いざ、ダンジョンの外へ!
諸事情でクリカラの名前を変更いたしました。突然の変更申し訳ございません。
普段であれば長閑な田園地帯が広がり、近場にある森から鳥の鳴き声が聞こえてくるであろう田舎の村は、阿鼻叫喚の断末魔と悲鳴で満たされていた。
その村は今、異形の攻勢を受けていた。
典型的なスケルトンの魔物が老人を殺し、スライムが子供を攫い、炎の魔物が家々を焼く。
「カチカチカチ、カチッ」
その中でも、人気は異彩を放つスケルトンがいた。
他のスケルトンが盾と剣しか持たないのに対して、それは簡素ではあるが服と鎧を纏い、剣も他のものに比べ幾分か良質なものを装備していた。
「カチ、カチ、カチ」
歯の噛み合う音を響かせながら、それは村を周回し続けていた。
「カチカチカチ?」
何かに気づいたのか、周囲を見渡し始めたそれは、いつの間にか喧騒が止み、周囲には死体と燃える家々があるだけで、女子供も、異形たちの姿もすでになかった。
全てが終わった事を知り、引き揚げようとするそれは、突如鎧から突き出てきた、一振りの刀によって、崩れ落ち、魔石へと変わった。
それを殺したのは、ナズナであった。
ナズナは刀を鞘に収めると、背負っていた風呂敷から、骨のような物を取り出し、残された鎧などの傍へと置いた。
余談だが、実は魔物は魔石だけを残して消滅するのではなく、極まれにだが、体の一部を残す事もあり、ドロップアイテムと呼ばれている。ナズナが置いたのは、骨系の魔物が残す、”魔物の骨”と呼ばれるものである。
「よし、これで偽装は終わりましたね、これであの冒険者が魔物化したと勘違いしてくれればいいのですが」
そう、あのスケルトンが纏っていたのは、チナ達に殺された冒険者の装備であり、この襲撃は、クリカラ達がダンジョンの魔物やモンスターを使って行ったことである。
仕事が終わり、満足げに頷いた後、彼女は燃え盛る家々を覗き、金目の物が残っていないかを確認した後に、ダンジョンへと帰っていった。
『かんぱ~い!!』
村への襲撃が大成功に終わり、奪った金品や女子供をギルドの仲介で売り払い、まとまった収入が得られた事で、テイロン達は、ささやかな祝杯を挙げていた。
売り上げで買った、お酒や料理を食べながら、彼等は今後の展開を話し合っていた。
「これで討伐隊辺りが出てくればいいんだがな」
「そうですね~、多分義憤にあふれた冒険者が少数しかこないでしょうけど」
「村を潰したのにか?」
「知らないんですか? このチャリア国は周囲の少数部族を力ずく従えた挙句、同化政策とか言って弾圧かますは、エルフ森林領の一部を自分達の土地だとか言って侵攻して勝手に伐採したり、海上の島で資源が出たと聞けばそこも元々は自分達の土地だとか言い出したりしてて、そっちに軍の人手が振り分けられてて余裕が無いですし、そんなことしてるから光族からも嫌われてるんですよ、だからこの国出身の冒険者ぐらいしか来ませんよ」
「そうなのか?」
「うちやお隣も光や闇の括りなく同盟組んでお互いの領地守る必要があるくらいには、お隣の大八島群を領地としてる神州皇国だと大陸に近い厳樹諸島を「元々は自分達の物で貴様等が勝手に強奪したんだ!」って言いがかり付けられて一回上陸されかけましたし、まぁ近くを哨戒中だったうちの帝国遣神艦隊が潰しましたが」
「エルフ森林領もそういえばそんな話があったな」
「あっちはプライドの塊みたいなエルフが、魔族化して袂を分かったダークエルフに頭を下げて、父祖の地を守るのに協力してくれと泣き付く異例の事態に発展しましたからね」
「・・・・・・光族の条約の所為で戦争が出来ないせいか」
「いえ、その条約からチャリアは叩き出されてますから、実際に鬼ヶ島帝国と神州皇国、それにエルフ森林領と戦争状態ですし」
「じゃあ何でエルフは?」
「森林領が広大なのでエルフ族や領内の光族だけじゃ守りきれないんですよ」
「大本を潰せばいいではないか」
「それはなんというか、ぶっちゃけ闇族が矢面に立ってるのは皆殺しにしようが奴隷にして売り払おうが不平不満をとりあう必要がないからですね」
ナズナはここまで説明した後にうんざりしたような顔をしながら。
「一回怒った神州皇国が逆撃に出たことがあるんですよ、でもね~その時制圧された村の連中がなんていったか知ってますか?」
「しらんな」
「「我々の土地に行き成り侵略するとは何事だ!恥を知れ恥を!」だそうですよ?」
「頭可笑しいだろ、明らかに先に仕掛けた恥知らずはお前等だろ」
さすがにありえない話に、テイロンも冷や汗を流すしかなかった。
「しかも生きていく為に必要なものをよこせとか言って、可笑しな量の物資を請求したとか、・・・・・・だからもう皆殺しにしてしまえってことで魔族がダンジョン作ったりしながら国潰しに掛かってるんですよ、闇族がどれだけ殺そうが奴隷にしようが文句言われたって知った事かですし」
「ここがダンジョン奨励地帯だったのはそういう訳だったのか」
ここにダンジョンを作ることを決めた時、異常に安い登録料だったのを思い出し、クリカラはため息を吐いた。
「ええ、しかもここは天然の要害で資源も余り無いので重要地でないというのも理由でしょうが」
ナズナは手に持っていた杯の残りを飲み干すと一息ついてから。
「ですので討伐軍が出てくるくらいにするには、地道に村などを潰しながらダンジョン領域を拡大していくのが一番かと、さすがに山一つダンジョン化して麓まで侵食が進めば出てくるでしょうし」
「時間がとんでもなくかかるな」
掛かる時間と、費やされる魔力を考え、テイロンは、深いため息をついた。
「まぁ今は纏まった報酬が得られたのと、まともな軍勢が出来た事を喜びましょう、このお酒やアグアの魔牛の舌、おいしいですよ?」
「そうだな、今は楽しむか!」
その後、彼等の談笑が最下層に響きながら、その日の夜は更けていった。
本当はチャリアは条約を叩き出されておらずエルフ森林領も密約で手を貸してることにするはずだったんですけど、どうしてこうなった?