青い花の効能
セレスが連れてきた医者による手当てのおかげで、ルナルナはその日の内に快方へと向かい始めた。ミーアが手に入れたあの花は、少女の熱が下がったおかげで使う必要がなくなった為、鉢植えに入れ替えられて、可憐な青の花びらで少女達の視覚を楽しませた。
そして数日後。
「ミーア……本当にありがとう……私の為に」
「ううん、あたしは結局何もやってないよ。病気が治ったのは御医者さまの手当てとルナちゃんの回復力のおかげだし」
「そんなことない……ミーアが危険なことをしてまで私を助けようとしてくれた……それだけで私は十分に嬉しい……」
「う……えへへ、じゃ、じゃあ、どういたしまして」
照れくさいのか舌をぺロっと出してはにかむミーア。ルナルナも微笑み返し、やがて体の向きを変える。
「それとクナイ……貴方もありがとう……ずっとそばで看病してくれた……」
「なに、世の中は持ちつ持たれつに候」
クナイも珍しく恥ずかしそうにしている。そんな異国の少女にもう一度微笑みかけ、ルナルナは最後に己の師匠へと向き直り、見上げた。その顔にはいつもの無表情と違い、セレスが今まで相対したことがなかった穏やかな微笑が湛えられていた。やがて、頭はふかぶかと下げられる。
「そしてセレス先生……ありがとう。ミーアを……そして私を救ってくれて……」
「何、弟子を守るのは師匠の務めだからね」
セレスは気さくに答え、言葉と共に頭をかく。その行為はもちろん照れ隠しであろうし、三人の弟子は当然そのことに気付いている。
「しかし中々美しい花弁に候」
ミーアが手に入れてきた薬草にもなるという花を見てクナイがぽつりと呟いた。
「うん、ほんと綺麗だよね、このお花。葉っぱは薬草として使えるし、いいことずくめだね!」
「そうだね、実際僕もこの前まで育ててたし、あ……」
焼けた薬草園のことを思い出したのか、ミーアの顔が悲しみに暮れてしまう。慌ててセレスが口添えた。
「ミーア、もう君はあのことを引きずる必要なんてないんだよ。あれは、まあミーアの凄さを図るものさしになったってことで。だからもう悲しまないで?」
「いかにも。拙の小判を使えばあの規模の薬草園を元に戻すのは可能のはず。それをしていないのはセレス師の怠慢にほかならぬ故」
怠慢で悪かったね、とは思ったが口には出さないセレスであった。
「うう、はい。ありがとうございます……」
ミーアもそれぞれの気遣いに感謝し、もう一度だけ頭をぺこりと下げた。
「ところでこの花を育てていたセレス師はその効能を知っておられるのでは?」
「あっ、そうだ。おししょーさま、効能のところに副作用があるというようなことが書かれていたんですけど、あれは一体なんなのですか?」
「う、あ、あれのことかい?」
「はい、ぜひ知りたいです!」
目を輝かせているミーアの傍らで、クナイがルナルナに対してこの花のことをざっと説明していた。
「しかもその記述をまとめていたのはセレス師のようで」
「それは確かに私も気になる……あの本のまだ未完成の部分を埋めていくのも私達の務め……」
三人の弟子が熱意のある眼差しで見上げているというのに、なぜかセレスの表情は硬かった。しかし弟子達の好奇心はもっともだし、嘘を教えるわけにもいかない。
「その、ええとね。まあ副作用というか、あの薬草が持つもう一つの効能というか……」
頷く三人の少女達。セレスは歯切れが悪くも続ける。あの記述は斜線じゃなくて完全に見えなくなる処理をしておけばよかったと思いながら。
「……か、簡単に言うとだね……。不必要な水分を体外に出すことにより……体のむくみを取ったり……または血の流れを良くしたりする……。つ、つまり……何て言うかその……利尿剤……」
「……!!」
「あいたあっ!? こ、こらルナルナ、すねを蹴るんじゃない!?」
最後にセレスがぼそっと呟いた言葉に一瞬でルナルナの顔が紅潮し、セレスへと強烈な一撃を御見舞いした。その顔にはもはや先ほどのような微笑など見る影もない。
「最低っ……!! そんな薬草を私達で試そうとした……!! やはり貴方はクズ……!! クズ先生っ……!!」
「ま、待てルナルナ!! お、落ち着くんだ!!」
慌ててセレスは逃げ出し、病み上がりのわりに元気なルナルナがそれを追いかけていった。ミーアは首を傾げ、傍らのクナイに問いかける。
「りにょーざいってなに? クナイちゃん」
「……知らぬが仏に候」
クナイは自国で良く使われている格言でその疑問への答えとなした。
=第5章 終わり=




