戦い終わって
「うー……」
「疲れました……」
「……同感……」
「拙も右に同じに候……」
カラフルベリー亭の一角で。
一人の少年と三人の少女がぐったりと椅子に腰掛けていた。目の前には様々なデザートが載った沢山の皿があるのだが、誰も手を付けようとしない。時々やってくる彼らの知り合いが代わりに食べていた。
「うふふ……皆さん、セレスさん達に感謝してるんですよ」
そばにやってきたハイネが笑顔と共に答える。優しい瞳が四人に、中でも特にセレスに対して注がれていた。
あの戦いから数日が経った。魔竜によって外壁は破壊され、魔物達との戦いに従事していた者達の幾人かは帰らぬ人となったが、避難していた一般市民に被害が及ぶことはなかった。
街が滅ぼされずにすんだ一番の功労者はここにいる四人だと誰もが知っており、セレス達は街の長からは土地を提供するから街に住んでくれと言われたり――これは昔から常々言われていたことではあったが――、リルドラ魔法学校の生徒達からは賞賛と畏怖が混ざり合ったような視線で見られたり、街で人とすれ違う度に体を叩かれたり、自宅に篭っていると弟子入り希望の老若男女が押しかけてきたりと心休まる時がなかった。
そこで疲れを取る為に甘いものでも食べようかとこの店にやってきたのだが、ここでも瞬く間に人が集まり、もみくちゃにされ……。結局店のサービスで料理の皿が大量に並びはしたものの、誰も手を伸ばさないという状況になったのだ。
「でもよかった……皆さんが無事で……。街の外でセレスさん達があの竜と戦っているのを見た時は、もう心臓が止まるかと思いました」
「ハイネさん……」
ハイネは潤んだ瞳でセレスを見つめた。セレスもその紫水晶の虹彩を見返し、側では何やらミーアとルナルナが不機嫌な顔でそれを見上げており、クナイは我関せずといった風情でようやくデザートの皿に手を伸ばし始め……。
「よう、ここにいたか」
そして突然の乱入者によってその空気は霧散した。我に返ったセレスはその聞き覚えのある声の主を振り向いた。
「パ、パサラン? ま、まだ街にいたのか?」
「まだいたのかは酷いな。あ、どーも久しぶりですハイネさん」
「ふふ、確かに御久しぶりですね。パサランさん」
先ほどまでの雰囲気を微塵にも感じさせない様子でハイネは答えると、それではと一礼して店の奥へと去っていった。セレスはそれを未練がましく見送っている。パサランは椅子を隣のテーブルから一つ拝借し、断りもいれずに腰掛けた。
「一応戦いの後始末なんかも俺達の仕事に含まれているからな。とはいえそれも大体片付いた。あとはガキ共を連れて帰れば俺は御役御免ってわけさ」
「そうか。君のところの生徒は無事だった?」
「ま、幸いにも、な。人を舐めた連中が多いが、それでも一応教え子だからな」
そこでパサランはミーアとルナルナを見た。
「しかし、お前達があそこまでやるとは思ってなかった。大したもんだ」
「えへへ……おししょーさまのおかげです!! ……あ、でもでもパサラン先生にも感謝してますよ」
「ずいぶんと取ってつけたような感謝だな、おい」
「うう、ごめんなさい……」
小さくなったミーア。そんな隣の少女を横目で見つつルナルナが口元に笑みを浮かべ、学校で一講師として落ちこぼれの自分達に真摯に向かい合ってくれていた男を見上げた。
「でも実際感謝はしてる……ありがとう……」
「こう言ったら悪いが、素直なお前を見てると何だか不安になるな」
学校でのことを思い出し、パサランは顎髭をなでた。ミーアが出て行った後、自分をセレスのところに弟子入りに行かせろと噛み付くように直訴してきた少女の顔が脳裏に浮かぶ。いつの間にやらこいつもずいぶんと変わったものだ、とパサランは思った。
「で、お前らはこれからどうするんだ? 俺が学校に報告した後、多分お偉い連中がお前ら二人に召集をかけると思うぞ」
その言葉に二人は一瞬きょとんとし、慌てて自分達の師であるセレスを見た。確かに今少女達はセレスの弟子となってはいるが、それと同時にリルドラ魔法学校の一生徒でもあるのだ。
セレスはおそらくそうなるだろうと思っていたので驚くこともなく、黙って果汁入りのカップを手に取った。もはや二人は魔法の腕だけならこの国でも五指に入る人材となってしまっている。あまつさえ竜を倒し、街を救った英雄だ。魔法学校がそんな人材を放っておくはずがなかった。たとえ、かつて少女達を冷遇していた事実があったとしても。
やがてカップの中身を乾すとセレスは背筋を正した。
「一度僕達の家に戻ろう。見せたいものがある」




