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10.従者

 ベヒモス討伐から三日程経過した。


 あれから悪夢・・は見ていない。

 前回は事件が起こったその日に見ることになったが今回は事件が終わってもとんと音沙汰がない。


 これがリエラを助けたからなのか、終末の夢を見るタイミングもランダムなのか、そもそもまだ終わっていないのか、現状では判別できない。

 判断するには情報が少なすぎる。

 現状、断言できるのはこれ(悪夢)は自分の能力であるという事ぐらいだろう。


 いつまで悩んでも分からない物は分からない。

 いつ来るか分からないもの(悪夢)に神経を張り詰めている訳にもいかないので僕の中では今回の件は終わったものとした。



 それよりこの三日間についてだ。


 リードさんに引っ張られた後、僕はリードさん、マユキそれに何故かシルバの3人に囲まれて疲労困憊になるまで説教を受けた。

 文字通り疲労困憊になるまでだ。

 説教が小言+筋トレ()とは予想外だった。

 終わった頃には身体の節々が悲鳴を上げていていた。


 それが終わるとお父様に呼び出しを受けて今回の詳細を説明しに行った。

 お父様は説教される側なので説教後の僕を見て同情してくれた。

 ここまで共感し合えたのは初めてかもしれないと思えるほどだ。


 それから経緯の説明を終えたのを見計らってリードさんが入室。

 リードさんの口からフランク家は正式に僕の後ろ盾となる事をお父様に告げると翌日に城内で広まる事となった。



 討伐したベヒモスは半日掛けて街まで運び込まれありのままの状態で運び込まれたべヒモスに住民は驚きと興奮に湧いた。


 冒険者ギルドの解体場では入りきらない為余興も兼ねて街中での解体ショーが行われると街中から住民が押し寄せて見に来る。


 アファネの街でAランクの魔物なんて稀だ。

 最初はその姿に混乱していた住民も不安が過ぎればアファネでは滅多に見られない魔物に興味を持って見に来るのは当然だろう。


 魔物(ベヒモス)の部位は約束通りフランク家が独占した。


 必要な部位の解体が終わると主要な個所は鎧や武器の素材として鍛冶屋に発注。

 食用となる肉は祝杯として討伐と運送に関わった者達を集めて壮大に振舞われた。

 そして更に余った部位は街のオークションに出品して売り払った。


 売り上げは平々凡々な裕福貴族達によってそれなりに高値で売れたそうだ。

 リードさんが言うにはこっちの連中は目利きが悪く金を落とすいいカモなのだそうだ。

 結論から言うとフランク家にとって金銭面でも物資面でも大黒字となった。


 あまりにいい買い物をしたとリードさんからは情報料として下につくのとは別に報酬をくれてやると言われたが特に欲しい物も思いつかなかったので今回のベヒモス討伐前に足止めとして死んでしまった冒険者の家族への当分の資金と仕事の斡旋を頼んだ。

 これで死んだ冒険者の家族の内、半数はリードさんの領土に移住する様になる。


 冒険者と言えば残りの逃げ出した連中だが今回の件は偶々・・フランク家が僕の言葉に乗って動いたため事無きを得たがそれがなければ逃げた冒険者の半数は逃げ切れずにべヒモスによって蹂躙されていただろう。

 最悪べヒモスを街まで連れてきてしまう可能性すら低くはなかった。



 ベヒモス討伐に必要な人数(・・)は足りていた。


 居合わせた冒険者の実力が本来のランクに相応しいものであったのならベヒモスに対抗できるだけの武器の準備が出来ていないので討伐は無理であっても街への連絡役を放ち、残りのメンバーで足止めをするぐらいの事は出来たはずである。


