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旅の始まり

「ファイヤァアアアア!!!」


 少女は某プロレスラーのようにそう言うと、目の前にいた一角獣を指差した。

 すると空中に半径1メートルくらいの火の玉が出現。すぐさま勢いよく一角獣の胴体の部分にぶつかっていった。

 一角獣は一瞬にして燃え上がり、ヒヒ~ンとか鳴きながらのた打ち回り、そして息絶えた。

 うわ~丸こげだ。


「薄々予想はしてたけど……やっぱり凄いな、目の前でこういうの見ると」

「だろだろ~、見直したろ! ふっふっふ」

「でもあれだな、一角獣って強そうなイメージあるけど、ここだと『スライム』みたいな扱いなのな」

「馬に角が生えてるだけだしな」

「まぁそれもそうか……。そういやお前、昨日もこうやって一瞬で魔物を食べ物にしちゃったのか?」

「うんっ、そうだぜ。一角獣の丸焼き。調理する手間が省けるだろ? あーあ、でもペガサスだったら手羽先も食えたのになぁ」


 僕はこの世界の常識に半分呆れつつも、ジューシーな香りに胸を躍らせていた。

 一角獣の肉は本当に美味い。っていうか一瞬で殺しちゃったけど、なんだか申し訳ないな。


 朝起きたら、ちょうどこの一角獣が目の前に現れたんだ。そしたら少女が開口一番「よーし、朝飯にすっか」って言ったと思ったら、このあり様だ。

 そう言えばこの一角獣、全然攻撃するそぶりも見せなかったな。

 ……ん? そういえば、一角獣は処女に懐くって聞いたことがあるな。

 処女……やっぱり。いやいや、朝っぱらから何を考えてるんだ、僕は。


 僕が一人でうんうん考え事をしているうちに、少女は羽織っているこげ茶色のローブの懐から小型のナイフを出し、一角獣の肉を切り取っていた。


「はい、肉だぜ」

「サンキュー、この肉美味いよな。それに焼きたてホカホカだし。よし、じゃあ食うか! いただきまーす」

「いただきます? なんだそれ?」

「僕の住んでた場所ではな、何かを食べる前に言うんだよ、そうやって」

「なんでだ?」

「んー、あなたの身体をいただきます、ありがとねって意味だったような」

「へぇ、なんかいいな、それ! じゃあ、あたしもこれからそれ言う! いただきまーす! ありがとー!」

「いや、ありがとーまでは言わなくていいんだよ!」


 少女は僕の真似をしていただきますのポーズをとると、肉にかぶりついた。

 小柄な身体のどこにそんなに入るのかってぐらいの食欲で、どんどん一角獣の肉をナイフで切り取っては、食べていく。

 僕も負けじと食べたが、少女の方が大食いだった。なんだかすげぇな、この世界の女の子……。


 二人とも満腹になって寝転がる。

 ふぅ、食った食った。天気もいいし、気持ちいいなぁ。この世界に来てから初めてだ、こんないい気分になったのは。


「そういえばお前さ、魔法使えるんだな」

「おう、なんか身体が覚えててな、イメージしたらできたんだ」

「へぇ、でもやっぱり『ファイヤァアアアア!!!』っていうのは、呪文なのか?」

「違う」

「え、違うの?」

「おう。きっと言葉なんてなんでもいいんだよ。あたしだって、気分で言ってるだけだしな」

「へー、そんなもんかね。でもあの魔法、火の玉なんだから、『ファイヤーボール』の方がよくないか? なんだかさっきの掛け声だと、プロレス選手みたいだぞ?」

「プロレス?」

「んー、まぁ、むさ苦しいってことだよ」

「そうかぁ、カッコいいと思ったんだけどな……まぁ分かったよ、お前がそういうならそうする! ファイヤァアアアボオオオル!! こうか?」

「そんなに大げさに言わなきゃだめなの?」

「なんかそっちの方が攻撃力上がりそうだしな、はっはっはっ」


 そんな会話をしていると、遠くの方から荷馬車がやってくるのが見えた。お、人だ! 僕は嬉しくなって隣を振り向いたら、少女が大きく息を吸い込んでいる最中だった。


「ファイヤァアアアボォ……」

「まてー!! あれは一角獣じゃない、ただの馬だ! それに人だっている!!」

