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4.死んでしまった借金男

 ロマス・テーナーは、好事家のソフバックの家でちょっとした用事を済ませてから街を歩いている最中に、妙な騒ぎを見つけた。ある民家の前に、人集りができている。何だろう?と思って、そのうちの一人に「どうしたのですか?」と訊いてみたら、どうやら人が死んだらしいという事だった。

 それにしても、こんなに人が集まるものだろうか?

 と、ロマスはそれを聞いて疑問に思う。民家を観察してみたが、古い上に小さくていかにも貧しそうだ。有力な人間が亡くなったという事でもなさそうだった。しかも、集まった人達の全員が悲しんでいるという訳ではなく、中にはどう見ても怒っているようにしか見えない者もいた。そしてそのうちの一人が不意に、

 「チクショウ! 俺の貸した金は、どうなるんだ? 大金だったんだぞ!」

 なんて、叫んだのだった。それで再びロマスは見物人の一人に質問をした。

 「なんですか? あれは」

 見物人はこう答える。

 「ああ、死んだ奴がさ、ヴェルゴって名の有名な借金男だったんだよ。あちこちから金を借りてて、その借金を返さないまま死んじまったと。それで文句を言いに来ている奴がいるんだよ」

 見ると、三十代辺りの女性が民家の前で腰に手を当てて、まるで門番のようにして、その借金取り達の相手をしているようだった。

 「あの人が奥さんですかね? 大変だなぁ」

 それでロマスはそう言う。完全に他人事という口調だ(実際、そうなのだけど)。しかし、それを聞くと見物人の一人はこう返した。

 「いや、マーサは奥さんじゃないよ。と言うか、ヴェルゴは誰とも結婚していないんだ。ヴェルゴとマーサはただの友人同士だが、腐れ縁ついでに、彼女は死んだ後の始末をつけてやっているんだろう」

 そう言われて見てみると、確かにマーサというらしいその女性は、少しも哀しんでいるようには思えなかった。むしろ、怒っている。

 「騒いだって仕方ないでしょうよ。死んだものは、死んだんだ。断っておくけど、私だって奴には金を貸していたんだよ? その上、死んだ後の始末までしなきゃならないなんて、冗談じゃないよ」

 怒っているのは、借金取り達があまりにしつこいからだろう。それを聞くと、マーサの近くにいた男がこう言った。

 「しかし、あいつが死ぬなんて、まだ信じられないよ。つい先日、酒場で会った時は、元気な様子だったが…」

 それにマーサはこう反応する。

 「トッド、まだ言ってるの? さっき、あいつの死体だって見たでしょうよ」

 トッドと呼ばれた男は本当に哀しそうな顔をしていた。それに比べてマーサは随分と淡白だ。それを少しロマスは不可解に思ったが、“いや、現実的な処理をしている人間はそうならざるを得なくなるのかもしれない”と、そう考え直した。落ち込んでいたら、何にもできないだろう。

 次にマーサはこう言って、見物人達を追っ払った。

 「いつまでもこんな所にいたら、近所迷惑だよ。そろそろ解散にしなさい。これ以上いたって、何にもないし、私にだって色々とやる事があるんだ!」

 それを聞くと、借金取りだろうと思われる男たちは渋々とその場を去り、それに釣られてか、その他の見物人達も場を離れていく。確かにこのままここにいても何も面白い事はなさそうだった。見物人の一人が、「借金男が借金を残したまま死ぬか。そういう迷惑な奴はヴァンパイアになるんだ」と、そんな独り言を言っている声がロマスに聞こえて来た。それからロマスもその場を去ろうとしたのだが、そこで彼は、先のトッドという男に、誰かが話しかけているのを見つけてしまったのだった。

 赤毛で長髪。少しきつそうでやや長身だが、整った顔立ちをしているし、線は細そう。着ている服こそ汚くて、まるで男のようだが恐らくは女性だろう。

 その姿を見て、ロマスはそう思う。そしてまだ時間に余裕があるなと考えると、その女性の後を追ってみたのだった。

 “綺麗な人だな。初めて見るから、きっと街の外からやって来たんだ”


 セピア・ローニーは二日間ほど、何も収穫がない状態で過ごしていた。あの晩に、一緒に飲んでいた男性客を見つけられず、自分が盗まれた物を探す手掛かりが全くない。金が少ないから、飯は一日に一食だけ。もちろん、夜は野宿。

 “くそう。このままじゃ、あれを見つけ出す前に飢え死にしちまうぞ…”

 もちろん、空腹状態が続いている。気分も落ち込んできた。何も当てがないまま、彼女は道をフラフラと歩いていた。しかし、そこで人集りを見つけたのだった。何か騒いでいる。借金がどうのこうの。何の騒ぎかは分からないが、何でも良かった。人が集まっている方が、一緒に酒を飲んでいたあの客を見つけられる可能性は高い。

 彼女はそこに行くと、意識を集中して人々の顔を一人一人確認していった。何しろ酔った時の記憶だから、非常に曖昧で頼りない。見つける為には、かなり注意深くしなければならなかった。しかし、一応彼女はここ一番の集中力は高い。この場にその男がいれば、見つけられる自信が彼女にはあった。その間に、勝手に耳からの情報も入って来る。借金男が死んだらしい事、それを踏み倒された人間が大勢いる事、知り合いの何人かがその死体を確認した事。

 そして、

 「しかし、あいつが死ぬなんて、まだ信じられないよ。つい先日、酒場で会った時は、元気な様子だったが…」

 その声。セピアには聞き覚えがあった。注目する。間違いない、あの晩に一緒に飲んでいた男だ。どうやらトッドという名らしい。

 “よっしゃー!”

