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4,それが初仕事です。

 合宿に押し込まれて二週間、研修と称して会議室に缶詰されること一週間。あっという間に経過した。


 この間、自宅に帰宅できてない。気楽な一人暮らしだし、一週間は帰れないと聞いていたから冷蔵庫は空っぽだし、ゴミ出しも問題ない。しかし、なんだかあのよろよろな布団が恋しい。


 自宅から車で一時間なんて近いんだから、と言って絶句されたけど。いやいや、車社会を舐めて貰っては困る。むしろ電車通勤したことがないからこれが普通だと思ってたけど。


 しかし、そんな近いのは私だけで他の10人は全国各地から集まってきていた。謎の九州人4人とか比率はおかしいけど。関東がごっそり抜けているのは訳ありらしい。研修を地方都市でやる理由もそれかと思ったけど、これは予算の都合らしい。


 まあ、自宅は恋しいものの一週間も同じホテルに泊まればなんとなく愛着がわく気がする。ビジネスホテルだけど。


 そんな一週間と一日目。


 志桜里がひょっこりと顔を出した。朝九時からの今日の研修が始まる直前だった。会議室には既に教官役の先輩もいるが、特に彼女への注意はされない。


「青の仕事決まったから」


「は?」


「わたしのサポート兼食事係。詳細はこれから話す」


 会議室から拉致されました。がんばってーという生ぬるい声援が聞こえてきたような気もする。

 そして、別の会議室へ監禁されました。

 中にいたのは5人、私たちを加えた7人がテーブルに着く。


「これが今日からチームに加わる柳井青です。ほら、挨拶」


「……柳井青です。よろしくお願いします」


 コレとはひどくないだろうか。志桜里は全く悪びれもなく、むしろドヤ顔をしている。これを連れてきた俺えらい、みたいな顔。


「おお、これが合宿で噂の」


 一人はいつぞやお見かけした司会の人だった。前はスーツだったが、今日はラフにポロシャツだ。まだ春先だが半袖とは。体格から想定がつくように良い筋肉が見える。


「青ちゃんがいれば心強いわ」


 おっとりとした口調の少女は確か、教官として合宿所にいた。専門は魔法。攻撃、回復、何でもござれ。ただし、度を超したマイペース。


「そんな有名な新入り?」


「そそ、胃袋的に」


「ねぇ、結婚しよう?」


 ……最後の一人は女性でした。とりあえず、私はそれなりに名が知られているということですか。そうですか。


「青は私の嫁」


 志桜里の主張はチョップでたたきつぶす。これでも人並みに彼氏がいたこともある。淡泊過ぎと振られた苦い思い出はあるが。

 潤んだ瞳で何か訴えていたが、無視する。たぶん、聞いても良くないこと……。


「じゃあ、青の嫁」


 やっぱりダメだった。

 たちが悪いのは、どこまでも冗談であり、牽制であることである。嫁は冗談にしても、私の友達に気安く近づくんじゃねぇよ?そんな気持ちがこもってる、らしい。本人談。

 これでは私の男っ気がなくなるはずだ。


「……アホなこと言ってないで、仕事してください」


 そんなこと新人に言わせるんじゃねぇ。そんな気持ちを込めて志桜里を見る。


「ええ、と、はい。では、ライル先輩、よろしくです」


「はいはい。資料は、席にあるね?」


 笑いをかみ殺しながら彼は言った。手元に紙資料が置いてある。体のみで拉致されたので、筆記用具は全くない。隣の志桜里を見れば、ボールペンを一つ転がしてくる。察しがいいのか予想通りすぎるのかわからないけど。


 プレゼン用に作られたと思われる、5枚綴り両面かつ、1ページに4ページを印刷されている厚さの割にがっつりした資料だ。


「柳井さんは、初めてだから易しめで頼むよ」


 会議を仕切るのはライルさんのようだ。


「善処します。石井伊織よ。ここには連れていないけど、従者を一人いるけど、驚かないでね?」


「よろしくお願いします」


 さっき結婚しようとか言った人だ。ノリだと信じたい。明らかに女性でちょっと羨ましい出っ張りが。

 ……うん、いつか育つよ。きっと私も。

 ということを隠して愛想笑いを浮かべる。


 ここで、一応メンバーを紹介される。

 リーダー的な立場のライルさん、副リーダーは石井さん。大体計画立案はこの二人が行い、実行は他のメンバーが行うことになっている。


 教官として顔を知っていた少女はシーリア・ライジングというらしい。初めて知った。そして、シーリアと呼んでくださいねとはにかんで言う姿が愛らしかった。あんなに鬼教官だったのに!


