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20.本当のヴァンパイア退治 …その一

 ソフバックがセピアの処置の正しさを認めたのを受けて、ポットディが「さぁ、もう、良いだろう。うちの労働者を開放してくれ」とそう言う。しかし、人々はそれに戸惑った表情を浮かべただけで、何も行動は起こさなかった。それでロマスはセピアを縛っている縄を解く為に、彼女に近付こうとする。強引にでもセピアを開放してしまえば、それで彼女に押された魔女の烙印は消えそうだったからだ。しかし、それをリーダー格の男が止めた。

 「待て。まだ、その女が魔女ではないと決まった訳じゃない。飽くまで、まだヴァンパイア化防止が正しかったというだけだ」

 それにポットディはこう返す。

 「もしも、魔女じゃなかったら、わざわざそんな処置をする必要はない。これで決まったようなものじゃないか」

 そのポットディの言葉に、農園の農夫達も同意する。

 「そうだ。セピアはヴァンパイアの専門家ってだけの話だ! 魔女なんかじゃない」

 すると、それに反応するように、別の人間達はこう返した。

 「もしも、魔女だったらどうするんだ? 更に犠牲者が出るんだぞ!」

 それに、農夫達はこう返す。

 「魔女でもないのに、無実の女を犠牲にするつもりでいるのは、そっちだろう!? 処置は正しかったんだ。魔女のはずがない」

 「いーや、魔女である事を隠す為にわざとやったのかもしれない」

 そうして俄かに言い合いは激しくなっていった。その言い争いを聞きながら、セピアの機嫌はどんどんと悪くなっていった。ずっと縛られたままの辛い体勢だったところに、こんな不毛な議論を聞かせられたら、彼女の性格上、苛立たないはずがない。

 “このどさくさで、セピアさんの縄を解いたら、やっぱり怒られるのだろうな…”

 明らかにセピアの機嫌が悪くなっているのを見ながら、ロマスはそんな事を思っていた。早くにセピアを開放しなければ、何をするか分からないので不安になっていたのだ。そこでリーダー格の男が言った。

 「とにかく、あの女が魔女じゃないってな明確な証拠を示さない限り、開放する訳にはいかない!」

 その時だった。突然に、セピアが大声で笑い始めたのだ。

 「ハッハッハ!」

 一体、どうしたのかと、皆はセピアに注目をした。言い合いはそれで止まった。セピアはその皆の視線を受けると、ゆっくりと立ち上がる。

 「分かったぞ。お前… さっきから、妙にアタシが魔女だって事に拘ると思ったら、そういう訳か。お前、単にアタシの裸が見たいだけだろう!」

 リーダー格の男はそれに驚く。

 「な、何を言っているんだ?」

 セピアはそれにこう応える。

 「魔女っつったら、身体のどこかに、印があるってので有名じゃないか。なければ、そいつは魔女じゃない。が、それを確かめる為には裸にしないといけない。

 お前は、アタシの裸が見たいから、そんな事を言っているんだ」

 それを聞いてロマスは思う。

 “あ、見たいかも… というか、見たい”

 そこでセピアはロマスを睨む。それを受けて、“勘がいいなぁ”と、ロマスは心の中で呟いた。

 「そ、そんな訳はないだろう!」

 それを聞いて慌てて男はそう否定したが、セピアはこう言う。

 「おっ赤くなった。やっぱ、図星だな。おーい、こいつの奥さん、いるか? こいつはアタシの裸を見ようとしているぞ!」

 「馬鹿かお前は! そんなのどう反応したって、そう言ってしまえば、強引に通るじゃないか」

 「そうだよ! つまりは、魔女裁判と同じだ!」

 セピアがそう応えると、皆は顔を見合わせた。彼女は続けた。

 「魔女裁判もな、無理矢理強引に、そう決め込んで、魔女だって事にしちまうんだよ。拷問にかけたりしてな。因みに、お前らは魔女と言えば女だって考えているようだが、男だっているんだよ。だから、アタシが男と偽るのは意味がない」

 誰も何も応えない。セピアはため息を漏らすと、こう続けた。

 「おい。これだけ言ってやっても、まだ、アタシを開放しない気か? 魔女がどうこうなんて意味がないよ。そもそも、ヴェルゴはヴァンパイア化なんてしてないんだからな。これは、断言できる!」

 それにリーダー格の男は、こう尋ねた。

 「なんで、そんな事が言えるんだ?」

 するとセピアは、こう大声で答えた。

 「ヴァンパイアなんて、そもそも、存在していないからだよ!」

 自称、ヴァンパイアの専門家なのに。

 “ぶっちゃけたなぁ…”

 と、それを聞いてロマスは思った。

 皆はそれに意表を突かれ「え?」という顔をする。その顔を無視して、セピアは縛られたままでゆっくりと彼女がヴァンパイア化防止の処置を指示した墓にまで歩いて行く。

 「さっき、魔女裁判は無理矢理強引に、相手を魔女にしちまうってな話をしたが、それはヴァンパイアでも同じなんだよ。人間はな、少しでも自分達の想像通りに死体がなっていなけりゃ、ヴァンパイア化したと言い張るんだ……

 じゃ、どうすれば、ヴァンパイア化は防げると思う? まぁ、簡単な話だが、人々の想像通りの死体になるよう、処置してやるしかない」

 彼女はそう言うと、目で網を示し、こう説明を始めた。

 「まず、死体が墓から蘇ったりすれば、それはヴァンパイア化したと判断される場合が多い。

 で、その最も簡単な要因に野生動物がある。狼とか犬とかだな。そういった獣が、墓を掘り返して死体を食う訳だ。で、朝になって食い残した死体が見つかる。すると、その死体はヴァンパイア化して蘇ったんだって思われちまう。だから、それを防ぐ為に、網を地表に埋めておくんだよ。野生動物は、網が邪魔で死体を掘れない」

