門兵達
「あんだとこらあああああ!!」
「や、やめろララ!」
僕は今にも飛び掛っていきそうなララを、羽交い絞めにして止めた。
ニレの方を見ると、門兵達を睨み付けるニレの服の裾をナンディーネがそっと掴んでいた。
ララといいニレといい、こいつら……。
門兵のうちの一人、銀髪オールバックの方が口を開いた。
「随分と威勢のいい奴らだな!! ん? お前ら角が生えてなくないか?」
その問いに、何故かダフニが答えた。
「さ、さっき戦ってたら取れちゃったんだよ!」
なんて言い訳だ!
「どんな奴に角を折られたんだ? ここらにそんなに強い魔物はいないはずだけどな」
あれでこの世界では弱い方だったのか……ダフニは、しどろもどろになりながら「いや、だからその……」とか言っている。
さて、どうしたものか。下手なことを言うと襲い掛かってきそうだ。
さっきから黙っていたニレが口を開いた。
「おい! そんなことはどうでもいいから、赤竜? とかいう奴の居場所知らねーか?」
門兵達は顔を見合わせた。そして銀髪オールバックがニレに言った。
「俺もこう見えて案外長く生きてるけどな、赤竜様をそんな風に呼ぶ、命知らずな奴は初めて見た……。面白いなぁ、お前」
ニレはバカにされたのかと思ったのか、今にも掴みかかりそうな勢いで叫んだ。
「真面目に聞いてんだよ! 答えやがれこの野郎!!」
門兵のさっきから話してた方とは違う、スキンヘッドが言った。
「お前ら……そんな口利いてたから角、赤竜様にやられたんだろ? でも運がよかったな……こうして生きてるんだからな……」
やけにボソボソ喋るやつだ。
僕はそいつに向かって言った。
「その運に免じて、居場所を教えてくれないか?」
「そんなに殺されに行きたいのか? 面白い。……この国に来た理由は、それを聞くためなのか?」
「……そうだ」
門兵の二人は何やらコソコソと話し始めた。
やけに長い。
その間、僕は羽交い締めにし過ぎて、本気でむせていたララに謝っていた。
やっとコソコソ話が終わり、門兵達は僕らを見た。
銀髪オールバックが口を開く。
「お前ら、ほんとに面白いな。それにそんなに強くなさそうだし……入るか?」
「えっ?」
僕は突然のことに、素っ頓狂な声をあげてしまった。
続けてスキンヘッドの方が言った。
「我らの国にだ。有益か、害がないくらいに弱い者は、ここを通してよいことになっている。我々ももうすぐシフト交代だからな、町案内をしてやってもいい」
シフトって……。
いや、でも何だか知らないが、話は良い方向に向かっているな。
弱いとバカにされて腹が立ったのか、ララがまた飛び掛かりそうになったので、再び羽交い締めにしなければならなかったが……。
ニレの方はナンディーネがまたそっと服の裾を掴んでいた。
こいつらはほんとに……。
「ただし!」
突然スキンヘッドが大声を出した。
皆が彼に注目する。
「本当に弱いかどうか、確かめてからだ。……なに、我々に殺されるくらい弱かったら通してやる!!」
ララが急に真面目なトーンになって僕に話しかける。
「だから言ったろ、こいつら魔族は戦うことしか頭にねーんだ」
ニレが剣を構えながら言う。
「こんなことだろーと思ったよ、まったくよぉ」
銀髪オールバックは笑いながらニレを指差し、叫んだ。
「出でよ!! 風の刃!!!」
それとほぼ同時に、ララが叫んだ。
「エアーカッタアアアア!!」
門兵達と僕らは、逆方向に吹き飛んだ。
魔法……? こいつらも使えるんだ!?
ていうかララ、風魔法の呪文、変えてくれたんだ! よかった、色々気付いてくれて!
今度はスキンヘッドが呪文を唱えた。
「……出でよ、いかずち!」
一瞬、僕らの周りに青い火花が散り、身体中に激痛が走った。
まずい、身体が痺れて動かない……。
目で周りを見渡す。皆痺れて苦痛に顔を歪めている。でもあれ? ニレがいない?
