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別れの時はすぐそこに

 三人の小さな魔法使い達はいつも食事をしている円卓に腰掛けた。遅れてやってきたセレスも席に着く。その手にはなにやら小さな箱が握られている。ミーアは目をしばたかせた。それはミーアが『魔法使いの黒水晶マギウスモリオン』を入れている、リルドラ魔法学校から授与された宝石箱と同じデザインだったからだ。ミーアのそれよりも少しだけ古びた箱をセレスはテーブルの上に置き、三人の弟子達に語り始める。


「これには見覚えがあるよね?」

「は、はい。リルドラ魔法学校から『黒水晶モリオン』と一緒にもらう宝石箱です……」

「……やっぱり……先生はリルドラの生徒だった……?」

「ほう、それは初耳に候」


 三者三様の答えに頷き、セレスは箱を開ける。中にはミーアのそれと同じように丸い宝石が入っていたのだが……しばらく三人はそれが何なのか分からなかった。


「……!? こ、これ……まさか『魔法使いの黒水晶』ですか!?」

「……真っ白……」

「ふむ……拙がこれまで見聞きした範囲ではありえぬことなり」


 少女達が全く気付かなかったのも無理はなかった。その宝石の色は赤でも、青でも、緑でも、またはそれらが混ざった色でもなく、ましてや黒ですらなかった。何も知らずにこの世界に産み落とされたかのように無垢な色、一点の曇りもない完全無欠の純白だったのだ。


「今から少しだけ昔の話をしよう。僕はリルドラに入ってあの試験を受けた。そしてその時の答えがこれさ。今まで前例にない結果だったらしくて先生達も多いに困惑していた。なにせ、この世界の住人はいずれかの色をした魔力をその身に宿しているのがそれまでの常識だったからね」


 淡々と語る師の言葉を、三人の少女は黙して聞いてた。


「魔力らしきものは僕の中にも確かに存在はしていた。でもそれは炎とも、氷とも、雷とも呼べない出来損ないのものだったのさ。今思えば当然だけどね。僕はそれら三種の力の区別をつけることが出来ず、すべてをごちゃごちゃに混ぜ合わせたような魔力の流れを生み出すことしか出来なかった。果汁だっていろいろな種類を適当に混ぜ合わせたら何とも言えない味になるだろう? それと同じさ。僕の魔力はオレンジでもブドウでもリンゴでもない何かに過ぎなかった」


 セレスは一息つき、また昔日の思い出を語り始める。


「やがてクラス分けが行われたけど、もちろん僕はFクラスに入れられた。とはいえ、他の子達は最低限一つの魔法は使えたけどね。僕は相変わらず魔力のコントロールすらおぼつかない状態だった。実はそのクラスにはパサランもいたけどね。僕より年上だけど彼は同級生でもあるんだ。……まあ、お察しの通り僕は学校の連中から『白い黒水晶』を始めとした様々な二つ名をつけられたり、ことあるごとにからかわれたりと不遇な時期を過ごした。パサランにはずいぶんと庇ってもらったもんさ」


 ミーアはルナルナを盗み見た。まるで、自分達と同じではないか。


「そして僕は魔法使いになりたかった夢を諦め、逃げるようにあの学校を去った。そこで僕の師匠に出会ったのさ」


 セレスはその頃のことを思い出しているのか、瞳を閉じた。


「魔法は万能じゃないってのは僕の師匠の受け売りさ。あの人は魔法が使えなくて落ち込んでいた僕を、魔力の多寡で人間の価値を決めるな。魔法が使えるのがそんなに偉いことなのかってよく叱ってくれた。魔法はあくまで武器の一つにすぎない。剣が使えないなら槍を使え、槍が使えないなら弓を使えってね……。実はあのマーブルドラゴンの片目は師匠が魔法のハンマーでぶん殴って抉ったんだ。凄いだろ? ……そしていろいろと僕を鍛えてくれた。魔法を使わなくても魔物から身を守る方法や薬草の知識、料理の仕方なんかもね。もちろん、魔法のこともあきらめた訳じゃなくて訓練はずっとしてた。あのミーア達がやってた苦行みたいな修行も毎日ね」


