二日目 ――音――
コンビニでのバイト初日、俺は昼休みの休憩中にバックヤードで店長と雑談をしていた。
「それで浦野ハイツに引っ越して、そこから通ってるんです」
俺が何の気なしそういうと、それまで普通だった店長が急にそわそわしだした。
む、なんか不味い事だったのか?
「へぇ、そ、そうなんだ」
心なしか店長の顔色が悪くなった気がする。店長の謎の動揺が気になった俺はさらに掘り下げてみた。
「なにか、気になる事でもあります?」
「い、いや……、そうそう、君の前にここでバイトしてた子がね、ちょうど浦野ハイツから通ってたんだよ。」
「そうだったんですか」
そんな偶然もあるのか、まぁどうでもいいけど。
そんな事になんでちょっと焦ってるんだろ? あ、そういえば……
俺はコンビニに来る時に見て、気になった事を聞いた。
「そうそう、ここに来る途中に、道路脇にお供え物があったんですけど……」
「あ、あぁ……あるね。」
「何かあったんですか?」
「うん…………まぁね。」
店長は額に汗を浮かべ、言葉を濁した。
これ完全に何かあるじゃん……。教えてくださいよ店長。
俺はそれとなく会話をつなげようと、
「あぁいうのって、誰が片付けるんですかねぇ」
「う、う~んどうなんだろうね……」
店長はこれ以上この話題を広げたくなさそうだった。まぁいいか、なんかヤバイ事だったらその内教えてくれるだろう。
夜、初めての接客業と仕事の手順を覚えるのに一杯一杯でかなり疲れていた。俺は基本的に0時を超えないと眠れない。しかし今日は眠気がいつもより早く襲ってきた。バイト帰りに貰った残り物の弁当を食べると滑りこむ様に布団にもぐりこんだ。初日とは違い布団に入るとすぐに眠りについてしまった。
しかし数時間後、再び聞こえて来たバイクを吹かす音で目が覚めた。
「またかよ……」
と、ショボショボした目で呟いた。折角眠ってたのに……。時計は再び三時を報せていた。全身のけだるさと戦いなんとか立ち上がる。すると心なしか部屋が寒く感じた。夏なのにやけに肌寒い。
ん? エアコン効きすぎたか?
しかしタイマーでセットしたエアコンはとっくに電源が切れていた。仕事を終え静かに沈黙している。
俺は外の様子を見ようと部屋の窓際に立った。
外には人っ子一人いない。当然だけど。アスファルトが光を反射しているだけだった。
寝てる間に雨でも降ったんかな?
エンジン音の方向を見ると、俺に気付いたかのように黒い塊が動き出した。アパートの裏手に繋がる細い道から出て来たようだ。
やっぱ103号室の横からだったな。
そしてアパートの入口で少し止まると、そこでも少しアクセルを吹かしていた。月明かりに照らされ黒い塊の正体がやっと見えた。案の定バイクだ、それに黒いバイク用の全身タイツみたいな物を着た人が乗っている。
止まってっけど誰か待ってんのかなぁ? こんな夜中にツーリングでも行くのかよ?
しかし特に変化もないのに、突然黒いバイクに乗った黒いライダーは浦野ハイツ前の直線道路を走り去って行った。
なんだってんだ? 初日は吹かすばっかでずっと動かなかったのに……。
俺は多少イラっとした気持ちを抱えながら眠りに着いた。