3-hikaru-
クロコダイルの皮を剥ぎ
特製の毛皮を着せてあげよう
そして誰にも見つからない場所へ逃げるんだ
3 -hikaru-
黄色い歓声
馬鹿みたいに眩しい照明
ピエロの様に派手な衣装
眩暈がする
眩暈がするんだ
いつの間にか見失ってしまった
自分はもっと上手に生きていける部類の人間だと思っていた。
でもそれは大きな間違いで
今、
今俺は、
何もやる気が起きない。
朝から晩まで、
いくつかの決められた人間と
いくつかの決められた場所で
いくつかの決められた仕事をする。
それはとても、息苦しい。
浩一郎がまたスタッフを怒鳴りつけている。
用意された衣装が気に入らないらしい。
確かにセンスの欠片もない。
真っ赤な生地に大量のスパンコールで飾られている。
何だよこれ
あぁ、そうだ。
子供の頃、祥子さんの黒いピアノ鍵盤の上にあった、
あの赤い長いフェルト。
あの色によく似ている。
鍵盤に悪戯しようと冷たく硬いイスによじ登った。
勢いよく俺に手の上に鍵盤の蓋が落ちてきた。
それはとても重く、小さな子供の掌に圧し掛かった。
どのくらいの程度の怪我で、
どのくらい自分が泣いたのかは忘れてしまった。
ただ運ばれた病院の薬品臭い廊下や、
看護婦さんの冷たくて気持ちのいい指先は覚えている。
白と黒の鍵盤の上に生暖かい真っ赤な血が流れ出る
鍵盤と鍵盤の間に染み入る
人間の血はクレヨンの赤よりずっと濁っている
子供ながらにガッカリした。
そうだ。
人間の内部にはどす黒い血液が流れてる。
もう沢山だと思う
何もしたくない
それでも9時には歌番組の生放送があるし、
きっとそれを投げ出す勇気も気力も無い。
今年で27歳になる、いい歳をした浩一郎と俺が、
カメラに向って爽やかな笑顔を見せるんだ。
反吐が出るくらいの爽やかな笑顔。
ピエロになる。
殺す価値など無い心を殺して。
あの日、
ピアノの鍵盤の蓋を落としたのは祥子さんだった。
<つづく>