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14.ヴァンパイア退治に至る

 「これ、いったいどういう事なのでしょうね」

 と、口を開いたのはロマスだった。やる気のなさそうな表情で、セピアはそれを聞いている。ロマスは続けた。

 「まず、パソナさんが死んでしまった。病死として扱われ、犯罪性はないように思われたのに、そこで執事のクリックさんから“不審人物を見た”という驚きの証言が。更に、農夫達からもその証言を裏付けるように、不審人物を見たと報告があった。

 しかも、ポットディさんは、スマーテお嬢様が何かを隠しているのじゃないかと疑っている様子…。

 因みに、ユニス奥様はこの件に関して特に騒いではいないようです。パソナさんとの夫婦仲は冷め切っていたという話ですから、その所為なのかもしれませんが」

 そこでセピアが手を上げた。こう言う。

 「そのユニス奥さまってのを、アタシはほぼまったく知らないのだがな。見かけた事だってチラッとくらいだぞ」

 ロマスはこう応える。

 「ええ、ユニス奥様は、あまり部屋の外に出たりしません。ポットディさん達に用がある時は自分の部屋に呼んでいるようですし、自分のお気に入りの使用人だけを使って部屋の中から用事は済ませますし。因みに僕はあまり気に入られていませんね」

 「そりゃ、賢明な奥さんだな」

 「酷いですね、セピアさん。でも、奥様が僕に声をかけないのは、スマーテお嬢様やポットディさんが僕を気に入ってくれているからだと思いますよ」

 「どういう事だ?」

 「ユニス奥様は、子煩悩なところがありましてね、子供を徹底的に優先させるのですよ。だから、子供達が気に入っている使用人は使うのを避ける傾向にあるんです」

 その時、セピアはロマスの話をそれほど真剣に聞いてはいなかったのだが、その言葉には反応をしたようだった。「ほほぅ」と、そう言う。それから、こう続けて質問をした。

 「ところで、ポットディさんから頼まれていたスマーテのお嬢さんの件は、どうだったんだよ? もう探りを入れたのだろう?」

 「入れましたよ。少しばっかり、パソナさんが何か仕事をやりかけていたようですってな話を振ってみました。ペンを握っているのが見えたので、死んだ時は、それをやっていたのじゃないかって」

 「で?」

 「大いに動揺していましたね。あのお嬢様のああいう反応を、僕は初めて見ました。ま、父親が死んだ後なので、無理もない気もしますが…」

 「なるほど。何かしら知っている可能性が濃厚って訳か…」

 そう言ってセピアは頭の後ろで手を結ぶと、ぶらぶらと身体を揺らし始めた。何かを考えているように見える。その反応が気になったロマスはこう尋ねる。

 「もしかして、何か気付いた事でもあるのですか?」

 セピアは軽く首を横に振る。

 「いや、話すほどの事じゃないよ」

 「話してくださいよ。気になります」

 それを受けるとセピアは「うーん」と声を発し、「“大山鳴動して鼠一匹”って可能性もあるのじゃないかと思ってな」とそう答える。

 「なんです、それ?」

 「そのまんまの意味だよ。実は大した事なんて何も起こってないのじゃないかってな」

 「起こってますよ。パソナさんが死んだんですから」

 「まぁ、それは確かにな。でも、もし、アタシの考えている通りだとしたら、時間が解決してくれるかもしれない。なら、余計な手出しは無用だ。特に、アタシらみたいな余所者はな。これは家族の問題だよ」

 「それは、大した事は何も起こってないから、大事には至らないだろうって話ですか? だから放っておけって」

 「そうだよ。ま、これで家族関係がこじれて、農園経営がピンチになったら、出て行くなり、乗っ取るなり、色々と画策すれば良いだろう。お前は」

 それにロマスは困ったような顔をする。

 「なんです? その物騒な話は。僕にこの農園を乗っ取るなんて真似はできませんよ」

 「そうか? お前は頭が良いし、スマーテのお嬢さんとポットディっていう二人の経営者側の人間から気に入られている。できない事はないと思うぞ。パッドロットってのが厄介そうだがな。だた、それも、もしかしたら…」

 そこまで言うと、セピアは口を閉ざしてしまった。「“もしかしたら”、なんですか?」とロマスは尋ねる。しかしセピアはそれには答えなかった。「なんでもない」と、ただそれだけを言っただけだ。

 「何にせよ、そろそろ事が起こりそうだな。準備が必要だ。ソフバックの爺さんの所に行く事になるかもしれないぞ」

 続けてセピアはそう言った。ロマスは不思議そうな表情を浮かべる。

 「どうして、ソフバックさんが出てくるんですか?」

 それにセピアは何も返さなかったのだが、次の日、その理由がロマスにも分かる事になるのだった。

 

 「ヴァンパイアになったのは、ヴェルゴだ。そうとしか考えられネェ」

 そう男の一人が言った。人が集まっている。場所は農園だったが、そこにいるのは農夫達ばかりではなかった。魚屋や商人、主婦などの様々な職業の人間が集まっている。

 「あんたの意見が聞きたい」

 そう尋ねられていたのは、なんとセピアだった。ロマスもその場にいて、困惑した表情でその光景を見つめていた。時刻は午後の早い時間。まだ農夫達は休憩中だった。

 ここ最近、盗みや人死に、ヴァンパイアの所為だとされる様々な事件が起きている。そして極めつけに、農園主パソナの死。人々の不安は加速していたのだろう。そしてその噂はヴェルゴが死んだ辺りから発生している。もっとも幾つかのヴァンパイアの所為だとされる事件は、ヴェルゴの死の前に起きているが、それは都合良く無視されたようだった。つまりは、何でも良いから、人々は災いの原因を求めているのだろう。そして、その原因を取り除こうと考えている。例え、それが安心をする為の嘘であったとしても。

 セピアはヴァンパイアの専門家という事になっているから、こうして人々から意見を求められているのだ。ロマスはセピアが何と答えるのか固唾を飲んで見守っていた。セピアの口が動く。

 「確かに、その可能性が一番大きいだろうな」

 そして、そうセピアは答えたのだ。予想をしていたとはいえ、ロマスはそれに少し驚いた。セピアさんは、何をする気だろう?

