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おかしな男

 ララは店に入った途端、僕を置き去りにして、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながらカウンターの方へと行ってしまった。


 ん? クモ……じゃない。なんだかよくわからない、クモによく似た生き物が店の端の方にいる。

 結構大きくて肢まで含めると30cmはありそうだ。しかも色が真っ白だ。アルビノか何かなのかな? まさか、魔物?

 僕はぼんやりとその生き物を見ていると、先ほどの店主と思われる人がやってきて、大きなハエたたきのようなもので思いっきりその生き物を潰してしまった。

 ……うわー見なきゃよかった。

 彼は死骸を外に放り投げると、何事もなかったかのようにバーカウンターへと戻っていった。


 バーカウンターで銀貨1枚出して二人分の酒を受け取ると、僕とララはカウンターで隣同士に座った。他のテーブルはすべて満席だったからだ。さすが酒が美味いと有名な町なだけのことはある。


「よーし、じゃあ言うぞ……」


 ララが意気込んでいる……まさか……。


「いただきまあああす! ありがとおおおお!!(ゴクゴク)」


 あーやっちゃったかー。

 店内から一瞬音が消え、それから爆笑の渦が巻き起こった。


「なんだよちくしょー! これはな、リリーがいた世界のやり方なんだよ!! なんか文句あっか!?」


 それからしばらく店内にクスクスとした笑い声が響き渡っていた。


「あのな、ララ、いただきますは食事をする前だけでいいんだよ。しかもそんな大きな声出さなくていいし! それに、ありがとうはそもそもいらない!!」

「ふんっ……まぁいいや。なぁリリー、そんな辛気臭い顔してねーで飲もうぜ! ほら、リリーの分もあるんだぞ!」

「でも僕、酒飲んだことないんだよなー……」

「リリー酒飲んだことないの!!? だっせー!」

「うるせっ、僕の住んでいた国では20歳になるまで酒は飲んじゃいけなかったんだ。……あ、でもそういや僕の20歳の誕生日、もうすぐだな」

「そうなのか! それはめでたいな! じゃあ前祝いってことで、飲むぞー!」

「あとちょっとで20歳だし、ここ日本でも、そもそも地球でもないみたいだし、まいっか! よし! 飲もう、ララ!(グビグビ)」


 すっごいキツかった。思いっきりむせてしまった……恥ずかしい……。

 ほら、ほかの客もこっち見て笑ってるよ。ちくしょう。「見せもんじゃねーんだぞ!!」ってララは怒ってくれた。笑いながらだけど……。


 店の店主に聞いたところによると、これは「ジムクン」と言う種類の酒らしい。蒸留酒の一つで、トウモロコシを麦芽の酵素で糖化し、それを発酵させ、蒸留したものだそうだ。見た目は「ウイスキー」そっくりだ。この世界で一番広く飲まれている酒らしい。


 しばらくするとだんだんこのキツさにも慣れてきたようで、普通に飲めるようになってきた。もしかして僕って酒強い? とか思いながらふと隣を見ると、ララが四杯目のジムクンを美味しそうに飲み干したところだった。こ、こいつ……。


