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15.ヴァンパイア退治… 空振り

 ロマスとセピアが、ソフバックを連れて農園に戻ると、人々の数は先ほどよりも膨れ上がっていた。恐らく、ソフバックを迎えに行っている間に、ヴァンパイア退治をするという噂が更に広まり、人々が集まって来たのだろう。

 その人々の数を見てセピアは「おぉ、流石にちょっと多過ぎるな」と、そう漏らす。

 「予想外ですか?」

 と、ロマスがそう尋ねると、「いや、これくらいは予想していたが、もうちょっと少ない方がやり易かったと思ってな」と、セピアは答える。

 戻って来た二人とソフバックを見ると、集まっていた人々は、「戻って来たぞ!」と、声を上げた。セピアはそれに応える。

 「ああ、この通りソフバックさんも来てくれた。さぁ、ヴァンパイア退治だ!」

 人々はその声に興奮した。“興奮させてどうするの?”と、ロマスはそれに呆れた。実はソフバックは人々の興奮を抑える役割として付いて来てもらってもいたのだ。

 “これじゃ、話が矛盾する”

 しかし、もちろん、セピアがソフバックに来てもらいたがったのは、人々の興奮を抑えてもらいたかった事だけが理由ではない。真の目的は別にある。

 「マーサの家から、アタシの荷物を取り返したら、それを一時、あんたの家で預かって欲しいんだよ。アタシの荷物だってことを明かす訳にはいかないんだ。

 何とか上手く、そういう方向に誘導するからさ」

 戻る前、屋敷でセピアはソフバックにそう頼んだのだ。ソフバックはそれを聞いて、少しの間躊躇していたようだが、やがて「分かった。それくらいなら引き受けよう」と、そう答えた。

 確かに、その荷物が変な物で、そして誰の物なのか分からないのなら、ソフバックがそれを預かる事になるのは、自然の流れだ。街の皆からソフバックは、そういう存在として見られている。好事家な上に、長老的な存在として一目置かれているのだ。

 ソフバックに預かってもらっておいて、後でセピアがそれを受け取る。どうやら彼女は、そう計画しているらしかった。

 大体のセピアの計画を察したロマスは、“そんなに上手くいくかなぁ?”と、その時そう思った。いくつも罠がありそうな気がする。

 やがて農園に集まった人々に向かって、セピアが「行くぞ」と言ってから歩き始めると、それにつられて農園に集まった人々も進み始めた。セピアを先頭に、マーサの家を目指す列ができあがる。不安を覚えながらロマスもそれに続いた。彼は考える。

 “マーサさんは、これをどう思うのだろう? それにセピアさんの荷物を取り返す為に、ヴェルゴさんの死体に乱暴をするってのもなんだか…”

 ロマスが悩みながら歩き続けていると、不意に声がかかった。

 「そんな顔をするな、ロマス。ヴェルゴの死体は、恐らくないよ。だから、乱暴される心配もない」

 小声。見ると、いつの間にかセピアがロマスの傍にまでやって来ていた。どうやら彼女は、彼の表情からその心情を察したらしかった。しかし、

 「どういう事…」

 と、ロマスが尋ねようとすると、セピアは「そのうち分かる」と、そう返してイタズラっぽく笑うだけで何も説明してはくれなかった。ロマスの不安は消えない。

 やがてマーサの家にまで着くと、人々の歩みが止まった。マーサは、自分の家の前で仁王立ちで人々を待ち構えている。勝気な彼女らしいが、それでも動揺しているのは簡単に分かった。

 「あんた達! 死体に乱暴しようなんて、正気なのかい?」

 そう叫んだが、その声は震えている。それに応えて、一人が言った。

 「なら、死体を見せてみろ。ヴァンパイア化している死体には、明確な特徴があるから直ぐに分かる」

 人々の多くが、それに同意した。

 「そうだ! 死体に特徴が出ていなければ、俺達は何もしない!」

 「死体を見せろ。マーサ!」

 それを聞いてロマスは、“でも、その特徴は無理矢理にこじつけられてそう解釈されるものだから、どうとでもなるのだけど”と、そう思う。セピアから教えてもらった事だが、今はそれがよく分かった。興奮している人々には正常な理屈は通じない。強引に信じ込むのだ。

 人々の言葉を聞いて、マーサは明らかに気圧されていた。そこで彼女がソフバックを見ている事にロマスは気が付いた。何か、それは彼には助けを求めるような表情に思えた。多少は不思議に思ったが、賢明な老人の冷静な判断に期待しているのだとそう解釈する。この場を抑えられる人物がここにいるとすれば、それはソフバックだけだろう。しかしソフバックは何も動かなかった。それを見て諦めたのか、彼女はこう言う。

