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出発

 今日はもう昼過ぎになってしまっていたので、この町を出るのは明日にすることにした。

 だから今日やることは、今のところ何もない。


「最近リリー、あのアル中野郎とホモってばっかだったから退屈してたんだよ! 今日はどっか行こうぜ」

「ホモってなんかないわ! そしてアル中に関しては人のこと言えないだろーが!!」

「とりあえず外出ようぜ! まずは……飯だ!」


 と言うことで、僕らは食事をしに宿から外へと出た。

 金はまだまだある。だが今のところ僕らに収入の見込みはないので、質素な食生活を送ってきた。

 主にパンとスープ。一食、大体、銅貨3枚といったところだ。

 しかし、いくらそこで節約しようと、夜になると酒場で結構使ってしまうんだが……。


 それは置いておいて、今日はこの町も最後と言うことでちょっとぐらい奮発をしちゃおうという話になり、僕らはいつも食べていたスープを、シチューに変更した。銅貨5枚くらい。

 

「いやー、食った食った!」

「ララ、ほんとよく食べるよな。この世界はどこもお代わりが無料だから助かるよ」

「リリーの住んでた世界では違ったのか?」

「んー、場所によるかな」

「ふーん。でもなんか話聞いてるとリリーが住んでたところって、こことあんま変わんないよな」

「いや、全然違うよ、全然。違い過ぎて説明できないところは話してないだけだよ」

「全然違うのか! 今度行ってみたいぞ」

「連れてってやれるんなら連れてってやりたいよ。前の世界ではこんな風に喋れる相手いなかったしな、僕」

「そうなのか、リリーは友達いなかったのか……」

「ちょっとぐらいはいたよ!……ちょっとは……昔は」

「まぁ今はこうやってあたしがいるんだからいーじゃねーか! アル中野郎もいるし!」

「そうだな……いや、あいつは友達っていうよりは、うーん。よく分かんないな」

「確かにリリーとロピルチェの関係ってよく分かんないよな。まぁあたしにとってあいつは、ただのいけ好かないアル中クソ野郎でしかないけどな」

「ついにクソがついたか! まぁララ、ロピルチェと殆ど話してなかったしな」

「あいつ、あたしのこと絶対馬鹿にしてたよ」

「そうは思わなかったけどな。何だか途中から緊張してる感じがしたよ。あいつ、なんやかんやいって女の子が苦手なんじゃ……」

「そんなわけねーって」

「まぁ何はともあれ、早く見つけないとな。あいつ」

「まぁな」


 僕らは行く当てもなく、町をぶらぶらと散歩していた。

 途中でララが、服屋が見たいと言ってゴネだしたので、しぶしぶ服屋に入っていった。


「うわー! この服ほしー!」

「うわ! 銀貨5枚もするのか! ……何か特殊な効果とかあるの?」

「んーん、なんも」

「……だめ!」


 日が暮れてきたのでいつも通り、酒屋に行く。

 やはりロピルチェはいないか……。

 あ、昨日会ったロピルチェの元カノがいる。

 ん? 別の男と飲んでる。……まぁ何はともあれ、元気になったみたいでよかったよかった。


 今日は珍しく、僕もララに付き合って結構飲んだ。

 店主に明日この町を出ることを言ったら、「元気でな、また会おう」って言って握手をしてくれた。

 あれ、酔ってるからか? ちょっと涙ぐむぐらい嬉しかったぞ……。

 前の世界にいたときは、こんな経験なかったからなー。


 夜も更け、フラフラしているララを支えながら、宿までの道のりを歩く。

 通りの一角に人だかりができている。近づくにつれ、女性の歌声が聴こえてきた。前の世界で言う、ストリートミュージシャンってやつか?

 でも歌と言うより、詩の朗読に近いな。リズムがあり、少しだけメロディがある。


 何とも無しに僕はそこで立ち止まり、その歌に聴き入ってしまった。

 ララは珍しそうに僕を見つめたが、何も言わずに一緒に立ち止まって聴いていた。


 女は歌い終わった後、「ありがとうございました。今の歌は音楽が盛んな国、ペリウィンクルのマグノリア王女が作った歌です」と言った。


「へー、この世界にも国とかあるんだな、ララ」

「え! 国?」

「え、何か思い出したの?」

「いや……全然。でも国なんてできたんだって思って」

「ふーん。何かお前の記憶喪失って、よく分からないよな」

「うん、あたしもそう思う」


 宿に着き、ララはまだ飲み足りないから付き合えとか言いながら、僕の部屋に酒瓶を持ってきて一人飲み始めた。

 と、思ったらすぐに寝てしまった。……僕のベットで。


 僕はベッドに腰掛けたまま、何となく前の世界のことを思い出していた。こんなこと思い出すのは、この世界に来てから殆ど初めてかもしれない。

 もしかして、僕もロピルチェと同じように、前の世界に未練なんてないのかもしれない。

 ……ロピルチェか。早く見つけ出さなきゃな。


 ふとララの寝顔を見る。最初にララに会った日のことを思い出す。

 もう随分昔のことのように思える。

 確かあの時、勃……いや何でもない。


 兎にも角にも、僕はララと同じベッドで寝る訳にもいかなかったので、床で寝ることにした。

 この町最後の夜に何でこんな目に……。

 

