は本人自身で討ったのはこの街にまで噂になっているレベルなんですよ」

「そんな人と話ができるってウィレム様ってやっぱり凄い人なんですね」


 なんかカーランシアさんの御蔭か二人の僕の株は上がった。

 ただ二人の話し方だと僕よりカーランシアさんのが偉く感じる。

 僕のが王子だから偉い筈なのに……。

 その後なんかカーランシアさんの話が続き僕の偉い筈ゲージはどんどんと減らされていったのだった。




 ◆





 冒険者ギルド一階。


 受付嬢のいるカウンターの奥には普段は使われることのない応接間がある。

 その応接間は本来はAランク以上の高冒険者の依頼や依頼者が口外できない特殊な場合などに使われる。

 それも本当に稀な時にしか使われない部屋であるはずだった。


 しかし今回は異例な事に職員の書類整理の書類置き場として使われていた。


 応接間の扉は常に空きっぱなしで人の行き来が絶える事がなく行き交い続ける。

 書類はまだ半分も置いていないのに既に山になっていて書類を置いた者はそれを見てげんなりしていた。


 その応接間を右に曲がり階段を昇っていくとギルドマスター室へと行きつく。

 ギルドマスターの部屋というだけあって室内は一人の部屋とは思えないほど広々としていてギルマス本人の物だと思われる机に面会用のソファーと机のセット、左右には2m以上ある棚に高価な品々が無数に置かれていた。


 そんな部屋に現在ウィレムは頭を抱えたくなりながら手元に置かれた書類に筆を走らせていた。


 書類にサインが終わると書き終わった書類は横にスライドさせてまた次の書類に手を取る。

 その取った場所にまた別の書類が積み上げられる。


 そんな光景がもう何度も続いていた。


 事が始まったのはギルドに出勤してすぐにウィレムは調査関係者を集めて挨拶と共に今回の作業の流れを説明した。

 その流れというのは、


『これから僕が終わっている書類にサインをしていきますがこちらに無差別に持って来られても困ります。なのでまずギルドの金銭面に関する書類を重点的に持ってきてください。そして他の分野の書類はある程度纏めて整理をしたら後回しにして下さい』


 と、まあ書類整理していくのに同じ分野を纏めて持ってくるだけの当たり前のことを言ったつもりであったのだがこれがギルドの怠慢を明るみにさせた。


 ……というのもこのギルド、書類の管理が大雑把すぎるのだ。


 ギルドに入った依頼の達成した物と未達成のまま剥された依頼がごちゃ混ぜになっていたり、契約書が机の下に放置されていたり、魔物の買取した物資が倉庫に堪りっぱなしで異様な異臭を放っていたり。


 こんな状態で欲しい分野の書類だけ持って来いと言うのは無理なのでまずは書類整理をしてもらい金銭面の書類はギルドマスターの部屋に持ってきてウィレム自身が確認を取ることになったのだ。


 しかしその金銭面の書類だけでも数は多い。


 多いだけならまだ良かったがその上、間違いも、問題も多かった。


「シルバ!これ計算が間違っているから再確認に向かって。あとこれは契約が終わっているのにそのままだ。すぐに確認を取らせて」


 今言った計算間違えや契約期間が切れた書類が既に多数。

 再計算はいいのだが契約切れの方は店舗まで出向いて確認を取ってもらわないといけないので期限切れの書類が出る度に人員が割かれていく。


 だがそれでもまだいい方だ。


 問題なのは嘘の契約で金銭を使っていたことが既に発覚して謹慎中のギルド職員を引っ捕えにむかっている方である。


 冒険者ギルドの職員は元冒険者でそれなりに実績のある連中で腕に自信のある者も多い。


 そして問題を起こすのは決まってそういう腕の立つ者である。

 捕まえに行くと罪になる事を分かっていて無駄に抵抗してきて暴れ出しすからこちらに被害が出ている。


 更に狡猾な奴だと既に家から逃亡していて捜索しなければいけない。

 捜索の人員は一人二人という訳にもいかないので余計に人員が割かれていく。


 余裕のあったはずの人員は半日足らずで完全に不足となり人数の減った事務仕事にも被害が出るという負のスパイラルが出来上がっているのである。


 対応策としてお父様に人員の増加と衛兵に逃亡中の職員の捜索に協力を申し込んでいるが人員を整えるまで時間が掛かる。

 それにまだ金銭関係だけなのに援軍要請をする必要があるという事に先が思いやられてしまう。





 はぁ………。


 予想よりも大変になった仕事の話はもういいだろう。


 もう少しましな話をしよう。

 そうじゃないと僕の精神が持たない。


 そもそもこれは副産物でしかないのだから。

 本当の意味で金銭面の書類を先に回してもらったのはシオちゃんの家の借金の約束手形を手元に回収するのが目的であった。

 職権乱用して掻き集めさせた結果、無事イナリ店の約束手形は見つかった。


 振出人:レオナ(シオンの母)

