めでたしめでたし。
ひたすらに目を奪われて数分、止まっていた時間を動かしたのはガサガサという音でした。
2人は一斉に周りを見ます。
知らない間に流れていた涙も一瞬で止まり―――
「風、か・・・」
「風、ね・・・?」
夫婦は再び動き出したのでした。
抱きかかえた息子は決して地面には置かず、
あらかじめ近くの草むらに置いてあった『それ』に、
――――――――愛しい息子を横たえた。
まるで生まれたばかりのように、何も無い――本当に、何も無かったのです。服も帰り血も邪悪も思考も心も――彼が入っていたのは、大きな大きな桃でした。
商店街から集めてきた、有るだけの部品で創られた大きな桃。
喰べることもできる・・・というのは裏話としましょう。
半分の桃の真ん中に、生まれたばかりの赤ん坊のように横たわる息子へ、2人は最初で最後のキスを送りました。
大きな桃のもう一片で蓋をし、もうそれはただの大きな大きな桃なのです。
2人はそれを愛しそうに抱え、ゆるりと流れる川にそっと置きました。
どんぶらこ、どんぶらこ、と大きな桃は流れていきます。
ふと、優しい風が微動だにしない彼女の頬を撫でました。
「あれ・・・濡れている・・・・・・」
次から次へと流れ出るその雫は血などではなく、紛れもない本当の涙だったのです。
「愛してたわ、太郎。」
隣の彼も、大粒の涙を流しながら、彼女に同意するように頷いていたのでした。
―――――出会った頃の幸せを、呼び戻すように寄り添って。
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「まだ、動いているか?」
右手にGPSを握り締め、焦った様に彼は問いました。
真っ赤な額には汗が滲み、呼吸も不安定です。
その瞳が、同僚は、親友はどこへと語っていました。
吸い込まれるような深い瞳に真っ直ぐに見つめられたその後輩は、
「それが――――」
と口を濁した。
そんな言葉に被せるように――まくし立てるように――口を開きました。
「何も言わなくていい。いいんだ。」
「いいんだ。良かったんだ。何でもない。何でもいい。どうでも―――」
喪服のようなスーツに身を包んだ2人はゆらりと流れる川に息を飲みました――――いえ、それに対してではありません。
どんぶらこ、どんぶらこと川を流れる大きな桃など視界に入りませんでした。
同僚を、GPSを追った彼らの瞳に映ったのは。
―――――――――しっかりとお互いの手を握りしめた、幸せそうな夫婦の死体でした。
めでたし、めでたし。
完結………してしまいました。
嫌だ、嫌だよ……………………………
エタり症の私が完結させたのは喜ばしいこととは分かっているのですが、それでも…劇場の幕が閉じられる瞬間の喪失感と言ったらもう。
辛いです。
それでも………応援ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。