 その説明に一同は唖然とした表情を浮かべていた。関係なしにセピアは続きを語った。

 「これを裏付ける民間伝承もちゃんとあるぞ。ヴァンパイアは獣に化けるという言い伝えがあるよな? これは、死体を掘り起こした獣が逃げ去るのを見て、そう想像したって考えるのが一番すっきりする。獣がヴァンパイアを食べて退治するってな言い伝えもあるが、これなんかはもっとそのまんまだ。獣が死体を食べているってだけの話だな」

 セピアが言い終えると、誰かが言った。

 「ちょっと待て。なら、網で亡者対策ができるって話は…」

 「あ? ソフバックの言ったあれか? 亡者は網目もついつい数えちまうとかいう。そういう民間伝承があるのは事実だよ。が、その理由は後付けで、元々は野生動物対策だったのじゃないかってアタシは思うよ」

 そう答えると、セピアは続けた。

 「次にこの墓石だな。この墓石も、理由はさっきとほぼ同じだ。野生動物を防ぐ為。お前らもこれを転がすのに苦労したろ? 野生動物も同じなんだよ。ただし、ガスの発生によって地面に穴が開くのを防いでくれもする。死体ってのはガスを発生させるんだよ。ほら、臭いだろう? 食べ物が腐ると、臭いを発するのと同じだ。で、そのガスが、地面の中に溜まると、地面の上に出てこようとして穴が開く事がある。当然、そうなれば、ヴァンパイア化したと見なされるから、防がなくちゃいけない」

 言い終えると、セピアは今度は墓の穴の中を見た。

 「網と墓石の話と同じ理由で、死体をある程度の深さに埋める必要もある。浅けりゃ、野生動物は容易に掘り返すし、ガスだって簡単に地面に穴を開けるからな。

 が、深く埋め過ぎるのも駄目だ。今度は死体が腐り難くなるんだ。腐らない死体も、ヴァンパイア化したと判断される。だからちょうど良い深さってのが条件になる。それでアタシはそう指示したんだよ」

 そこまでをセピアが話し終えると、また誰かが質問をした。

 「じゃ、あんたが刃物で、死体の腹に穴を開けていたあれは、何だったんだ?」

 「それも簡単な話だよ。死体ってのは、体内でガスを発生させるんだ。それで身体が膨張する事がよくある。ま、そんな死体を観れば、人間はヴァンパイア化したと判断しちまうよな? だからガス抜き用の穴を開けておく必要があったんだよ。

 さっきお前らだって、あっちの死体を観てヴァンパイア化したと思っただろう? 因みに死体の肌が瑞々しかったのは、単に皮が剥けただけの話だよ。膨張していなくても剥ける場合もあるが、膨張した方が剥ける可能性が大きくなるのは当然の話だ」

 セピアの説明が終わると、人々は何とも言えない表情で彼女を見ていた。嘘を言っているようにはとても思えない。無知な自分達を馬鹿にしている発言にも思えたが、彼女の態度からはそんなものは感じられなかった。その時、人々は一種のカルチャーショックを受けていたのかもしれない。

 「いや、しかし、あんた、それはつまり、ヴァンパイアなんてただの妄想の産物だって話なのか?」

 誰かが言ったその質問に、セピアはこう答える。

 「そうだよ。初めから、そう言っているじゃないか」

 「なら、どうして、ヴァンパイア化を防止するなんて言って、金を取ったりしたんだ?」

 それを聞くと、セピアは肩を竦めた。

 「おいおい、勘弁してくれよ。そんな事を言い始めたら、風習や風俗の類は、みんなただの出鱈目になっちまう。嘘でも妄想でも、それを信じる事で社会が機能し、成り立っているのなら、それには意味があって役に立っているんだよ。

 アタシはそういう“社会的機能”の枠組みの中で生活している人間なんだ。アタシのヴァンパイア化防止で、顧客は心の平安が得られた。なら、それは充分に社会的価値のある事なんだよ。断っておくが、儀式の類は全て同じものだぞ」

 それを聞き終えると、ポットディが口を開いた。

 「セピア、お前は、一体、何者なんだ?」

 すると不敵な笑みを浮かべながら、セピアはこう返した。

 「アタシ、アタシか?

 アタシは、埋葬に関わる物々を扱う商人だよ。民俗的に価値のあるものから、単なる身元不明の昔の死体まで、何でも…… それでヴァンパイアに纏わる様々な話にも詳しいって、それだけの話だ。

 ま、だから、ヴァンパイアなんていないって身に染みて分かっているんだがな」

 「つまり、墓荒らしって事か?」

 「聞こえが悪いな。ちゃんと、正当な取引を行っているよ」

 “もっとも、時には墓から勝手に頂戴する場合もあるけどな”

 と、セピアは心の中で呟いたが、もちろん、それを口には出さない。

 「とにかく、今はヴェルゴの野郎を捕まえるのが先なんじゃないのか? 恐らく、今がチャンスだぞ。それで、アタシへの嫌疑も完全に晴れるだろう」

 それからセピアはそう言った。誰かがこう尋ねる。

 「ちょっと待て、ヴェルゴは死んだじゃないか。どうして、捕まえられるんだ?」

 それにセピアはこう返す。

 「生きてるよ、ヴェルゴは。だから、死体はなかったし、奴を見たってな目撃証言もあったんだろうが」

 「どういう事だ?」

 「その前に、この縄を解いてくれねぇかな?」

 そう言ってセピアは自らを縛っている縄を目で指示した。それから、ようやくセピアの縄は解かれたのだった。流石に、もう彼女を魔女だと思う人間はいなかった。

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