ケルベロスの丸焼きを囲んで
ララが偉そうな態度でみんなの前に立ち、話す。
「さて、そうと決まったらまずは……」
「何だ?」と、少し眼光が鋭くなったニレが言う。
「……飯だ」
聞いてみると、この中の誰一人として携帯食を持っていなかった。
仕方ない……この犬っぽい魔物、ケルベロスを食べちゃうしかないか……。あとはみんな、ちょっと抵抗ある感じだしなぁ。うん、絶対に嫌だ。
「ウィンドブレーカー!!」
ララがファーヤーボールでこんがりと焼いたケルベロスの肉を、風魔法で切り分けてくれた。
「ララ、さっきから言おうと思ってたんだけどさ、その風魔法の呪文、絶対変だぞ」
「え、そうか? ウィンドとブレイカーってなんかすっげぇ強そうじゃん!」
「……まぁいいや。威力は確かなんだし。それにしてもお前って、ほんと色んな魔法が使えるんだな」
「まぁな、へへっ。でも、他にどんなのが使えるのか、いまいちよく分かんねーんだ。急に『あ、こういう魔法使えそうだな』って思って使ってみると、使えるんだぜ」
「ふーん。段々記憶が戻りつつあるってことかな?」
「いや、全然」
ナーシサス盗賊団の三人はケルベロスの肉を美味そうに食べながら、僕らの話を興味深そうに聞いていた。
ニレがくちゃくちゃと食べながら、僕に話しかけた。
「なぁ、お前らって何の目的があって、あの道を歩いてたんだ?」
「あぁ、ウィステリアまで歩いて行ってる最中だったんだ。ちょっと知り合いを探しにな。そしたら突然盗賊団にカツアゲされて……気付いたらこの様だよ!」
「……悪かった……とは言わない! だってこれがうちらの商売だからな! はっはっはっ!」
「笑い事じゃねーよ!!」
「でもな、何も命までは取るつもりはなかったんだ。そしたら予想以上にあんたらが強くてな……いやー、参った。こっちがやられちまうと思ったもんだ」
「言い訳になってねーよ! まったく……まぁ、今はそんなこと言ってる場合じゃないしな。水に流しはしないけど、一時休戦だ。まずは生きて帰りたいしな」
「そうだな……団員のゼルコバの形見を持って帰ってやらねばならない」
「そういや、他の連中はどうしたんだ? たしか10人くらいいたよな?」
「……分からん。気付いたらこの空の赤い世界に一人だった。辺りを探してみて、ダフニとナンディーネだけは見つけることができたが」
「僕らと戦った三人……いや四人か。あいつらはどうなったか分かるか?」
「あんなので死ぬ、ひ弱な連中ではないわ。きっと今頃、あたし達がカミーリアにでも飲みにいっちまったと思って、アジトに戻ってるだろうな……それにしてもこの肉、美味いなぁ! なぁナンディーネ」
急に話を振られて、むせながらもナンディーネはそのことに同意した。
ララが得意そうに言う。
「だろだろー!」
ニレはそれに答える。
「あぁ、感謝をするよ。これで食事に関しての心配は取りあえずはなさそうだな。後は……赤竜とやらに会いにいくだけか」
「そうだぜー!」
「それで……いる場所は分かるのか?」
「いや、全く」
「……だろうな。私たちのいた世界では『緑竜の森』という場所があって、どうやら大昔はその森の一番深いところに『緑の竜』がいたという話を聞いたことがあるが……この【赤の世界】とやらもそのような場所にいるんじゃないだろうかね?」
「かもしんねーな。まぁ何はともあれ、まずは聞き込みだな」
「聞き込み? ここは魔物の世界だと先程言っていたではないか?」
「殆どな。どこの世界にも話せる奴ぐらいいるぜ。【赤の世界】だと……たしか魔族がちょっと住んでたと思う。そんなに文化レベルは高くないけどな。でも気をつけろよ、あいつらは戦うことが三度の飯より好きだからな。相手が強いって分かったらすぐに喧嘩ふっかけてくるぜ」
「そうか……私たちとは逆だな。私たちは弱そうな奴からしか略奪しない」
「この卑怯者ー!!!」
僕らは食事を終えるとゼルコバの墓を作り、そして取りあえず適当な方向に歩き出した。
それにしてもこの世界の匂いはいつまで経っても馴れない。この真っ赤な空も。
一時間ほどまっすぐ歩いていたら、遠くの方に町が見えてきた。ん? よく見ると城のようなものも見える。
ララが驚いた顔をして言った。
「たまげたぜ……赤の世界にもこんな町ができてるなんて……魔族のやつらは戦うことにしか興味がないと思ってたが、どうやらこんなものも作れるんだな」
僕はララの話を聞いて、溜め息をつきながら言った。
「お前の記憶をなくす前ってどんなやつだったんだろうな。ほんとお前には、びっくりすることばっかりだよ」
ダフニが珍しく口を開く。
「ララちゃんが記憶を無くす前は、偉いところのお嬢ちゃんだったと俺は思うぜ! こんなに色んなことを知ってるなんて、本が沢山買える金持ちとしか思えねー!」
僕はダフニに言う。
「この言葉遣いだぜ?」
「まぁそこがちょっと引っかかるとこなんだけどな、へっへっへっ」
そういいながら下品に笑うダフニを、ナンディーネはやれやれといった表情で見ている。
ナンディーネは中肉中背の、姿勢のいい中年男だ。あまり強そうには見えないが、眼光はニレの次に鋭い。それに比べてダフニは「ちょっと筋肉質な若者」といった、どこにでもいるような風体をしている。
それから数十分後、僕らは城下町(というにはあまりに小さいが)の門の前まで来ていた。
僕は口を開いた。
「魔族の町か……あまり気は進まないよな。嫌な予感しかしない」
ララが言う。
「まぁ何とかなるだろー!」
それに続き、ダフニが言う。
「ララちゃんの言う通り、何とかなるだろうよ! さぁ団長、副団長、ララちゃん、兄ちゃん、行きましょうぜ!」
大丈夫かなー。心配だなー……。っていうかナンディーネって副団長だったんだ!
僕らは町の中に入ろうと、歩き出した。その瞬間、門兵と思われる者に止められた。
「待て! 何者だお前らああ!! 答えなければ今すぐぶっ殺すぞ!!!」
角が生えてて、身長が2メートルはあるであろう二人(人じゃなくて鬼っぽいから、二鬼か?)が槍をこちらに突き立てて、そう叫んだ。
うん。何とかならなそうだね。