「お、そうだったか! わりー、間違えちゃったよ、はははっ」


 ……危ないところだった。人一人と馬一匹が目の前で盛大に焼け死ぬところだった……。

 ほっと肩を撫で下ろすと、僕は荷馬車に乗っている人に近づいていき、声をかけた。


「おはようございます」

「やぁおはよう」


 五十代ぐらいの口ひげを生やした顔色の悪い男だ。

 服装からすると商人だろうか? まだこの世界の人たちの服装についての知識は少ないが、何となく雰囲気でそう思った。


「ちょっとお尋ねしたいことがありまして、えっと、ここら辺に人が住んでるところはありますかね?」

「ここから一番近くだとカミーリアって町がこの道をまっすぐ行ったところにあるよ。歩きだと半日ぐらいじゃないかな。お酒が美味いところでね。……おかげで私は今、二日酔いなんだよ」


 商人と話をしていたら、少女が途中で割り込んできた。


「酒かぁ、よし、ユウスケそこ行こうぜ! あたしは酒が大好きなんだ。おっちゃん、教えてくれてありがとな! お礼してやっから、ちょっと待ってろ」


 そう言って、少女はその男に手をかざした。


「よし、終わったぞ」

「ん……あれ? 気持ち悪いのが嘘のように治ったぞ……」

「そりゃよかった!」

「お嬢ちゃんいったいどうやって……」

「なーに、ただのおまじないだぜ」

「何をやったかわからないが、ありがとう! これで元気に商売ができるよ」

「へへへっ、道を教えてくれたお返しだよ、おっちゃんも商売頑張るんだぜ!」


 男は最初会ったときとは違い、晴れ晴れとした顔で手を振って、僕達と反対方向へと去っていった。

 この女の子はほんとなんでもできちゃうんだな。これもきっと魔法だろう。


「さっきの、魔法だろ? 名前はつけてないのか?」

「名前ねぇ……フツカヨイエクスプロージョン!」

「お前、今考えたろ?」

「へへへっ」


 僕達はそんな話をしながら、カミーリアという町に向かって歩いていった。

 町に行ったらきっと何かしらの手がかりが掴めるだろう。この変な女の子といると飽きないし、ひとまずそこまで頑張ってみよう。

 そういえば名前、やっぱりないと不便だよな……。


「なぁ」

「ん、何?」

「お前、名前ないと不便だろ? とりあえず記憶戻るまでの名前があった方が、これから町とか行ったときに便利なんじゃないのか?」

「そうだよな……よし、お前決めていいぜ!」

「え! 僕が?」

「お前は、あたしの保護者なんだからな!」

「保護者!?」

「昨日そんなこと言ってただろ?」

「そうか、まぁいいや。うーん、そうだなぁ……ちょっと考えさせてくれ」

「遅い!」

「えっ」

「じゃあ、こん中から選べ。ララ、リリー、ルル、レレ、ロロ。さぁどれ!?」

「そんな適当でいいのかよ!」

「適当なんかじゃねーよ、降ってきたんだ」

「なんかお前って、天才肌だよな……しょうがねぇ、決めてやるか! そうだな、その中だと……」


 リリーだとサブカルなおっさんっぽいし、ルルだと風邪薬だしなぁ、レレはいつもホウキ掃いてるおっさんっぽいし……ロロ? うーん、なんか変だし。


「よし、決めた。今日からお前はララだ」

「じゃあお前はリリーだな」

「何でだよ!」

「お前の名前……ユウスケだっけ? この世界っぽくなくてちょっと変だぞ?」

「うっ」

「お前も今この世界にいるのは、事情があるんだろ? 昨日ちょっと聞いたけどさ」

「まぁ、そうだよ」

「なら決まり! あたしの記憶が戻るまで、あたしはララで、お前が元の世界に帰れるまで、お前はリリーだ!」


 母さん父さん、ごめんなさい。せっかくつけてもらった名前、ちょっとの間だけど捨てさせてもらうことになりそうです。


 そして僕らは途中で遭遇したコカトリス? とかいう鳥の化け物を鳥の丸焼きにして昼食をとった後、町までの道のりをしょーもない雑談をしながら、二人並んで歩いていったのだった。

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