ナーシサス盗賊団
一瞬だが、完全に意識を失っていた。
そりゃ爆風であれだけ高いところまで飛ばされて、まっさかさまに落ちたら気ぐらい失うよな……。
うわっ腹から凄い血が出てる。
今はララが、僕の傷だらけの身体に手を当てて、治療魔法をかけてくれている。
一つ目の巨人は煙の中、身体に引火した火を消そうと暴れている。
その他の二体の魔物はこちらを見て様子を見ている。魔法を見て少しひるんでいるのだろう。
「……ララ、大丈夫だったか?」
「リリーお前、まずは自分の心配をしろよ……まったくもう」
「ははっ、わりぃわりぃ」
「話は後。まずはここ【赤の世界】の、物語の終盤に出てきそうな魔物たちに囲まれちゃってる、この状況をなんとかしなきゃな」
「そうだな……まだ序盤もいいところなのにな。サンキュ、ララ。痛みは治まった」
「じゃあ、まずはあの厄介そうなケンタウロスからいくか」
その時、突然ケンタウロスが前のめりに倒れた。
何が起きた?
「うちの団員の、ゼルコバを殺したのはどこのどいつだ!? ナーシサス盗賊団、団長のニレだ!! 勝負しろおお!!」
あ、盗賊の中にいた金髪細マッチョ女だ。そして僕が殺されかけた女だ。
「団長、魔物だから言葉は……」
団員と思わしき人がそう告げた瞬間、ニレはその団員をぶん殴った。
「うるさいうるさいうるさああい!! 団員があんな殺され方して黙っていられるか!! ならばここにいる奴ら、皆殺しだああ!」
「団長落ち着いてください!」
団員の制止を振り切り、ニレはライオンのキマイラに切りかかる。
それに続き、二人の団員もその魔物に対して、斧や槍で攻撃をし始める。
ララは、火は消えたが全身火傷で苦しそうに息をしている一つ目の巨人を見ながら、僕に話しかけた。
「あの姉ちゃんつえーな、一撃でケンタウロス倒してたぞ……。まぁいいや、あたしらはあのデカブツを仕留めるか」
「あぁ、そうしようぜ……あ、そうだ。僕な、武器に魔力を込めて爆発させるコツがちょっと掴めてきたんだ。それで、あのケンタウロスが使ってた弓矢を使ってみたいと思っている。今から取って来るから、それまで一人であのデカブツ、頼んじゃってもいいか?」
「まっかせろ! 殺さないでおいてやるぜ!」
「おっ、ありがとな! 恩に着るぜ……やっぱり感覚麻痺してきてるよな……」
「ん? 何だって?」
「ううん、なんでもない。じゃあ行ってくる」
キマイラはもう殆ど死にそうだ。物凄い勢いでニレは剣を突き刺しては抜いて、を繰り返している。
ララは一つ目の巨人の片腕を、風魔法で切り落としていた。
僕は走りながら、さっきまで自分が抱いていた感情を思い出していた。
自分はもう死ぬんだ、と完全に思っていた。しかし、焦りや悔しさといった感情は全く沸いてこなかった。今になって考えてみると不思議だ。僕はもしかして、そこまで生に執着していないんだろうか?
僕は、僕のことが少しだけ分からなくなった。
目的の場所に辿り着いた。
ケンタウロスの亡骸の側に落ちていた弓を掴む。そしてその周りに散乱していた矢を装着し、一つ目の巨人に標準を向け、イメージする……爆発を……そして矢を放つ!
矢は一直線に一つ目の巨人に向かっていった。しかし、勢いが足りなかったのか、途中で失速し、完全に見切られ、手で払われた。
その瞬間、大爆発が起こり、一つ目の巨人の肩から上は、爆発によって吹き飛んだ。
よし、成功だ。
僕の魔法に、弓矢は相性がいいだろうと思ったのだ。
魔物を全部倒して安心をした瞬間、僕はニレに剣を向けられた。他の三人はララに武器を向けている。
ニレが口を開いた。
「お前ら、ここはどこなんだ? 殺されたくなければ答えろ!」
すぐに僕は答えた。
「こっちが聞きたいくら……」
僕が話している最中、ララが割り込んできた。
「ここは……【赤の世界】。魔物の世界。「赤竜」様が治める世界だ」
ララ、そういえば世界についてやけに詳しいよな。記憶喪失のくせに!
ニレが叫ぶようにして言う。
「誰がこんな所に連れてきた!? お前らか? お前らがさっきやった魔法のようなもので、あたしたちを連れてきたんだろ!?」
ララも負けじと叫んだ。
「知らねーよそんなの! ばーか!!」
ニレは興奮して地面を蹴りながら言った。
「嘘だ! こんな魔法みたいなことできるのは、お前らだけだ!! 早く元の場所に戻さないと、殺す!!」
「なんだとおお! 知らねっていってんだろうが!! ばーかばーか!!」
僕はニレに言った。
「……ニレさんでしたっけ? 仮に僕らがここに連れてきたとしても、僕らを殺しちゃったら、元の世界には戻れませんよ? あなた達にだって分かるでしょ、ここが今までの世界とは違うってことが」
ニレはしばらく黙った後、僕を睨め付けながら言った。
「……何が言いたい?」
僕はニレから目をそらさずに言った。
「協力しましょう」
「誰がお前らなんかと協力するか! 拷問してでも戻り方を吐かしてやる!!!」
団員達は一斉に剣を構えなおした。
僕はゆっくりとした口調でララに話しかけた。
「なぁ、ララ。ここが【赤の世界】って言うんなら、【緑の世界】への帰り方について、何か心当たりはないのか?」
「……あたしには何も分からない。でもここを……この世界を治めている赤竜様なら何か分かるかも」
そんな話をしていたら突然殺気を感じ、辺りを見渡した。
首が三つある巨大な犬に囲まれていた。10体はいる。
僕は弓を握り締めた。