「ぐあっ!」
声をした方を見ると、スキンヘッドにニレが切りかかっており、頭に剣が半分ほど埋まっていた。
急に身体が動くようになり、痛みが消えた。ララが魔法で治してくれたのだろう。
突然、こっちにニレ吹き飛ばされてきた。
スキンヘッドの槍が振り下ろされていた。
頭を切り付けられても大丈夫なのか……。血は沢山出ているようだが。
スキンヘッドがニレに向かって叫ぶ。
「……やるなぁお前! 興奮してきたぞ!!!」
「うるせぇよ、急にテンション上がってんじゃねぇよハーゲ!」
ニレは起き上がりながらそう言った。よかった、そんなにダメージは受けていないようだ。
いや、一瞬でララが治してくれたのかもしれないな。
スキンへッドがニレに向かって叫んだ。
「威勢がいいな、面白くなってきた! では行くぞ、出でよ!! 火炎!!」
その声に被せて、銀髪オールバックも叫ぶ。
「出でよ!! 竜巻!!」
二つの魔法が合わさり、炎の竜巻になってこちらに向かってくる。
僕は矢をそれに向けて放った。その瞬間、大爆発が起こり、その魔法は消えてなくなった。
銀髪オールバックがポツリと言った。
「……お前ら、入国は無理だな」
ナンディーネとニレは立ち尽くしていた銀髪オールバックに全力疾走で飛び掛り、剣で切り付けた。
ダフニも遅れて到着して切り付けたが、一瞬で跳ね飛ばされた。弱っ! いや、魔族が強すぎるのか。
僕はスキンヘッドに向けて矢を放ったが避けられ、矢が門に突き刺さって門ごと爆破した。
「ファイヤアアアボオオオオアアア!!」
ララがスキンヘッドに向けて魔法を放つ。
しかし、その魔法は槍で振り払われてしまった。
「この程度! かき消し……」
言い終わる前に再びララがファーヤーボールを放つ。連続で何発も放ち続ける。
「ファイヤアアボール! ファイヤアアボオオアアル!!!」
「うおおおおおお!!」
炎の中で暴れているスキンヘッドに僕は再び矢を放った。
避けようとしたが右肩に当たり、右腕ごと吹き飛んだ。
スキンヘッドは身体に火をつけたまま、左手に槍を持ってこちらに走ってきた。
僕は剣を抜き取り、突き出した。スキンヘッドの槍が僕のわき腹をかすめたが、何とか直撃は避けられ、そして僕の剣がスキンヘッドの胸部に刺さり、爆発した。僕の剣は爆発とともに、いつものように後ろに吹き飛んでいった。
胸に大きな穴を開けたスキンヘッドは僕の目の前に倒れこんだ。
しかし、その状態から今度は僕の隣にいたララに向け、槍を突き出した。
ララはその一撃を腹部に受けた。僕はとっさにスキンヘッドの頭を掴み、そして魔力を込めた。
スキンヘッドの頭は爆発した。僕の右腕の肘から下も一緒に吹き飛んだ。激痛が走る。
その時、後ろの方から、聞きなれない声が聞こえた。
「出でよ! 爆発!!」
その呪文が聞こえた瞬間、僕は爆風で10メートル近く吹き飛ばされた。
僕は地面に叩きつけられた。まずい、左足をやられた。今度はなくなってはいないが、変な方向に折れ曲がってしまっている。
後ろの方からニレの声がする。
「他の魔族が門の方からどんどん出てきた!! 逃げるぞ!!」
声がする方を見ると、傷だらけのニレとダフニがこちらに走ってくる。
銀髪オールバックは倒れて息を切らしながらも、こちらを見ている。いや、睨んでいる。
ニレが僕の近くに倒れているララに話しかける。
「おいお前、大丈夫か!?」
ララは答えない……。
「おい、しっかりしろ!!!」
ニレがそう叫ぶ。
ダフニは僕を見て「あちゃー……」と言った。僕が「まだ生きてるよ!」と叫んだら、本気で驚きやがった。
僕はニレの方を見て、言った。
「……ララをおぶって……逃げてくれるか……?」
ニレは何も言わず、僕の目をじっと見つめた。
あぁ、僕はきっと、また涙目になっているんだろうな。
なんだかララがからむと、僕は涙脆くなってしまう。
ララは静かだ。……静か過ぎる。ピクリともしない。いつも騒がしい分、変な感じだ。
いつものあのキンキンとうるさい声が聴きたい。無性に聴きたい。
僕は急に、宙に浮いた。どうやらダフニが僕を背負ったらしい。
ナンディーネも少し遅れてこちらにやってきた。
後ろから魔族達の声が近づいてくる。
振る向くと、10人以上の魔族が槍を持ち、30メートルくらいとのころまで近づいている。
ニレの方を見ると、ララをおぶってもう走り出していた。
ダフニも駆け出し、そして僕に話しかけた。
「剣と、弓は持てねぇけど、かまわねぇよな?」
僕は口の中が乾いていて、返事ができなかった。