 受け取り:ギルド アファネ支店

 支払いの開始:5年前と3カ月

 振出地:イナリ店


 間違いなくシオちゃんの家の物だろう。


 そして支払い方法の欄にはギルド職員ドブラが受取人となっていた。


 現在そのドブラには話が聞きたいと呼び出させた。

 だが当人は家にはいなく先程申した逃亡をする人達の一人となっていた。

 なっていたというのはもう捕まっているからだ。


 どうも逃亡中なのに暴動騒ぎを起こして衛兵に捕まっていたらしい。

 

 しかし捕まえたのはいいのだが暴動騒ぎで取り押さえる際、相当抵抗したようで暴れる男を取り押さえる為に気絶させて捕縛したらしく捜索員に担がれて連れてこられたドブラはギルドに着いた今も気絶したままで話を聞ける状態ではなかった。

 今は職員控室で見張り込みで寝かしている。


 まぁ、起きたところでただの現状確認をするだけだからこのまま永眠してもらっても一向に構わないが。


 そんな事よりこの契約書だ。

 この書類通りだとすると……ちょっとまずい状況になっている。


「殿下、物資の買取なんですが商人との契約が切れてもう1年近く買うだけ買って売っていなかったようです。買い取り金も変動させていなかったようで」

「今は冒険者の活動は停止しているからそれは後に回して。ただ売ってなかったって事はそれだけ損出があったはずなのにギルドは平常運転できていたのが気になる。その裏を取っておいて」

「了解しました」

「殿下冒険者の預け金が無くなっています!」

「今の男をすぐに追って。たぶん彼と同じ案件だ」


 それなのにこの忙しさで身動きが取れないでいる。


「殿下!ギルドマスターが横領をしていた形跡があります!」


 もうこのギルド潰した方がいいのではないだろうか。

 今更だがこの仕事を引き受けた事を半ば後悔した。





 それから一晩が経った。


 今日もリアとリエラはお留守番をしてもらっている。

 二人とも僕と離れるのが嫌なのか、それともサランダ先生から逃げたいのか城に出るまで苦労した。

 追い縋る二人にちょっと可哀想になったがまだまだ合格までほど遠いので心を鬼にして置いてきた。


 そんな訳でギルドには僕とシルバ(護衛が隠れて何人かいる)で向かっていた。


「やっぱり思っていた通り(シオちゃんの家の件は)不味かったみたいだな」

「そうですね。(ギルド全体的な意味で)これは陛下も想定していなかったレベルかと」


 初日の夕刻、仕事の終了前にドブラは目を覚ました。

 そしてシルバの尋問の結果ドブラは仲間(夢で出てきた連中)と組んで詐欺を働いていたことを自白した。


 男達はドブラがギルド職員になる前まで冒険者パーティーを組んでいた仲間であり、就職後に冒険者を引退して行方を晦ませていた。

 男達の手口は借金をでっち上げて家族を追い込みギルド職員という身元確かなドブラにギルドの金を貸させて本当の借金を作らせる。

 そして払えなくなった者は奴隷に落として証拠も無くすと言う物である。


 現在仲間の男達は捕縛し終えドブラ共々牢屋にぶち込んで奴隷商人との関係性と行方について国の兵士の方で調べられている。


 また最後に先輩の手法を真似て行ったという証言から他の職員にも問題がある可能性も浮上し流石にギルドの調査から大きく外れているという事で増援と同時に調査を別の人に引き継がせて僕は関わるのを禁止させた。


 ただ何もしないという訳ではない。


 他のギルドの業務の調査、行方不明の職員の捜索の確認はそのまま継続。

 そして被害に遭った家族へ説明をする役目も僕が受け持つ事となった。


 正直これも一緒に、寧ろこれだけでも他の奴に任せたいと継続内容の確認時に思わず叫んでしまいたくなった。

 だって家族の説明とは名ばかりの被害者への謝罪だ。


 今回全面的にギルドが悪いから叩かれるのは確実。

 前世なら食料偽装が食中毒で死人を出して発覚した会社の謝罪をする社長と同じだ。


 本来ならギルドマスターがその役目だがギルドマスターも横領に依頼料の猫糞、そして詐欺の黙認の容疑も含めて城内の地下牢に幽閉されている。

 だから誰かがギルドマスターの代わりにその謝罪をしないといけないのだがそんな貧乏くじ引きたいなんて誰も思わないだろう。


 だからってこんな子供の僕に押し付けるなんて。


「(問題が多すぎて正直ウィレム様には荷が重いと思うんですが)それでどうしますか?」

「明日にでも被害者家族を呼んでくれ。(しかし問題なのはシオちゃんとレオナさんの状況だよな)」

「明日ですね。(今回の詐欺グループの後処理ですか。それは適当な貴族に謝礼金を渡させて謝罪させれば終わる事ですしウィレム様本人がやる必要はないのですが)」

「問題事はとっとと済ましちゃわないとな。(明日の対談中にでも納得してもらわないと)」

「そうですな。問題事を早く済ませるのはいいことです。(まぁそこまで時間は取らないでしょうしその分やる気になってくれるのであればいいでしょう)」


 会話が成立している様でまったく意思疎通のできていない二人は今日もギルドにいる調査員に挨拶をしながらギルドマスターの部屋に向かうと仕事を片付け始まるのだった。





裏設定12

乙女ゲームの主人公と攻略対象は存在します。

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