学生巫女と油揚げと石 前編
最近寝る時間が少ないです。そんな事聞いてない?失礼しました。
「…でさー、その中年男、御守り渡す時に思いっきり手握ってきたんだよね。ホント勘弁して欲しいよ、巫女さんだって誰でも温厚な大和撫子じゃないんだからさー…って、和也さん、聞いてる?」
「あーはいはい聞いてる聞いてる」
「しかもそいつ私が帰って来るまで神社の前で待ち伏せてたんだよ?我慢出来なくて式神ぶち込んじゃった☆」
「…手加減はしたよな?」
「うん、どさくさに紛れて盗撮してたみたいだから、カメラは塵にしてやったけど」
華京院亜麗沙。
近くの神社で巫女をやっている女子高生…と見せかけて、実は安倍晴明以来の天才陰陽師。
腰まである茶色の髪に巫女服。
垢抜けた端正な顔立ちも影響してか、ファンも多いらしい。
が。
「そこまでキツいのは、考え物だな」
「そーなんだよねー。まさか殺す訳にも行かないし。あ、ココアもう一杯ちょーだい」
「はいよ」
純ココアと水、それに砂糖をそれぞれ大さじ一杯小鍋に入れ、火にかけながら良く練る。照りが出て来たら少しずつ牛乳を入れて伸ばして行き、沸騰したら直ぐおろして完成。
簡単かつ本格的なココアの出来上がりだ。
「出来たぞ」
「美味しそうだよねー」
「さっきも一杯飲んでただろうが」
「それでも美味しそうに見えてるあたり流石和也さんだよね」
言いながら、亜麗沙はゆっくりとココアを飲んでいく。
「で、何か用事あったんじゃないの?」
「ああ、忘れてた」
和也が持って来たのは、30cm程の石だった。
それを見た瞬間、亜麗沙の顔が驚愕に染まる。
「…和也さん、これ、何処から?」
「ロキが持って来たんだよ。あいつの事だから何かしら仕掛けがあるんだろうかって思ってな」
「仕掛けどころじゃ無いよ」
亜麗沙が真剣な表情に変わる。
「殺生石」
「玉藻前か」
殺生石。
鳥羽上皇に仕えていた女性、玉藻前が正体をあらわした際に、数万の軍勢によって致命傷を負い、石となったという話が八百年程前にあった気がしたが…
「その時の、か」
「しかも、この毒…僅かに妖力も混じってる。他の所で毒が弱くなったっていう報告があったから、多分その反動でこっちの殺生石が強くなったんだ」
「という事は?」
「この中に玉藻前がいる可能性が高い、という事です」
言いながら、亜麗沙は懐から式神を呼び出す為の札をありったけ出す。
そして自分の魔力を札に注ぎ込み、殺生石に狙いを定めた所で、
「はいストップー」
和也に止められた。
「何するんですか!?」
「そんなのぶち込まれたらこの店が潰れる。もうちょっと平和的に行こうぜ」
「どうしろと?」
「古今東西、空腹に勝てた生物も神も居ない」
「…玉藻前は宮廷料理をリアルタイムで食べてた妖怪ですよ?」
「俺の料理で満足しなかった神は居ないぜ?」
何処にそんな自信があるのか多いに気になるが、これは何を言っても無駄だろう。
溜め息を一つつき、
「何を作るんですか?」
「狐の大好きなアレしか無いだろ」
というわけでキッチンである。
今日使うのは木綿豆腐。
「これを薄く切って行くんだ」
「難しくないですか?」
「簡単」
短く答えると、和也はストトトト、と軽快なリズムを刻みながら切っていく。
「次に脱水なんだが…実はこの作業、脱水に二時間、水分吸収に一時間かかる」
「長っ!?」
「というわけで、こっちにちゃんと終わったのを用意してある」
「どういうことなの…」
突っ込んだら負けである。
次に130~140度の油で揚げ、全体が膨らんだら160度に温度を上げる。
こうしておかないと縮んでしまうのだ。
そして完成。
「和也さん」
「ん?」
「男の人ってさ、やっぱり料理できる人と付き合いたいって思うのかな?」
「難しい質問だな」
言いながら、和也は亜麗沙に油揚げを一口分渡す。
食べてみろ、という事らしい。
「そりゃ、人次第だよ。料理が出来ない女なんざ要らねえって奴も居るだろうし、俺みたいに自分で作れる奴は違うかな。どちらかというと、自分が作った料理を美味しい、美味しいって言って食べてくれたらそれで良いだろ」
「そっか」
パクリ、と油揚げを食べる。
「美味しい…」
「そいつは良かった」
和也は笑っていた。
「さあ、食わせるぞ」
「ホントに上手く行くの?」
「ああ」
言って、和也は真っ直ぐ殺生石に向かって行く。
そして、ある程度まで行くと足を止めた。
そして油揚げの入った容器を持ちながら、
「さて、これ以上俺が近付くとお前の毒で油揚げが死滅する訳だが」
「ふぎゃーーーーーーーー!!!!」
(…釣れたー!?)
出て来たのは絶世の美女だった。
そして胸がデカイのであった。
そして狐の尻尾が九本付いてるのであった。
そして全裸なのであった。
それにも驚いた亜麗沙だったが、
(ふぎゃーて)
「お手」
「はいな」
「何餌付けしてんの和也さーん!?」
面白いと思ったら是非評価を。