7-satoko3-
7 −satoko3−
インターネットは便利だ。
今は人の呪い方を調べている。
その前は人の記憶の消し方。
いまいち具体的な方法が見つからなくて、いっそ呪うことにした。
篠原さんを呪ったところで事態は何も変わらない。
分かってるよ
分かってる
分かってるってば
今日はレトルトのハンバーグ
冷めない内にとろけるチーズを乗せるんだ。
そうすると、とろける。
なんて適切なネーミングだろう!
今日の日記に書こう。
今日は土曜日なのに、隣の家に人がきてる。
きっと不倫オヤジじゃない。
笑い声が聞こえないから。
大抵家にいる気がする。
いつも5センチくらい窓が開いてて、グレーのカーテンがはみ出てる。
一度だけゴミだしをしてる後ろ姿を見た。
鶏ガラみたいに細かった。
ご飯ちゃんと食べてるのかな?
36歳ぐらい?
仕事は何してるんだろう・・・
風俗で働いていてもおかしくない風貌だったけど、
いつも隣の部屋は朝方になっても光が漏れている。
そんな時間まで家で仕事してるんだとしたら…内職?
まさか、
生活出来るはずない。
あ、でも不倫オヤジから小遣いもらってるのか?
でも小遣いくれるようなオヤジだったらこんな狭いマンションに住まないか…
それに何となくあの後ろ姿には男に頼って生きているような女々しさは無かった。
会社の美樹ちゃんや高丸さんには無い、
女の哀愁?
そんなのを感じた。
女は女に敏感なんだ
そういうもんだ。
ということは…
漫画家とか?
いや、まさか。
アルバイトだってしてない様子だから、それだけで暮らせるわけがない。
売れない漫画家・・・
実家が金持ちとか。
30過ぎてまだ親から仕送りもらって…
漫画…官能漫画?
官能漫画なんてジャンルあるの?
エロ漫画でいーや。
エロ漫画家だ。
そうだ。
毎日毎日狭い部屋でエロい漫画描いてるんだ。
大変だろうなぁ…
気が変にならないのかな?
女は男と違っていつでも性欲が溢れ出てるわけじゃないんだし。
そこを絞り出すわけね、仕事だもんね。
男の性欲がかけ流し式の温泉なら、女は循環式…
全然うまくない、あたし。
大変な仕事だね、
エロ漫画家さん。
そりゃ不倫もするよ…
って、まさかそれも仕事の一貫!?
…それでも
それでもあたしが何の価値も見い出せない仕事より、ずっと素敵だね。
あたしは25歳になってもアイドルに夢中な自分が嫌いなんじゃないの。
美樹ちゃんみたいに男に媚びて高い服で自分を飾ったり、
高丸さんみたいに愛想ふりまいといて裏で陰口叩くような女には絶対なりたくない。
でもどこかで、
そういうみんなに軽蔑されたくなくて、
独りになるのが恐くて、
胸張ってあの人が好きだって言えない中途半端な自分が嫌いなの。
独りになる覚悟もないのに 人を愛せるわけがない
待ち受け画面の彼は最高に素敵だ。
逃げ出したのは弱い自分を見たくなかったから。
本当に呪いたいのは
あたし自身
今度生まれ変わったら
とろけるチーズになりたい
熱いハンバーグの上でとろけたら
みんなが喜んでくれるから
<つづく>