 それが早々に戦意喪失し逃げ出した。


 依頼中の予期せぬアクシデント、勝ち目の少ない戦いでそういった行動は悪い事ではない。

 命あっての冒険者。

 勝ち目がないのなら逃げる事は恥ではないとされている。


 だから悪くはない……ないのだが彼らはアファネの高位冒険者である。


 仮に魔物の群れが攻めて来た時、下位の冒険者はDランクの冒険者と一括りにして戦力として数えられるが高位冒険者は一人一人を戦力として数えられる。常時も冒険者が前線で魔物の進行食い止めるだけの力があるのだと認識しているから安心して暮らせているのだ。


 それが今回の事で本当はまったく使い物にならないのだと結果として明白に物語ってしまった。

 今のままで放置すれば市民からはいらぬ不安を抱かせてしまう。


 リードさんを通してその事を聞いたお父様はすぐにギルマスを呼びつけると説明を求めた。

 ギルドの腐敗についてを追求するとギルマスはあっさりと白状した。

 現在アファネに在籍している高位冒険者の実力不足はギルドも認識していたが一度テストで受かった者を何の問題もなく降格できなかったと弁解した。


 これを放置するわけにもいかないので高位冒険者は即刻実力テストを行う事が言い渡された。


 そのテストが行われたのが討伐から2日目。

 3日目の現在ではまだ結果は出ていないが祝杯の席でテストに立ち会ったという兵士が半数以上はランク相応の実力はなかったと話していたのを耳にした。

 後日にはリエラに足を掛けて転ばした連中は2ランク下がったと聞いて少しスカッとした。


 このまま行くと腐敗の責任としてギルマスはその職を辞職して戦力増強の為に外部から実力者を呼ぶ様になると思われる。


 どう転ぶにしろギルだの機能は停止。

 まともに機能するのに最低でも夏季が終わるまでは掛かるのは確実だ。




 ………話が長くなった。


 兎に角、冒険者ギルドの問題は改善する流れになった。

 これでベヒモス討伐後の処理についても語れただろう。






 後の問題はこれだけだ。



「……それでシルバ。これは何だ」


 鋭く目を細めて睨みつけるがシルバはいつもの表情は1mmも崩れる事なく淡々とした声で返してきた。


「何と言われても見た通りですよ」

「見て分からないから言っているんだ」


 ウィレムはシルバの後ろを指差した。


「なんでここにリアとリエラがいる!?」


 指を指した先には入口から部屋へと入ろうか入るまいかと迷っているリアと今までとは余りにも住む世界が違う城内を歩いたせいで萎縮してしまっているリエラの姿があった。


「お前が呼んだのかっ!?いや、お前だけでここまで呼べたとは思えない。協力者もいるだろ、誰と協力したんだ!」


 二人共身分は平民で彼らの意思で来たという事は有り得ない。

 たぶん何も知らされないまま連れてこられたのだろう。

 そしてその招いた犯人は100%シルバなのだがシルバは城内の出入りを自由に行えても所詮執事であるので他者を入城させる許可は持っていない。


 つまりシルバに頼んだ主犯が手引きしたのだ。


 そしてそいつは絶対に良い仕事をしたとほくそ笑んでいる事だろう。


「状況を説明しろと言いますがウィレム様はもう状況を大方理解していられる様子。必要だとは思えませんが」

「それを決めるのは僕だ」

「分かりました。ではご説明しましょう。

 うすうす気づいておられると思われますが二人を呼ぶ事を許可したのは”国王陛下”です」


 国王陛下と聞いて後ろの二人がビクリと身体を震わせているが今はそちらに構っている暇はない。

 シルバに目線で続けろと訴える。


「ベヒモス討伐の報告を陛下とウィレム様で話した後、私は第三者の視点での報告が聞きたいと陛下に会いました。

 そしてその報告を聞いた陛下はウィレム様が助けたリエラに興味を持ち彼女をウィレムに付けてみてはという話になりました」

「お父様―――ッ!!?」

「それにですがウィレム様は物心つく前に決まった主従関係である私とは何かと話し辛い事もあるというのを前々から感じていました」

「そんなことは………」


 ないとは言い切れない。

 シルバは自分で決めた家臣ではない。

 信頼していない訳ではないが何かあればお父様に報告するのが監視者に思えていたのは事実。

 専属の従者と言ってもシルバに能力(悪夢)の事を話そうと思わなかったのがいい証拠である。


 だからと言ってこういうやり方はないんじゃないかなッ。


「勿論彼女達には承諾を得ております。ウィレム様にとってもいい機会ではないかと思いますが」


 既に了承まで取った後かよッ!


