まだ準備で。
「本当に、こんな事するんですか?」
心底不安そうな顔の妻ですが、もちろん彼女にももう微塵の後悔はなくなっていました。
そして夫は、生きてきて初めて脳をちゃんと使ったたのだと錯覚する程に考えておりました。考えぬきました。
太陽が3度ほど沈んだ後に、自分でもこんな事が考えられたなどと思えないくらいの冬の真っ暗な夜のような計画がついに出来上がってしまいました。
「つまり…………………………………………………そう、こうなって………………………………………そう、こうして、最後はあの、あの時の川に流すんだ!」
「えぇ。もちろん後には戻れないの。だからどこまでだってもついていけるわ。」
初めて見る妻の不思議な瞳をまのあたりにして一瞬慄いた彼でしたが、躊躇なくその手を握り走り出して行きました。
夕暮れに真っ赤に染まる、錆びた商店街へと。
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次々と閉まっていく重い扉を追いかけて、手にした紙切れに目を置く。
ひとつひとつ店をたどり、その紙に書かれた品物を買っていく、それは小さな子供でもできるなお使いのようでした。
そんな行為も今の2人にとっては、重すぎるほどの意味を背負ったものでした。
「え?なんだいそんなものか。はい、やるよ。」
「あぁ、500円だよ。」
八百屋や雑貨屋、工具屋もまわる。
「なにに使うんだい?…まぁ、若い人たちはよくわからんでね。」
「はい、どうぞ。」
どこの店主も、嫌な顔ひとつせずこころよく売ってくれました。
「はい。」
「はい」
……………ひとつひとつの店を回り、彼女の握っているしわくちゃの紙には真っ赤なチェックマークがどんどん増えていきました。その紙に書かれていた品物は、よく見かけるものから何なのかよくわからないものまで。
それでも2人は走り続けておりました。それには何処か遠い世界までも走って向かえるほどの力がありました。一歩一歩に憎しみや後悔、絶望の感情が込められていて、こんなに力強い一歩を踏み出した事などあったでしょうか。そんな事を考えさせられるようなものでありまして。
この後集まった商店街の人々は皆揃って首をかしげる事でしょう。そのくらい、今の2人はまったくもって、本当にまったくわからなかったのです。それは、当の本人たちにも、あまり…。
参考にさせていただきたいので、是非感想をお願いします。
待ってます!