 と、セピアは心の中で叫んだ。そのうちに、どうやらその集まりは解散する気配となり、人々が散らばっていく。逃すものかとセピアはトッドの後を追った。

 「よぉ、あんた」

 セピアは後ろから、トッドにそう声をかけた。トッドは驚いて振り向く。そして、セピアの顔をみて不可解な表情を浮かべた。「誰だ、あんた…」。が、そう言いかけたところでセピアの顔を思い出したのか、

 「ああ、確かちょっと前に酒場で会った、あんちゃんか」

 と、そう言う。セピアは自分が男だと認識されている事に気付き、多少は怒りを覚えながらも、毎度の事だからとそれを無理矢理に抑え込んで、こう言った。

 「そうそう。そのアタシだよ。実はさ、あの晩にあんたに話したアタシの荷物が、あの晩に盗まれちまったんだよ。アタシはどうしてもあれを見つけなくちゃならない。あんたが何か知らないかと思って、声をかけたんだ」

 それを聞くとトッドは自分が疑われているのかと勘違いをして変な顔をした。

 「いや、俺は何も知らないよ」

 と、そう答える。セピアを追い払おうとしたが、彼女は直ぐにそれを察する。

 「あんたを疑っている訳じゃないよ。あんたが出て行く時、あの荷物は確かにまだアタシの足元にあった。あんたじゃなくて、アタシの荷物を気にかけていた奴とかが他にいなかったか知りたいだけなんだ。あの荷物の話は、あんたにしかしていないから、あんたから話を聞いた誰かが盗んだって線が一番怪しいんだよ」

 そしてそう言った。それを聞くと、トッドは少し迷った後でこう答える。

 「ああ、そう言えば、ヴェルゴの奴があんたの事を聞いて来たな。だが、もう無駄だと思うぞ」

 「どうしてだよ?」

 「もう死んじまったからだよ。さっきの集まりを見ただろう? あれは、あいつの死を確認しに来た借金取りとその他の知り合い連中が集まってたんだ。まぁ、野次馬もいたみたいだがな。あいつは良い奴とは言えなかったが、死んじまうとやっぱり寂しい」

 それを聞くと、セピアは少し固まった。そして、「死んだ?」と、そう尋ねる。それからこう続けた。

 「ちょっと待て。なら、家の中に大きな荷物はなかったか? 大きな長方形の、大人の男くらいなら入りそうな…」

 そう問われてトッドは肩を竦めた。

 「ああ、あの晩にあんたが足で踏んでいたあれか? 家の中を全部、確認した訳じゃないが、少なくとも目に入る範囲には何もなかったよ。

 確かに、あいつは借金まみれだったから、金になるものなら盗んでも不思議じゃないが、だとしたってもう手掛かりはないと思うぞ。何しろ、本人が死んじまっているし」

 それを聞いてセピアは頭を抱える。

 「そんな……、その他に何か変な事はなかったか? そうだ。あんたはそいつの死体を見ているのだろう? 死体に何か争った形跡があったとか。もしかしたら、アタシの荷物が何者かに強奪されて、それで殺されたのかも」

 その可能性が低いとは知りながらも、セピアはそう尋ねずにはいられなかった。ヴェルゴなる男が、彼女の荷物を高級品だと勘違いしていて、賊がそれを信じて強奪したという可能性なら有り得る。

 「いや、死体は綺麗なもんだったよ。死因は病気だっていうし。ただ、顔は見せてくれなかったな。マーサの話によると、何でも酷い腫瘍が顔にできていて、見せるのは忍びないとかいう話だった」

 それを聞いて、セピアは更に肩を落とした。「そんな…」と、声を上げる。空腹状態で、かなり疲労しているから考える気力もない。しかし、少し後でまた肩に力が入る。

 「いや、まだ道はあるぞ。そのヴェルゴって奴をもっと知っている人間はいないのか? 教えてくれ。そいつに当たってみる」

 今のところ、ヴェルゴという死んでしまった借金男が、最も有力な容疑者である点は確かなのだ。そこから辿るしかないだろう。トッドはそう尋ねられて、

 「一番親しかったのは、マーサだよ。ほら、さっきの集まりの中心で叫んでた女だ。だが、今はまともに取り合ってはもらえないと思うぞ。何だかんだで、マーサもヴェルゴが死んでショックだろうし、色々と始末をしなくちゃならないから」

 それから少し止まった後で、「何より、あんたは余所者だしな。マーサは、余所者には特に厳しいんだよ」と、言った。

 ドットはセピアをまじまじと見つめると、こう続ける。

 「あいつも一応は女だからさ。その点は、どうか分かってくれ」

 もちろん、それはセピアを男と勘違いして出て来た発言である。彼女の外見は、気が強そうでもあったから、警戒されるとトッドは考えたのだろう。それに、彼女は頬を引きつかせ文句を言おうと口を開こうとする。しかしそこで声がかかった。

 「女性に対して、それは酷いんじゃありませんか?」

 セピアが振り返ると、そこには使用人用の服を着た少年の姿があった。

 ロマス・テーナーとセピア・ローニー。二人は、その時初めて出会ったのだった。

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