幸せな夫婦喧嘩
「ふざけんじゃねェェェェェ!!」
バンッ。叩きつけられた花瓶は無数の輝く光となり愛する妻に降り注ぐ。
もうどちらのものかもわからない真っ赤なシャワーを浴び、2人とも言葉でさえない言葉で討論を続けておりました。
「あんなのができちまったからいけないんだ!あんなものは無いほうがいい…」
「もの…ものじゃ無いわ子供よ!それもっ…わだしたぢのっ…」
最初に言い出したのは妻でした。はじめは冷静に反対していた夫も、繰り返す暴力により平静を保てず、自分がもうどうするべきか、どんな意見かさえももうわからなくなっていました。
「でもあなたもはじめはそんなことっ…」
「はじめがどうした!あんな化け物が何に必要とされてるってんだ!」
もう3ヶ月となった太郎は化け物と呼べる程の───いいえ、化け物よりも化け物に近いかもしれない何かとなっておりました。
こんな息子など、もう両親にはどうすることも出来ませんでした。
「…………犯罪」
「あぁ。でも…」
犯罪。
太郎がしている事。
両親がしようとしている事。
罪。
太郎の存在。
両親によぎった考え。
「それでもあれは俺たちの息子だァァァ!!!」
森の木の葉は散り、羽ばたく小鳥の羽は舞い、小川の流れが止まった。
───それくらい、その言葉には力があった。
彼女に対して、は。
その瞬間、戸惑いの混ざっていた彼女の目は一気に透き通ったものへと変わってしまいました。
妻が発した『育児放棄』。重く響くその言葉は、いまの状態の始まりであり
………そして終わりでありました。
「「ハァ…ハッ…………ハァァァ…」」
ようやく結論を導き出したらしい2人の「夫婦喧嘩」は、どこの夫婦にもある喧嘩と同じで。
最後はお互いを分かりあい平和に平和に、幸せに幸せに、解決する事となりました。
──────それは、「愛する息子、太郎の放棄」と言った方法で。
この後、斧を買いに行った太郎はこの部屋を見てどうなってしまうのでしょう。
むせかえる血の香りに興奮を覚え、また狂乱を繰り返すのでしょうか。それとも紅く輝く部屋に疑問を持ち、そして両親に…