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Nightmare Knight  作者: tillé.o.fish
第三章 The conditions for living.(生きるための条件)
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IX

 早朝の冷たい空気の中、ベンは、ローデンハイムの城下町を歩いていた。

 この通りは、昼は市場、夜は酒場として常に賑わっているのだが、この時間だけは静かだ。

 男が路地で、酒瓶を片手に心地よい夢を見ている――。それから、やたら露出度の高い女とすれ違った――。

 ベンは、目的地である城下町の門前で、二人の衛兵に声を掛けた。

「お疲れ様、交代の時間です」

 それを合図に、それまで彫刻のように立っていた二人の衛兵が、大きく息を吐き出し、背筋を伸ばしたりして、硬くなった体の筋肉をほぐし始めた。

「異常はないか」

 ベンの隣で、彼の相方――フランクが言った。彼はベンより二十ほど上で、いかにもベテランといった雰囲気を持っている。

「ないさ、つーか戦争もねぇこのご時世に異常なんてあるわけないだろ」

「そうそう、異常があったのなら、飛んで喜びますよ」

 二人の衛兵は、自分達の言ったことで笑った。

「それじゃあ、後はよろしく頼むぜ」

 彼らはそう告げると、さっさと宿舎の方へ去って行く。

 ――その背中を眺めながら、ベンは肩をすくめて言った。

「まったく、夜勤組は気楽でいいですね。何もせずただ突っ立ってるだけで」

「そう言うなベン、何もせずに立つだけというのも、案外大変なものだぞ」

「そうなのですか?」

「そういうものだ」

 ふぅんと、ベンは軽く鼻を鳴らして、フランクといつもの立ち位置に着いた。

 それからしばらく、ローデンハイムの風景に溶け込んでいたベンが、ふと大きなあくびをする。

「確かに、そういうものですね」

 日中は行商人や外交官など、人の出入りが多くなるのだが、それまでは後数時間とある。

 それまで、いつもの見慣れた風景をぼんやりと眺めるだけだ。

「――退屈ですね」

「……そういうな」

 フランクの声には、分かっていても、口で言うと虚しくなるだろうという意味を含んでいた。

「――仰る通り、夜の間ずっとこのような状態だと、夜勤に同情したくもなります。少しくらいは異常があって良いかもしれません」

「少しくらいとは、どの程度だ」

 フランクは、表情一つ変えずに聞き返す。

 どの程度と言われても困る。この場合、平和が一番と後輩を叱るためではなく、純粋にどの程度か知りたがっているのが正しい。

 先輩相手に、冗談ですよと軽く流すわけにもいかないので、適当に答えを探す。

「えーと、ゴブリンが一匹だけ、ノコノコ現れるとか……」

「それなら、二匹がいい。私とお前で、一匹ずつだ」

 フランクは本気で言っているのか、冗談のつもりなのか。

 それを確かめる前に、二人は、前方の異常に気がついた。

 門前から伸びる林道。――馬が一頭、乾いた土を蹴り上げて、こちらへ向かってくる。

「噂をすればなんとやら、退屈せずにすみそうですね」

 自然と笑みが込み上げる。

「ベン、あれが見えるか」

 フランクが馬の背中を指差す。――青年が、馬の首に体重を預けるように、力なく倒れているのが見えた。

「賊にでも襲われたのでしょうか」

「それは、彼が生きていたら分かる話だ」

 青年は、こちらまで、残り五十メートルのところでずり落ちた。

 馬はそれに気づかず、走るのを止めない。

「あちゃー、大丈夫ですかね。彼……」

「分からん。――では、私は馬の面倒を見るから、お前は彼を頼む。生きていれば、兵舎に連れて行って介抱してやれ」

 ベンはそれを聞いて、けだるそうに答えた。

「了解」

 いつの時代も、力仕事は若者の役割と決まっているのだ。

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