 ミーア達は少しだけ気まずそうにそれぞれ目を逸らした。三人ともあの修行はただの嫌がらせではないのかと思ったことが一度ならずあったからだ。


「《魔炎灯マジックトーチ》を使えるようになったのは、確かリルドラに入った時から数えると五年目だったかな? まあ、それからはとんとん拍子だったけどね」


 その言葉に少女達は唖然とした。特にミーアの驚愕は計り知れない。あの気が遠くなるようなもどかしい時期を、この目の前の人は五年も過ごしたのか、と。


「これは師匠の推測だけど僕はいずれ炎、氷、雷、全ての魔法を10レベルまで使えるようになるらしい。『黒水晶』が真っ白になったのも、途方もない全ての魔力が均等に混ざり合って反応したからじゃないかって言ってた。もちろん前例がないから本当に推測でしかないんだけど」


 ちなみに今セレスは三種の魔法を8レベルまで使いこなせるようになっている。師の推測の矢は少なくとも今のところ正しい的に向かって飛んでいる訳だ。


 この大陸の魔法使いで10レベルに達した魔法を使える者など、それこそ十年に一人出るかどうかと言われている。三種の魔法全てがその高みに達する可能性があるというセレスは余りにも規格外だった。


 そこまで喋り終わったセレスはなぜか目を逸らし、頬をかいた。


「それでまあ、僕が『黒水晶』を嫌いだったり、リルドラのやり方に否定的だったり、あのドビーって奴みたいなのを敵視してる理由も分かっただろ? あんまり格好よくないよね」

「そ、そんなことないですっ!! あの時助けてくれたおししょーさまはとても素敵でしたし……あ、いや、その」


 口上の途中で顔を赤らめ、言葉を濁すミーア。セレスはそんな少女ににこりと微笑む。ルナルナは二人を交互に見つめていたが、思い浮かんだ疑問を口に出した。


「ひょっとして……先生も高レベルの魔法を使えるようになった後……リルドラから召還された……?」

「よく分かったね、もう一度学校に入り直さないかって手紙が届いたよ。もっとも、その話はおじゃんになったけど」


 理由はセレスの師が怒って学校に殴り込みをかけたからなのだが、さすがにそれを目の前の少女達に喋る気はなかった。それ以来リルドラがセレスの師を病的に恐れるようになったのは当然のことだろう。なお、同じ頃弟弟子となっていたパサランが師に対し、リルドラの講師になってあの学校を変えたいと言った時、師は一筆を彼に持たせて送りだしたらしい。パサランが競争率の高いリルドラの講師になれたのは、絶対にその書状のせいだとセレスは思っている。


 昔話を終えたセレスは居住まいを正す。弟子達に最後の講義をする時間だ。


「魔法は便利な武器だ。ただ、決して万能じゃないし、魔法が使えるからといってそれを鼻にかけるようになっちゃいけない……まあ、もうそれは三人とも分かってるはずだ」


 セレスはミーア、ルナルナ、クナイのそれぞれの顔を順に見た。近い将来に行く道が別たれる、可愛らしい弟子達のその真剣な表情を。


「ミーア、ルナルナ、そしてクナイ。もう君達はこの場所を巣立つべき時なんだ」


 ミーアとルナルナはすでに師と同じ8レベル、クナイも最近になって3レベルの魔法を身につけていた。3レベルもあれば、魔法使いに求められる仕事は最低限こなせるものだ。


 セレスは万感の思いを込めて、卒業の言葉を少女達に伝える。


「今までよく頑張ったね。君達はもう立派な、世の為人の為に力を使える魔法使いだよ」


 しばらく、三人は微動だにしなかった。やがてミーアの肩が震えだし……。


「ううっ……お、お、おししょーさまあっ……!!」


 ミーアは席を立ち、円卓の向こうに回るとセレスにすがりついた。師匠も可愛い弟子の頭を優しく撫でてやる。


「ううっ……ひぐっ……えっぐ……」


 泣きじゃくるミーアをセレスは何も言わずに抱きしめる。ルナルナも師に対してありがとうと頭を下げ、クナイも眩しいものを見るような目で二人の男女を見つめていた。


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