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酒の町カミーリア

 僕の名前はロピルチェ。目的をなくした憐れな男。さすらいの旅人、偽愛の伝道師。

 隣から僕を呼ぶ声が聞こえる。そして僕は振り向く。

 そこには赤い髪をした、笑顔が素敵な女性の姿が。

 マイスイートハニー、今夜は君を離さないよ。なんてったって今夜泊まる宿代が、僕にはないからね。



「おっ、見えてきたぞ! あれがカミーリアって町か!」


 ララは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながらそういった。

 時刻は昼と夕方のちょうど間くらいだ。

 僕は一刻も早くこのパジャマを脱ぎ捨て、新しい服を買いたかった。だってさ、これダサすぎるだろ? いくらいきなりこの世界に連れてこられたからって、こんな格好で冒険をしてたって全然かっこよくない!

 まぁ僕の戦闘能力からいってこの世界の勇者とかにはなれそうにないけど、それにしたってこんな格好じゃ、締まりがなさ過ぎる!

 隣に並んで歩いてる少女はちゃっかり魔法使いみたいなローブ着ちゃってるしさ。これじゃ、なんだか僕だけ精神病院の病棟から抜け出してきたみたいじゃないか!


「お酒っ! お酒っ!」


 さっきからララは一人ではしゃいでいる。よっぽど酒が好きなんだろう。

 ……ん? そういえばこいつ、未成年じゃねーか?


「おいララ、さっきから酒が飲めるって浮かれてるようだけど、お前いくつなんだよ?」

「分からん!」

「まぁそりゃそうだよな……いくら法律で禁止されてないからって、あんまり飲み過ぎちゃだめだぞ?」

「それは安心していいぜ、リリー。こう見えてあたし、酒はすっごく強いんだ!」

「え、お前、その年で酒飲んだことあるのかよ!?」

「あったりめえよ!」


 うーん、「強い」だなんて分かるぐらい日常的に飲んでたのか……。はぁ、親の顔が見てみたいぜ。

 それはともかく、僕らはもうすぐ町にたどり着くことになるんだが、何か大事なことを忘れている気がする…….とても大事な何か……。


「ほぉー、それにしても、こんなにおっきい町ができたんだな、この世界にも」

「それはお前が田舎者なだけだろーが!」

「いや、前来た時にはここら辺なんて、そりゃ寂れた何もないところだったんだぜ」

「へぇ、お前、前にここら辺に来たことがあるのか?」

「うん……そーみたい。ここら辺の地形、見覚えあるもん!」

「そうか、そりゃいい手がかりを聞いた。案外この町にお前のこと知ってる人がいるかもな!」


 僕らはそんな話をしながら町の中に入っていった。……入っていった……あ! そういや、金がないじゃないか!!


「よーしリリー、まずはあそこの酒場だー!」

「ちょっと待て! 僕ら……金なくね?」

「金?」

「そーだよ、いくらこの世界でも、タダで飲ませてくれるわけないだろ!」

「あーそっか……じゃあこれ売ってくっか」

「ん? それって、お前が魔物の肉剥ぐ時に使ってたやつか」

「お前っていう呼ぶな! あたしはララだ!」

「おっ、わりぃわりぃ。それでさ、ララ、いいのかそれ売っちゃって」

「べーつに。これからは肉剥ぐ時も魔法でやればいいしな」

「そっか、お前の魔法ってほんと便利だよな!」

「だからお前って呼ぶな!」


 そんなこんなで、僕らは武器屋? らしきところに、そのナイフを売りに行ったのである。


「で、これなんですけど……」

「こ、これ……」

「あ、やっぱだめですかね」

「これ、白銀でできてるじゃねぇか……しかも相当な魔力がこもってるぞ……」


 途中で毎度のごとく、ララが割り込んできた。


「で、おっさん、いくらで買ってくれんだよ!」

「お、俺なんかの店じゃ買い取れねーよこんなの! 金貨100枚は軽く……」

「じゃそれでいいよ」

「へ?」

「金貨100枚で買ってくれんだろ?」

「……ほ、本当にいいのか? 金貨100枚なんかじゃ全然足りないくらいのシロモノだぞ?」

「いーよ。だからさっさと金貨100枚よこしやがれ!」


 なんだか最後は強盗みたいな口調になっていたが、取引は無事成功したようだ。

 それにしても、すげーもん持っていやがったな、ララのやつ。ほんとこいつ、何者なんだ?