 「分かったよ。そんなに言うなら、中に入って調べな」

 そこでロマスはセピアを見てみた。明らかに嬉しそうな表情を浮かべている。彼女の言葉を信じるのなら、これでいよいよセピアの荷物が何なのかが分かるはずだった。

 人々がマーサの家に入っていく。セピアももちろん足を踏み入れた。ロマスも慌てて中へと続きセピアの姿を探す。すると、多くの人達は、以前来た時にヴェルゴの死体が置かれていた部屋へと向かっていったようだったが、セピアだけは、別の場所にいた。廊下の辺りで悩んでいる。

 「どうしたんですか? セピアさん」

 不思議に思ったロマスがそう尋ねると「いや、物置かなんかがないかと思ってさ」と、彼女は答えた。

 「物置?」

 セピアはそこに自分の荷物が置かれていると考えているのだろうか。そうロマスが思ったところで、声が響いた。

 「ヴェルゴの死体がないぞー!」

 それはもちろん、ヴェルゴの死体を見に行った人々の声だった。セピアは表情を変えずにそれを受け止めた。彼女は「ヴェルゴの死体はないよ」と、そう言っていた。彼女にとってみれば予想通りのことだったのだろう。それから、次にこんな声が聞こえて来た。

 「別の部屋を探せ!」

 続いて人々は、他の部屋や倉庫の中なども探し始めたようだった。そんな物音が響いてくる。セピアは腕を組んでその状況を冷静に見守っている。そして、

 「さて。これで見つかるかな?」

 と、そんな事を言った。何が見つかると言うのだろう? ロマスはそう疑問に思う。それは恐らくヴェルゴの死体ではない。

 「駄目だ。何処を探しても、ヴェルゴの死体はない」

 しばらくが経ってからそんな声が聞こえて来た。どうやら彼らは死体を見つけられなかったらしい。ほとんど暴徒に近い勢いで、そんな所にあるはずがないという場所の隅々まで探していたようなのに。当然、マーサは「何処にやったんだ?」と、彼らから問い詰められた。しかし、マーサはそれに、

 「そんなのこっちが聞きたいよ。ヴェルゴの死体は動かしちゃいない。そんな人手も時間もなかったんだ」

 と、そう答える。多少は、演技くさかったが彼女は確かに動揺しているように見えた。そして、ここにもう一人、明らかに動揺している人間がいた。セピアである。困惑した表情を浮かべ、汗をかいている。ロマスが彼女に尋ねる。

 「セピアさん。見つからないそうですよ。これも、予定通りですか?」

 すると彼女は震えた声でこう返した。

 「何で、見つからないんだ?」

 ロマスは思った。

 “オイオイ”

 やがて少しの喧騒の後、ソフバックに注目が集まっていった。それで彼はこの騒ぎを治める必要があると判断したのか、言う。

 「ヴァンパイアが発見されないケースは、確かに珍しい。滅多にないようだ。ヴァンパイアは、昼間は墓場から動けないとされるのが一般的だからな。しかし、少数ながら、見つからなかった例も存在する。それに、今回はまだ墓場には埋められてはいない」

 それに人々は「なるほど」と、そう返した。セピアが本当に期待した役割ではないが、人々の興奮を抑えるという役割を、ソフバックは充分に果たしたようだ。

 「なら、ヴェルゴの野郎は、今もどっかにうろついているって事か…」

 そう誰かが言う。それに応えるように、ソフバックは語った。

 「一応、これだけは言っておく。ヴァンパイア化はヴェルゴ自身の所為とは限らない。

 ヴァンパイアは魔女との関係も深いとされているのだ。魔女が、ヴァンパイアを作りだす事もあるし、魔女がヴァンパイア化する事もある。そしてヴァンパイア化した場合、その本人はとても苦しいらしい。その苦しみを癒す為にヴァンパイアは人々に迷惑をかけるような行動を執るのだ。仮に、ヴェルゴが今回の犯人だとしても、別にやりたくてやった訳ではない。それはちゃんと分かってやるのだ」

 それを受けて、人々の気分は沈んでいったようだった。興奮が明らかに覚めている。もちろんそれがソフバックの狙いだろう。それに、マーサを庇ったつもりでもあったのかもしれない。

 そう断定した訳ではないが、ソフバックの発言で、魔女の所為でヴェルゴがヴァンパイア化したかのような印象を人々は受けたはずだ。これでヴェルゴから罪が少しは消えただろうし、同時にそれはマーサから罪を消してもいた。

 ……まぁ、もちろん、本当はヴァンパイアもいなければ魔女もいないのだけど。

 それから自然と、人々は解散し、それぞれの家に戻って行った。ヴァンパイアに対する不安を払拭できないまま。セピアとロマスも仕方なしにそれで帰る。ソフバックが語っている間も、ずっとセピアは自分の荷物を探していたようだが、何処にもなかったのだ。

 

 「なんで、見つからないんだぁ!」

 

 農園に帰ってから、そう叫んでセピアは苦悩した。

 「隠す場所も時間もなかったはずだぞ!?」

 “あーあ”

 と、ロマスはそれを見て思う。

 これから、どうなるのだろう?

 彼は何かしら不気味な不安を感じていた。これから更に、良くない事が起こりそうな気がしていたのだ。

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