01:異世界には夢がある
まったりいくよ! よろしくね!
目を覚ますとそこは、辺り一面、深緑でおおわれた森林であった。
「いや、なんで?」
あたり一面、どっちを向いても木ばかりなのだ。
目をこすって深呼吸してあたりを見回すもやはり森。
うーん、たしかに昨日は自宅のベットで寝たはず……。
その証拠に昨日着た寝間着だし。
寝ている間に運ばれたのだろうか。意味が分からない。
ドッキリ? 犯罪?
いや、僕は普通の一般人だ。冷静に自分の立場を思い出そう。
名前は、今貸 ゆん。
一般的な男子高校生より少し低い学力、少し低めの身長の高校二年生だ。
特技は護身術あとは、あえて個性もと言うなら名前と、顔が女っぽい事くらいのモノで、役にはたたない。
野郎共に、バカにされたり、からかわれたり、告白されたりと、嫌な事ばかりだ……。
変態趣味の野郎から身を守る為に護身術を習い始めたときは、ちょっと泣きそうになったなぁ。
……おっといけない。嫌な思い出はともかく所持品の確認はしておこう。
『漢』ひと文字プリントTシャツ。よく伸びる紺のジャージ。以上!
確認するまでもなかった……。
あぁ、ホントここどこ?
見るからに森。ということは判るのだけど……。
しかし、ここでぼんやりしていても仕方が無い事は確かだ。
ここがどこだか判らなくとも人里が見つかればどうにかなるとは思うんだけども。
しかし、国外だった場合だと言葉は通じないし、国によっては不法入国とかが怖い。
というかお腹がすいた。
ひとまずは食料を確保しつつ、周囲の事を理解してこう。
とか、かっこつけたけど実際、森に放り出されて食料の見極めができる高校生なんてそうはいないだろう。
自分もその例にもれず餓死の不安が脳裏にちらつく。
その辺に生えているのは濃い紫色をしたキノコくらいのものだ……流石に僕でもこれはだめなヤツだと判る。が、一応二、三個ジャージのポケットにでも入れておこう。
一応ね、一応。
うーんどうしよう。
そういえばテレビで人間は数日くらい食わなくても平気だけど、水が無いと結構すぐ死ぬって言ってたような?
実際、人に会えるにこした事はないんだけども、まずは水探しだな。
小川でもあればいいんだけど。
歩く事三十分。まぁ時計なんてないから、言ってみただけだけど。
なんもねぇ。なんもねぇがある。つまり、キノコだ。
僕のポケットにはキノコばかりが増えてゆく。
くえないよ、多分。
あーー食べ物がほしい。
はぁ、森もひたすら単調に木ばかりだし、裸足で歩くのも若干疲れて来た。
なんでもいいや、なにか起こらないかなぁ。
ドドドドドドッ……。
ん、なにかが近づいてくる音が。
んーん、大きな茶色い毛玉? ってあれ、イノシシじゃん……。
どうしよう、なんて考える間もなくイノシシは僕の前で急停止した。
全長3メートルはある化け物イノシシ。
うわー僕もう、なんかここで死にそう……。
てか、なんだこのイノシシ、身体や下あごの牙もでかいが、やたら口がでかいな。
じゃ、じゃなくて、えっと、うーん、あ、挨拶?
「こ、コンニチハ?」
「バウッ!!」
つ、通じてる!?
通じてる訳ねぇよぅ、よだれしたたってるし。
腹減ってるのかな。
てか、イノシシのひと吠えで、身体がビビって言う事効かないし普通に絶体絶命。
くそ、身体動け。いやでも、空腹の化け物相手に何が出来る?
あぁこわっ、今にも飛びかかって来そうだ。
勘弁してください、わけ分かんないまま死にたくない……。
お?
おぉ、震えてるけど腕の感覚がはっきりしてきた。足もなんとか動きそう。
こうなったら大声を出してその隙に逃げるか。
いやしかし、目をそらすのはまずい気がする。
イノシシの口が半開きになり肉食獣の牙が見える、我慢の限界か。
イノシシも腹減ってるんだろうな……。
こいつだって動物だ、弱肉強食。こいつに悪意はないだろう。
あーあ、大口開いてゆっくり近づいてくる。
多分こいつには僕が、ビビって動けない獲物に見えているはずだ。
運はいい。こうなりゃ仕方ない、食え。
キノコを。
大口開けたイノシシの口に、ポケットに詰まっていたありったけのキノコを投げ込む。
これで少しでも怯んでくれ。
僕はその隙に逃げる!
「バヴァァア!?」
ドズン。
は? イノシシが奇声をあげて倒れ込んだかと思うと、数秒程もがいて……やがて動かなくなった。
えぇぇ…え?
キ、キノコぅぇぃ……こわ、食わなくてよかった。
『レベルが1→7にアップしました』
な、なんだっ!? 脳内に女性の声が!
お、落ち着け、イノシシ急死しちゃうし緊張してたしで気が動転してる。
深呼吸。
さて、重要ワード。
れ、れべる?
レベルってあれ、ゲームとかのアレ?
モンスター倒して経験値がたまると上がる?
それで、ステータスが上昇する的な。
《イマガシ・ユン》ーーー
職業[人]
レベル7
・スキル / [ポインター:lv1][異世界言語]
・称号 / [男の娘][異世界転移者]
ーーーーーーーーーーー
唐突に目の前に文字が映し出された。
うわぁ、すてーたすだぁ。
なんだこれ、文字数のわりにインパクトがやばい。
と、とにかく深呼吸だ、落ち着いて状況確認しよう。
目をつむって深呼吸。
すーはー、すーはー。
今いるのはどこかの森の中、で目の前にイノシシの死体、僕のレベルは7で、ステータスもあった。
なるほど、わからん。
仕方ない。ステータスを上から順に見ていこう。
まず、《イマガシ・ユン》
カタカナ表記だがこれは名前。
職業[人]
これもまんま職業だろう。人って……。
で、レベル7
おそらくこれはゲームでモンスターを倒すとレベルが上がるアレだろう。
タイミング的にイノシシを倒したから上がったと考えると一応理解はできる。
問題はこれ、スキル / [ポインター:lv1][異世界言語]
スキル、日本語で言うと技能。という事になるんだっけか。
[異世界言語]は読んで字の如く、異世界の言語技能と思っておこう。今は確かめようがない。
[ポインター:lv1]、ぽいんたーレベル1。さっぱりわからん。
ポイント5倍デーみたいなアレだろうか。一応、僕の技能ではある筈なので後で確かめてみよう。
最後に、称号 / [男の娘][異世界転移者]
称号か、人間国宝とかそういったイメージがあるなぁ。
[男の娘]……うん、次。
[異世界転移者]、これは読んで字の如くすると、異世界に転移した者。
つまり僕は異世界に転移した、という事になるのだろう。マジか。
さて、異世界。
と、言ったらどんなイメージがあるだろうか。
剣と魔法。冒険、友情。美形乱舞する夢の世界。
そして何より転生者に与えられる能力による無双。
実に夢がある。
そんな風に親友が熱演していたのを思い出す。
そんなことより水よこせ。
主人公の彼は平均ちょっと下の身長。
だが異世界基準、平均結構下の身長。
読んでくれてありがとう! 明日の分はあるから明日もこの時間に!