 一時間ほどして、だんだんララがふにゃふにゃしてきた。

いつもの暴力性は薄れ、なんだか可愛い! そもそもこいつ、顔はどっかの国の王女様みたいに綺麗だしな。

 そんなことを考えていると、ララの隣の席に王子様みたいに綺麗な顔をしたやつがやってきた。

 服装はそんなに高そうではないけど。茶色の少し長めでウェーブがかかった髪なんて王子様そのものだ。うわ、でも酒くさっ。


「やぁ、隣座ってもいいかな?」

「うん。空いてるし、別にいいぜ」


 ちくしょう、なんだそのふにゃふにゃした可愛いらしい声は。


「ありがとう。僕はロピルチェ。君は?」

「あたし、ララ」

「ララちゃんか。よろしくね」


 そういってそいつはララに握手を求めた。

 ララはふにゃふにゃした手つきで握手をした。……いつもだったらもっと乱暴だろうに、ちぇっ。


「そちらにいるお兄さんは、ララちゃんのお友達かな?」


 ロピルチェは僕をじっと見つめてきた。男の僕でもちょっとドキッとするくらい、綺麗な目だ。表情はどこか憂いを帯び、それがまた妙な魅力を持っている。


「まぁそんな感じなんだけど、色々と深い事情があって……ってお前いつまでララと握手してんだよ」

「おっ、妬いてるのか? ふふふっ」

「妬いてなんかない」

「ふふっ、可愛いな君は。まぁ、ララちゃんの方が可愛いけどね」

「お前、ララの本性知ったらそんなこと言えなくなるぞ」

「僕の名前は『お前』じゃない。ロピルチェだ」


 この世界の連中はやけにそこにつっかかってくるな……。


「ああ、悪かったよ。ロピルチェ、僕はユウ……じゃなくて、リリーだ。よろしく」


 そう言って僕はロピルチェに握手を求めた。

 その直後、ロピルチェから予想していなかった言葉が出てきた。


「君とは、握手しない」

「え?」


 酔ってふにゃふにゃしてたララも、少し元気を取り戻して言った。


「おい、どういうことだよ!」

「いやね、そんなに大層な剣を肩からぶら下げてるのに、君は剣ダコひとつない綺麗な手をしている。僕は剣士として、そんな君とは握手したくない」


 よく見ると、こいつ相当酔ってるな……目が据わっちゃってる!

 ララが身を乗り出し、ロピルチェに言った。


「なんだとてめえええ!! 剣持って表出ろ! 今言ったこと後悔させてやるからな!! リリーが!」


 ん? ララさん……?


「僕とやり合おうって言うの? 面白い。外に出て待ってるよ。逃げちゃだめだよ? リリー君?」

「あ、当たり前じゃねーか!」


 とは言ったものの、僕は、多分弱い。

 学校での剣道の授業のときも……あ、でもあの時はヤケクソで竹刀振り回してたら勝っちゃってたっけ。もしかしていけるかも……。


 外に出て、人気のないところまで三人で移動した。なぜだかララはすごく楽しそうだ。なぜだ?

 勝負は真剣ではなく、ララが魔法で作った「木刀のようなもの」を使うことになった。

 

「リリー! そんなやつ、ぶちのめしてやれえええ!!」


 お、おう頑張るよ。お兄ちゃん頑張ってくるよ!


「ほぅ、都合よくこんなものを用意していたところを見ると、準備はできていたってことかな?」


 いや、それララが魔法で作り出したんだけどな。この魔法ってあんまり認知されてないのかな?

 ロピルチェはなにやら本格的な構えをし、言った。


「……どこからもでもかかってこい!」

「……」


 こういうのは先に仕掛けた方がカウンターでやられるってパターンだよな。漫画でよく見たから分かるぞ!


 二人はそのまま一分ほど、剣を構えて睨め合ったまま静止していた。

 そしてロピルチェが先に口を開いた。


「やーめた」

「え?」

「リリー君、君、剣なんか握ったことないだろ? 構えを見れば分かるよ。そんなやつ倒したってしょうがないじゃないか。やーめたやーめた」


 少しカチンときた。剣道の授業のときにヤケクソで竹刀を振り回してた時のように、僕はロピルチェに切りかかった。


「うるせえええ! うああああああ!!」


 剣は軽く流され、そして背中を思いっきり切られた。


「うあっ! いってええええ!!」

「だから無理だって……ん?」

「大丈夫かリリー!」


 倒れて動けないでいる僕にララが駆け寄ってきて、治癒魔法のようなものをかけてくれたようだ。一瞬で痛みは殆ど引いた。


「ありがとうララ、まだまだいける!」


 そう言ってもう一度切りかかろうとした瞬間、ロピルチェが叫んだ。


「よし、おしまい!」

「……?」

「だって僕はもう勝負を続けることができないからね、だから無効試合だ」

「なんでだよ!」

「だってほら」

 

 そう言ってロピルチェは、使っていた剣を僕らの前に振りかざした。剣の中腹が半分くらい溶けているその剣を……。


「え、何これ?」

「やっぱり僕の思ったとおりだ。リリー君、君、魔法使えるよ」

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