6-sinohara2-
6 −sinohara2−
17時に出た彼女が、21時に戻って来た。
驚いた
自分の胸が予想以上に揺さぶられたことに。
残業は嫌いだ
ピーマンの次に嫌いだ
でも1人のオフィスは好きだ
熱帯夜のビアガーデン程じゃないけど
このオフィスの床は薄いブルーにグリーンが混ざってる。
アマゾンの池みたいだ、なんて。
彼女はいつになく焦っていた。
行き切らしながらオフィスに入ってきた彼女は、
上下ジャージ姿だった。
デープピンクの。
刺激が強すぎる
いろんな意味で。
熱心に残業していた僕のことはまるで無視して、自分の机をかき回している。
「・・・・忘れもの?」
彼女に僕の言葉が届くわけが無い。
ここまでこの恰好で来たのか?
タクシー?
まさか電車じゃないだろうし・・・
というかそこまで大事なものを忘れたのか?
・・・なんだろう?
サイフ?
部屋の鍵!
いや、ジャージに着替えてるんだからそれはないな?
・・・・ん?
いやいや、まさか。
・・・まさかな。
・・・・・でも
「あの・・・サトコちゃん?」
ガサガサガサガサ・・・ガタン!
「・・・・」
ガタ!
「もしかして携帯電話探してる?」
ガサ・・・・・
「いや・・・あの、コピー機の上に置いてあったんだけど。待ちうけがさ、」
「み!?」
「え?」
「・・・・・見たんですか?」
「え・・・と、」
「見たんですね?」
「み、てないです。」
「嘘!今待ち受けって!」
「いや!あのー・・・待ち受けてても誰も取りに戻ってこないから預かっておこうかなぁ?て。」
「・・・・」
「・・・」
「・・」
彼女は泣きそうな顔をして俺を睨んだ。
コピー機の前で、作り物のような笑顔の男と目があった。
その携帯の待ちうけ画像は、
美樹ちゃんがカッコイイと騒いでいたアイドルの写真。
好きなのかな?
<つづく>