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あなたは突然現れて笑いかけてくれましたね。

 好きだった人がいた。 多分、だけれども。

幼い私は恋なんて解らなかったから、いなくなってしまったから愛しいのか

愛しかったからいなくなってしまったことを想い続けているのか。未だ分からない。

いつも一緒にいてくれた人で、突然消えた人。近所の笑顔の可愛いお兄さん。

ただこの冬私は確かにあの人を見た。いや視てしまったのだろうと思う。

好きだったあの落ち着く匂いと、変わらないままの笑顔。

少しくるっとした黒い髪の毛も、健康的な小麦色の肌も。

満天の星空の下 昔と何一つ変わらないあなたはそこにいた。

「ただいま。」と笑ってくれたあなたを私は一生忘れたくない。


 しんしんと積もる雪と、吹き付けるような冷たい風の中

「どこにいたの?」

何とも言えない、色々な感情が混ざったままの心で問う。

「おっきくなったなぁ。」

彼は答えない。私は大きくなっただろうけれど、あなたは変わっていないじゃない。

そう、非難するような目を向けると

「いろいろあったんだよ」

悲しそうな表情でこちらを見てくる。 けれど、あなたは本当に此処にいるの?

「さぁ、もう暗いから、早く帰らないとだよ?」

あぁ、いつかと同じ、あの笑顔で「帰ろう」と言うのね、夢かしら、妄想かしら

そうも思ってみたのだけれど、差し伸べられた手はとても暖かったの。


 「また明日ね。」

彼はあのあと結局手を離さず、そのまま家まで送ってきた。

昔と変わらない。あなたから見た私はいつまでも幼い近所の家の子なのかしら。

「ねぇ、あなたはどこへ帰るの?」って聞きたかったけれど、

聞いてしまったら全てが幻になってしまうような気さえして、聞くことすらできなかった。

家はいつもどおりの静けさで、「温めてから食べてね。」

そう書いてあるいつもどおりのメモ帳と昨日の残りのご飯。

こんな時でも私の胃は「空っぽだ!」とお腹を鳴らして抗議してくる。

どこか寂しさを感じさせるリビングで一人ぼっちの夕食。

一人だとどうしても色々考えてしまうから、現実逃避の就寝をする。


 夜が更けて、いつもどおり気だるい朝、ぼーっとしたままの頭はまだ目を覚まさない。

昨日のことは多分夢か何かだろうと折り合いをつけて、気分転換に出かけたけれど

昨日嗅いだばかりのあの落ち着く匂いがどこからかしている気がする。

「気のせい気のせい。」独り言を口に出して自分を納得させる。


 夕方、何も起きなかったことに安堵しつつ 少しがっかりしている自分がいた。

「…いないに決まっているじゃない。」

と自分に言い聞かせたのだけれど、

「現にいるのだから、信じて欲しいかな。」

忘れることのできない声が少し悲しそうに背後で返事をした。

びっくりして後ろを振り返ると昨日と同じ彼がいた。

夕焼けに染まる空をバックにした彼は少し悲しそうな笑みでこっちを見て

「ほら、もう夕方だよ。早く帰らないとだよ?」

昨日と変わらない彼、寒そうに鼻を少し赤くして、マフラーを巻いたあなた。

既視感。彼は昨日とそっくりの笑顔で私に手を差し伸べた。

私はそれがまがい物であることをわかっていながらも差し伸べられた手を掴む他なかった。

帰り道、私はまた問う。答えが返ってこないことを知っていても、問わずにはいられないから。

ここで聞かなければ、昨日と一緒になってしまうから。

「ねぇ、あなたはどこへ帰るの?」

返事はない。

「あなたは、今までどこにいたの…?」

彼は笑顔を顔に貼り付けたまま、口を開くことはない。

「ねぇ…、ねぇ!!聞こえているんでしょう!!」

声を荒げると彼はまた悲しそうな顔になって

「答えられない。無理なんだ…」

そんな言葉は、表情はずるいと思うの。―― それ以上問うことは、許されない。

「また明日ね。」

またほら、既視感。あなたは今日も手を離さず家まで送ってくれた。

私の気持ちくらいわかっているでしょうに、幼い時の関係を崩そうとしない。

崩してよ、お願いだから。折角神様がいたずらして同じくらいの歳になったのだから。


 子供たちが楽しそうに遊ぶ声が聞こえて、いつかのことを思い出す。

「さようなら、――ちゃん!」

「ばいばい!」

さようならの言葉がやけに重く聞こえて、冷め切ったご飯を温めないまま口に運ぶ

少し胸が痛んで、その痛みを抱えたまま眠りについた。


 「もう、行かなくちゃならないんだ。」

彼は朝早く私の前に現れたかと思うと唐突にそう言った。

突然来て、私を振り回したと思ったらもう行ってしまうの?

「時間がないんだ。もう一生会えないだろう。」

なぜ?何も思っていないような顔でそんな言葉が言えるの?

彼は笑いながら、どんどんと薄くなっていく。

現実味のない光景がやけに鮮明に、ゆっくり、目に焼き付いていく。

ねぇ、待ってよ。待ってよ ――― 。



 ジリジリジリジリ ―――

喧しく目覚ましが鳴っていた。目覚めは最悪。気分も最悪。

「本当、最悪だ…。」

こんなにも強く思っていたのか、それとも戻ってきてくれたから思いが強くなったのか。

もう、頭がグチャグチャになってる気がする。


 今日も帰りに迎えに来てくれるのかな。

そんな期待をしている私が馬鹿らしかったけれど、

放課後遊ぼうっていってきた友達の誘いすらも断って真っ直ぐ帰路に着いた。

昨日と同じ笑顔の彼が気がついたら近くにいて、

あぁ、また変わらない、変わることのできないあなたが

「迎えを待っててくれたの?早く帰らないとだよ?」

昨日と同じで少し違う、愛しいあなたの手が差し出された

迷うことなく、掴むの。離さまいと思いながら。


 「さ、付いたよ。また明日ね?」

昨日とそっくりな彼の言葉、明日もまた同じ日々が続くのだろうか。

それともあなたは急にいなくなってしまうのか。

話した手は昨日より少し冷たく感じた。


批評歓迎いたしますが作者は豆腐メンタルです。

完結はさせますが一週間に一投稿程度の遅筆です。


ご了承くださいませ。

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