「……………シルバは席を外せ。二人と話をしてから決めさせてもらう」

「了解しました。後の鍛錬は私から説明をしておきますので御ゆるりとお話しください」


 シルバが部屋から退出する。

 シルバの奴、絶対五日仕返ししてやるからな。


 ウィレムは扉が閉まったのを確認すると二人の方へと向き直った。

 視線を向けると彼女達は緊張で固まった表情のまま身体がビクンと跳ねる。


 さっきまで彼女達を雇うのを反対するような発言ばかりをしてシルバを睨んでいた不安にさせてしまったのだろう。

 怖がらせてしては……無いよな?。

 二人とも一度話してる間柄だし。


 しかしこうも顔が強張ってしまっていては頭の方も真っ白になっている可能性が高いな。


 さっきまでのきつい口調からできるだけ砕けた、最初に話をした時みたいに言葉を発した。


「二人とも久しぶり。改めて僕の名前はウィレム・ローグレイ。この国の第7王子です。よろしく」


 まずは自己紹介から。

 フリーズ状態の二人が起動するまで一拍間が空いて挨拶が返ってくる。


「リエラです。これからよろしくお願いします」

「あ、あのリアです。よろしゅくおねがいしましゅ……(カアァァァ)」


 リアの方は壮大に嚙んで顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 前にあった時も僕の事が王子だと聞いて相当取り乱していたからどうしても緊張してしまうようである。

 相手が貴族を飛び越えて王族では仕方がない。

 それとリエラは挨拶だけ見ると真面に思えるが緊張でガチガチの新米兵士の挨拶みたいになっているのでこっちもこっちでまともではない。


「取りあえずベッドにでも座って。立ったまま話すのはつらいでしょ?」


 自分は椅子に座り二人をベッドに進める。

 床にそのまま座ると言ったがそれは自分が嫌なので少々命令気味になりながらも座らせた。


「うん。それじゃあ確認だけど、さっきの執事(シルバ)が言っていたけど二人が承認しているっていうのは本当?」

「はい」

「本当です」


 緊張が解けた訳ではないが今の答えには言わされている感じは見られない。


「なんで僕の従者になってもいいか教えて欲しい」

「わ、私は冒険者の仕事では収入は不安定だったのと今回の事でこれ以上続けるべきか悩んでいた所での話だったから…………(それに私の命はもうあなたの物だから……)」

「えっと前にも話しましたが、私は家から出て働こうと思っていてこの仕事を受ければ、す、住み込みで働かしてもらえるって聞いて………(知らない貴族なら嫌だけどウィレム様なら……)


 二人とも一遍に喋るから最後の方が少し聞き取れなかったが淀みのない(まだリアは嚙んでいるが)答えだった。

 (可能性は元々薄かったが)貴族の使者という可能性はないと思える。


「うん、分かった。二人とも採用するよ。これからよろしく頼むよ」

「「はい、よろしくお願いします」」


 採用すると聞いて二人の表情が少し和らいだ。


「それじゃあ後で色々と話すとして先に荷物を運ぶのとか身の回りの仕度があるだろうからそれが終わったらまた来て」

「「はい」」


 なんかお父様とシルバの手の平の上での行動と思えて釈然としないが二人が従者になってくれるのは正直に嬉しいので何も言わない。


 こうして僕に初めての(シルバを除く)従者ができた。





 

裏設定9

*この世界は乙女ゲームと魔物討伐ゲームを好んだ神が混合させて作った世界です。

ウィレムにはそのどちらのゲームの情報もなく気づくことはありません。



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