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冥府の女王の受難

性懲りも無くまたまた新シリーズ。

神話大好きな方は閲覧注意。

午前4時。

まだ普通の喫茶店ならモーニングの下準備も出来て無い様な時間に、からんからん、と来客を知らせるベルが鳴る。

「いらっしゃい」

しかし、そんな事にも店主、桐嶋和也は動じない。

水曜日のこの時間きっかりに、必ず彼女はやって来るからだ。

但し、例外はあるが。

「お久しぶり。三ヶ月ぶりかしら?」

「という事は?」

「そ、冥府に行ってたのよ」

ペルセポネ。

緑のワンピースの様な服に艶やかな黒髪がよく映える女性だ。本人もとても美人で、これならハデスが連れ去るのも分かるわ、という感じの美女、と言った所か。

冥府あっちはどうだった?」

「楽しくは無いわね。主にハデスとか、ハデスとか、ハデスとか。父上を見習って欲しいわ」

「…許してやれよ。ハデスはああ見えて超奥手の草食系男子なんだから、お前の親父と比べても…」

「…まあ、それはそうだけど…」

その後も世間話をしてると、そろそろパンが焼ける頃になった。

厨房に出向き、ロールパンの傍に簡単なジャム、バターを、つい2,3日前にへべが汲んで来てくれたネクタルを置き、完成。

ペルセポネの所まで運ぶと、彼女は渋い顔をした後、

「…このネクタル、腐って無いわよね?」

「2,3日前に汲んで来た奴だけど…変な匂いでもするか?」

グラスを拝借し、すこ匂いを嗅いでみる。が、別に普通だ。

「いや、そうじゃ無くて、アルテミスがこの前ネクタル飲んでお腹壊したって母上が言ってたから…」

「あれは完璧に自業自得だ。『年代物です!!』とか言ってたけど、あれ確か五万年位放置されてた奴だぞ」

「…あの娘なら飲みかねないわね。勿体無い精神が染み付いてる娘だし」

そこまで喋ると、ペルセポネは静かに食事を始めた。

ジャムを塗り、一口齧ると、

「…美味しい」

「新しいジャムだ。米の甘みが効いてるだろ?」

中々評判が良いなこのジャム、と和也は考える。

(量産も考えるか)

数秒後には忘れているであろう事を考えつきながら、和也は厨房に向かい、他のモーニングの下準備を始めた。









三十分程すると、ペルセポネが厨房に綺麗に完食した後の食器を持って来てくれた。

「そのままで良かったぞ?」

「久しぶりだから、日頃の感謝もこめて、ね」

「悪い気はしないな」

「冷たいのね」

そこまで言うと、彼女はおもむろに懐からあるものを取り出した。

「何だこれ?」

「お土産」

くるりと一回転したペルセポネは、そのまま扉に向かう。

「…良かったら、食べて、ね?」

少し顔が赤かった…のだろうか。朝焼けでよく見えなかった。

そんな事を考えながら、和也はお土産…ザクロを頬張った。







「…やった」

ペルセポネは少し顔を赤くしたまま、家路へと急いでいた。

(あのザクロは、冥府の物)

ザクロを四分の一食べたせいで、自分は冥府に三ヶ月囚われる事になってしまった。

しかし、こんな風に恋い焦がれる相手と出会えたのだから、それはそれで悪くは無かった、と今なら思う。

これで一口でも食べてくれたら、彼は自分と一緒に冥府に行ってくれる。

そう考えると、今までのハデスの求婚さえも、この日の為のお膳立てにしか見えない物だから不思議だ。

心無しか、彼女の足取りは軽かった。

しかし、彼女は知らない。

彼は不死身に近い身体であり、そういった呪いの類は一切効かない事。

そして、超長寿命であり、神への食事を作れるという特異な体質と技術を持つ彼は、様々な神に好かれており、その気になれば天界だろうが冥府だろうが天国だろうが地獄だろうが、そこの神に頼めば行ける事。

恋は盲目、とはよく言った物だ。


それを知ったペルセポネが、今度はゼウスに和也との仲を取り持ってくれる様に頼むのだが、それはまた別の話。

面白いと思ったら是非評価を。

批判でも良いよ

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