 僕は目を瞑って、すぐ側のベッドから聞こえるララ寝息を聞きながら、何だかとても安らかな気持ちで眠りについたのだった。


 翌日、四日間泊まった宿屋の主人にお礼を言い、早朝から僕らはこの町を出た。

 町を出て西にの方角に向かう。ウィステリアという町までは歩いて3日ほどだという。

 途中で魔物が出たらどうしよう……今度は僕もちょっと戦ってみたいな。


 そんなことを考えながらぼんやりと歩いていると、道の両側から何やら人がゾロゾロと出てきた。

 ムサい髭顔の男が叫ぶ。


「止まれ! 止まれー!! 殺されたくなかったら……金を出せ!」


 あ、盗賊だ。


「やーだよ、ばーか!」


 おっ、ララちゃん、威勢がいいじゃないか。でもあれ? 10人くらいいるけれどララちゃん、ねぇララちゃん。


「リリー、やっちゃえ!!」


 ……やっぱりそうきたか。


 やけに背の高い細マッチョな金髪の女が前に出てきて言う。


「やろうってのかい、兄ちゃん。いい度胸じゃないか。でもこの状況見たらどうすることが賢い判断なのか、分かるよな? こんな可愛いお嬢ちゃんもいるんだ。通行料さえ払えば命までは取らないでおいてやるよ」


 僕はその女と睨め合う。

 なんて眼光の鋭い女なんだ……。でも目をそらしたら負けなような気がしてきた。

 

 ……ララは僕が守るんだ。何としてでも、この状況を切り抜けなきゃいけないな。

 

「俺が相手になってやるよボウズ、はっはっはー!」


 あ、さっきの髭面の男がこっち向かってきた。近くで見ると結構でかいな、おい。


「やっちゃえ、やっちゃえリリー!」


 ララは何だか楽しそうである。

 よし、もうやるしかない。殺されるのは……嫌だしな。


 僕はロピルチェを相手してたときのように、勢いをつけて髭面男に切りかかった。

 

「うおおおおおお!」


 髭面の男は持っていた斧で受け止め……ようとしてその斧が爆発した。

 男は吹っ飛ぶ。僕も爆発に巻き込まれ、ちょっと吹っ飛んだ。


 いってー……あれ? 髭面男の方は血塗れでピクリとも動かないぞ?


 みんなぽかーんとしてる。


「よっしゃー! さすがリリー!! やるじゃん! やるじゃん!!」


 ララの声が響き渡った。盗賊たちは誰も声を出さない。

 そんな中、一人の太ったスキンヘッドの男が突然叫んだ。


「よくもやったなああああ!!」


 盗賊3人が武器を構えた。まずい。


「死ねえええええ!!」


 三人同時に向かってくる。まずい、剣とか、斧とかだぞ。避けられないし、三人は同時に受け止められない。


「フツカヨイエクスプロオオオオジョン!!」


 僕と三人の盗賊の間に爆発が巻き起こった。また僕も吹き飛ばされた。

 っていうかララ、魔法の名前、絶対間違ってるよ! この間二日酔いのおじさん助けたときの名前じゃないかそれ!


 盗賊三人は倒れたまま、火の海の中をのた打ち回っている。

 僕は爆風に巻き込まれて吹き飛び、地面に全身を叩きつけられた痛みで立ち上がることができない。

 でもこういった痛みは、ロピルチェとの戦いで慣れていた。そりゃ痛くて死にそうだけど、あ、ほらララが駆け寄ってきてくれた。早く治癒魔法をかけておくれ。


 そう思っていたとき、先程の細マッチョの金髪女が物凄い速さで僕に近づいてきた。

 そして剣を振り上げ、僕の首めがけて……振り下ろす。


「やめろおおおおおお!」

 

 ララの叫び声が聞こえた。

 僕は目を瞑って歯を食いしばる。


 ……結構あっけなかったな。

 僕は死んだと思う。


 辺りはシンと静まっている。

 僕は目を開けた……あれ、開けられた?


 周りの皆が一瞬にして消えていた。

 誰もいない……ララさえも。どうなってるんだ?

 

 恐る恐る僕は起き上がり、そして辺りを見渡す。あれ? 空が……赤い。

 

 ……どこだここ。

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