2-sinohara-
一度落ちたら逃れられない
クロコダイルの住み着くその穴に
2 −sinohara−
生意気な女は可愛い 彼女を見ていると思う。
そりゃ顔は美樹ちゃんのが可愛いし
高丸さんの方がずっと感じが良い
高丸さんは相槌の打ち方が丁寧だし 清潔感がある
それを思うと彼女は実に愛想が悪い。
顔だって並だ
髪の毛は肩で揃えただけの何てこと無いスタイルだし
化粧も素っ気無い
しかし 彼女はふちの無い眼鏡が良く似合う。
彼女はいつもここにいない
僕らの知らない別のどこかにいる
そのどこも見ていないような瞳は
美樹ちゃんの整った顔立ちや
高丸さんのキラキラ光る爪よりも
ずっと美しいと思う。
「サトコちゃん、コーヒー入れて。」
声をかけた
いつもコーヒーは彼女に頼む
大概のことは無視されるが コーヒーだけは入れてもらえる
出来るだけ
たまたま側にいたからお願いしちゃお
という雰囲気を出すのがコツだ。
「はい。」
なんて無愛想な返事なんだ
天才的だ。
しかも
彼女の入れたコーヒーは素晴らしく不味い
コーヒーの薄さが彼女の僕への興味の無さを物語っている
嗚呼不味い 今日も不味い
きっと今日も5時3分前から小さな声でカウントダウンして
5時を回ったら小走りで帰るんだろうね・・・
もしタイムカードを押し忘れたら、
こっそり押してあげるからね。
<つづく>