「よおおし! 飲むぞおお!!」


 そう言ってララは町の酒場へと消えていったのだった。

 意気揚々と入っていってから束の間、ララは店の店主と思われる人に追い出されていた。


「おい、ねぇちゃん、まだ店やってねーんだ。うちの営業は日が暮れてからだよ」

「けちー!」


 まぁしかたないわな。この世界で酒が飲めるのは、夜になってかららしい。まぁ普通はそうか、よく知らんけど。

 僕らはまず、今夜泊まる宿をとることにした。

 宿屋の受付で金貨を一枚渡したら、銀貨を5枚返された。ん? ってことは、金貨1枚1万円で、銀貨1枚千円くらいの相場って考えていいのかな?

 その後、僕らは服屋に行った。ララがなにやら買い物している間、僕はなるべく普通っぽい服一式と靴とバックを買った。銀貨5枚を出したら銅貨3枚が返ってきた。ということは、銅貨は1枚100円ってところかな、分からんけど。

 そう考えたらさっきのナイフ、100万円以上はするのか……。あんな適当な交渉でよかったんだろうか……うーむ。

 なんやかんやと考えごとをしていると、ララが話しかけてきた。


「よし、じゃあ防具屋と武器屋行くぞ!」

「え?」

「だってリリー、丸腰じゃねぇか。あたしがいたからいいものの、そのまんまだと一角獣に突き刺しにされるぞ?」

「そうだよな。僕もちょうどそう思ってたところだ。いくらお前がすっげー魔法ばんばん使えるからって、僕自身も強くならなきゃいけないからな。それにいつまでも女の子にだけ戦わせてるなんてかっこ悪い!」

「そうだそうだ! ちょっとは強くなれ!はっはっはっ」


 まず僕らは防具屋に行き、鋼鉄でできている胸当てを金貨1枚と銀貨3枚で購入した。これは僕用にだ。胸当てならつけていても動きやすいだろうと思っていたら、案外重くて驚いた……。

 まぁ、これもいい筋トレだ。これからしばらくはこの世界で生きていかなきゃならないみたいだしな! 少しでも強くなっていかなきゃいけないだろう。

 次に、ララは赤茶色ブーツとネックレスと腕輪を購入した。お値段は三点で金貨5枚。え! 高っ! まぁ僕のお金じゃないから何も言う資格はないが……。


「結構するんだな、そういうのって」

「えー、だって可愛かったしぃ」

「え! 色々特殊効果とかあるからじゃないの!?」

「まぁそれもあるけどな! うっしっしっ。じゃあ次は武器屋とへと洒落込むとしようぜ!」

「お、おう」


 僕らが武器屋に入ると、さっきの店員はあからさまにビクッとしていた。


「い、い、いらっしゃいませお嬢様とお兄様!」


 何だか言葉遣いが変になっている……。


「え、いやえっとね、剣が欲しいんです。簡単に折れちゃうのは嫌だし、なるべく実践向きがいいな」

「ではこれなんていかがでしょう! グラディウスという名の剣です。刀身は肉厚・幅広の両刃で、先端は鋭角に尖っています。きっとお強いであろう、お兄様にも満足していただけると思います! それにうちの店で出せる中では一番の名剣です!」

 

 おおっ本物の剣だ! 見た目もカッコいいし、これはいいな」


「で、値段は?」

「金貨4枚のところ、お世話になってるお兄様たちということで……金貨3枚でいかがでしょう!


 高っかー! いやいや、これからとりあえず今ある金で暮らしていかなきゃなんだし、そう散財はできないよな……。

 僕が口ごもっていたら、サラがまた例によって例のごとく、割り込んできた。


「おいお前!」

「は、はい!」

「さっきのナイフ……ほんとはいくらすんだ?」

「……じゃあ金貨2枚でいいです!」

「……」

「……い、1枚で」


 というわけで、定価は全く分からんが、なんだかかっこいい剣を金貨一枚だから1万円くらい? でゲットしたのであった。重いので肩にかけているが、なんだか持ち歩いているだけで自分が剣士になったようで、ウキウキしてしまうのである。


「よーし、日も暮れてきたことだし、つ、ぎ、は……酒だあああああああ!」

「盛り上がってるところ悪いんだがな、えっとな。僕、いきなりこの世界に来たもんだから、金なんてもってないし、寝巻きのまま来ちゃったから金目の物も何もないんだ。お前の金ばっか払わせちゃって悪いと思ってる。だからよ……」

「いいって、いいって。そのかわり、あたしを守ってくれ」

「え? 守るってお前の方がずっと強いじゃないか」

「そういう問題じゃねーって。まぁ、頼りにしてっからよ!」

「お……おう。わかった! なにがあってもお前のこと、守るよ!」

「だから、お前って呼ぶなあああ!」


 そして僕らは、開店したばかりなのにかなりの賑わいを見せている、この町唯一の酒場へと入っていったのであった。

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