実行当日①
──────深い森の目が覚めました。
綺麗な響きです。
この場にぴったりな。
無防備に赤い海───もとい、「苺みるく」の中で眠りこけていた2人も目を覚ますこととなりました───
が。
「んあぁ!?」
目を覚ましたのは、彼らの愛する息子も同じです。
体に巻かたロープは、見事に寝袋の役割を果たしていました。
朝起きたら縛られていた、など冗談じゃあありません。
もがきます。
それはそれは必死なもので、見るも無惨でありました。
「あなた、やっぱりすごいわね。」
警戒して何重にも縛られたロープは、巻いた本人でも解けないのでしょう。
妻のその美しい微笑みの奥にも、何かが宿っていました。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁ──!!」
彼は唯一動かすことのできる口で喉がかれるくらい叫びます。
赤い水溜りがざわざわと震えるほど。
しっかりと強い、芯のある声で。
見開いたその目は血走っておりました。
───いいえ、血走っているのではありません。
その目から涙のように溢れてきています。
ふらり、と夫が立ち上がりました。
その手には、また、あの棒です。
因縁深い。
「なっ……………………………」
振り下ろしはしない。
力は成人した大の男程あるとはいっても、その体の耐久力は見た目の通りのそれです。
死なない───────程度に。
軽く、軽く後頭部を小突きました。
友達同士のじゃれあいのような動き。
「っ………………」
何か言葉を発しようとしたのか、それともただの本能的な叫びかどうかはわかりません。
その場に、静かに、へたり込むように太郎は倒れました。
「今日だ。やるぞ。」
愛おしそうに息子を抱えた夫婦がそこを出た時。
夫は血で赤く染められたあの棒を背中に背負い、軋むドアを閉めた時。
───気づいていればよかったのです。
警官の持っていた機械が、今もなお警戒モードで点滅をしていたことに。
死ぬ間際にに彼が位置発信装置を、自らを殺した凶器に付けていたことに。
命の叫び───ダイイングメッセージとでも言ったものでしょうか。
そろそろ終わりに近づいて来ました!
レビューありがとうございました。