 他、男性が二人いる。

 一人はアウル・D・エーラと名乗る。柔らかそうな茶色の髪と青い目が印象的だ。いささか軽そうな雰囲気がするけど、どうだろうか。

 もう一人は小柄に見えるが平均的な日本人。加藤宗一郎という。


 この場にはいないがジークという男性を加えて8人で運営していくチームらしい。


「では、前回の会議からのおさらいと結果について。今までの経緯が先かな」


「経緯から進めてくれ」


「最初はラジェット国の内紛の調停依頼でした。

 ラジェット国が所属するのはD系統第5異世界シイラです。

 幻想生物と魔法が確認されています。伝承レベルでの神は存在しますが、現在、降臨の実態について調査中です」


 一ページ目に詳細が書かれている。続いて裏面にはグラフなどが並んでいるが今の時点では私には不明な情報だ。


「内紛については、第二王子を拘束し、幽閉を行うことで対処しました。

 処刑などはさせないよう現在も監視は必要です。これは、新しい王が即位するまでの対処としていますので継続していくものです」


「いつまでやんのアレ。殿下が頑張ればすぐじゃない?」


 うんざりしたようなような口調でエーラさんは主張する。志桜里が隣でため息をついて首を横に振る。


「殿下のやる気ゲージはゼロ。俺、王になるのヤダ。以上、殿下のお言葉でした」


「つったって他にいないでしょ」


 呆れたように加藤さんがそう言えば、その横ではシーリア嬢がうんうんと肯いている。


「いないねぇ。困ったよね」


 そして、石井さんがそうしめる。

 満場一致にトラブル中。

 新人を投入する現場として間違ってないだろうか。


「あんまり言うと内政干渉って拒否されるからほどほどにな」


「ライル先輩はほっといて良いんですか?」


「自国民が責任を持つことだ」


 ライルさんはばっさり切り捨てた。首をかしげながら、なんでそんなことを聞かれるのかわからない風なのがちょっと恐い。


「はいはい、先に進めるよ。

 第一王子、駆け落ち事件も後始末も終わり、第三王子が現在の王太子と指名される予定。……ここまで良い?」


 ばらばらに返事は返ってくるが、経緯の認識については特に問題はないらしい。


「というのが年度末までの大事件でした。動乱の一年でしたね。あたしの忍耐力をほめてあげたい」


「……で、だ。今年度の最初の依頼は、王子を健康にしてくれ、だそうだ」


「ああ、そうね」


 私以外納得顔だ。つまり当人に会えばわかるくらいのなにかだろう。

 と思ったのだが違うようだ。


「真っ当に仕事するの第三王子だけだから、彼だけ激務。何時寝てるのか不明なくらい執務室にこもってるのよね」


 志桜里がそう言う。一応、私に向けた説明的台詞らしい。

 大丈夫だろうか。この出向先。そう思ったのもなにも間違いではなかったとあとで思い知る。


「三ヶ月先までの予定をこれから立てます。

 と言っても王子一人をどうこうしたところで、国の状況が悪化するのが目に見えていますので、環境を変えます」


「えー、王子何とかすれば良いんじゃないの?」


「王子の仕事はどうするのかな? エーラ君」


「誰か出来るでしょ?」


「あの陛下、くらいだな」


「……わかりました」


 ライルさんの言葉にあっさり引き下がるエーラさん。不安が加速する気がするのは気のせいですよね。志桜里さん。と期待を込めて隣を見るが、彼女は頭痛いなぁと言いたげな顔で資料をぺらぺらとめくっていた。


「即できそうなのは使える人材を集めるくらいで、他は制度上の問題になるので陛下にお願い、してもムリそうなので、王子にお願いすることに」


「で、王子の仕事が増えるわけだが」


 最初より悪化した!? 本末転倒も良いところではないだろうか。


「だから、まあ、助手を最初に探してきてもらいましょう。

 制度の洗い直しと対策については二ヶ月目までにはめどを付けたいですね。

 いままでの情報の整理と」


 これから先は全くわからなかった。おそらく現地の固有名詞と人物などが主だったのだろうが、初期知識に欠ける私にわかれというのが無謀だ。

 ほぼ、聞き流し資料を熟読している私を放っておいて方針は決まったらしい。


「ライルさんと私で過去の事案などから対策検討を行います。

 エーラ君とシーリアさんは文官、武官の両方に当たって殿下の相手が出来そうな人を探してください。

 加藤君は主に新たな情報を探してもらい、志藤さんはいつものように殿下との連絡役をしてもらいます」


 私は? 疑問が顔に出ていたのだろう。石井さんはにっこり笑った。


「青ちゃんにはごはんを作ってもらいます」


 ……それってどんな仕事?

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