 「やっぱりか…」

 セピアの発言の後で、人々の間から、そんな声が上がる。それから、

 「ヴェルゴの死体はどうなった?」

 「埋められたなんて話は聞いていないぞ」

 「なら、まだマーサの家にあるのか?」

 といった声が上がる。人手を集められない所為か、マーサという女性は、ヴェルゴの埋葬を未だに済ませていなかった。安い共同墓地にでも埋葬するつもりでいるのだと皆は思っていたのだが。

 人々の声は、お互いの声で相互影響して徐々に大きくなっていった。明らかに、彼らは興奮し始めている。そしてやがて、

 「マーサの家に行って、ヴェルゴの死体を殺そう……」

 そんな声が上がった。

 その時、セピアがニヤリと笑ったのをロマスは見た。それでロマスは、これがセピアの狙い通りの展開なのだと悟る。そして、セピアはそのタイミングで口を開いたのだった。

 「それなら、ソフバックの爺さんも呼ぶべきだな……」

 それに人々は同意をする。

 「なるほど、ソフバックさんか。確かにあの人なら、ヴァンパイアにも詳しい。こういう事には、頼りになるだろう」

 そこでセピアは手を上げて言った。

 「決まりだな。なら、アタシ達が、今から呼んで来よう」

 その“アタシ達”の“達”というのに、ロマスも含まれているのは明らかだった。ロマスは軽くため息を漏らす。セピアは妙に嬉しそうだった。

 

 「なんだって言うんですか?一体…」

 ロマスとセピアはソフバックの家に向かっていた。まだロマスは仕事の時間だったが、事が事なので、時間をもらったのだ。特別にポットディが許可してくれた。もっとも彼はこの事態に不安がってもいたのだが。できるだけ家の者を関わらせたくない感じ。

 「悪いなぁ… アタシの計画には、どうしてもあの爺さんの協力が必要でさ。お前と一緒の方が、協力を得やすいだろう? 後少しでアタシの荷物は取り返せそうなんだよ」

 セピアはそう言ったが、ロマスに対して、少しも悪気があるようには見えなかった。

 「事の全容はまったく分かりませんが、でも、それでも、セピアさんが、自分の荷物がマーサさん宅にあると確信しているのは分かりましたよ。根拠は知りませんけど。

 これから皆でマーサさん宅に押しかけて、そのついでにそれを取り返そうってんでしょう? その為にセピアさんはヴァンパイアの噂なんて流したんだ」

 ロマスはそう応える。それを聞いて、セピアは機嫌よく笑いながらこう言った。

 「まぁ、そうだな。アタシの荷物が何なのかを知れば、お前も納得すると思うよ。

 実は、そろそろ、お前くらいには、アタシの荷物が何なのかを話して良いかとも思っているんだが、ここまできたら、最後まで秘密にしておいた方が面白いだろう。どうせ後少しで分かるよ」

 それを聞くと、ロマスはこう言った。

 「その口ぶりから察すると、やっぱりこの事態はセピアさんの計画通りなのですね?」

 「大よそは、な。もっともイレギュラーな出来事も幾つかあったぞ。パソナ・アップルドの死なんて、アタシは少しも予想していなかった」

 「そりゃ、そうでしょう。もしあの事件まで計画の内だなんて言ったら、僕はセピアさんを見限りますよ」

 セピアは「つれない事を言うなよ」と、そう返す。それにロマスは笑った。

 「何だか、いつもと立場が逆ですね」

 「本当だな」と、セピアも笑った。やがてソフバックの屋敷に着いた。ロマスはいつも通りに玄関の戸を叩いてから、大声を上げた。それに応える声がする。

 「おぅ、ロマスか…」

 声を聞くと反射的に、ロマスはドアに手をやった。開けようとする。しかしそこで異変が。ドアが開かないのだ。鍵がかかっている。

 「ん?」

 ロマスはそれを不思議がる。これまで一度もソフバックがドアに鍵をかけていた事なんてない。何かあったのだろうか? やがてドアの向こうから鍵を開ける音がすると、ソフバックが顔を出した。

 「一体、何の用だね?」

 そう言ったソフバックはセピアの存在に気付き、少し妙な表情を浮かべた。恐らく、セピアがいるとは思っていなかったのだろう。

 「実はこれから、街の人々が集まってマーサさんの家に行こうとしているのですよ」

 「なんだって。どうして、そんな事を?」

 ロマスはそれにこう返す。

 「ヴァンパイア退治です。どうも、皆さん、ヴェルゴさんがヴァンパイア化したと思い込んでいるらしくてですね…」

 その言葉に、ソフバックは目を丸くして驚いていた。

 「なんだって? それは、大変な話だ…」

 それから、そう呟いた。

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