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Nightmare Knight  作者: tillé.o.fish
第二章 The red cap of a shiver.(戦慄のレッドキャップ)
7/41

VII

「ねぇアニキ、ところでアニキは、どこへ向かってるんでやス?」

 暗闇を背景に、淡い光に照らされたチゲが言った。

「この先にある小屋さ」

 フェルディックが言いながら、軽くチゲに視線を流す。

 ――右手には、リコの石が握られていた。

 妖精と出会った後、辺りはもうすっかり闇一色に染まり――そのなかを、フェルディックはまあるい光に包まれ、歩いていた。

「ヘー、この先の小屋でやスかー」

 先ほどから、チゲが能天気な声で喋るので、“闇夜の森”という恐怖と緊張感は感じられなかった。

「……ウーン? ――この先の小屋?」

 チゲは続けて、何か引っかかるような物言いで小さく呟いたが、声が小さすぎるので気にしないことにした。

「――あっ!」

 突然、フェルディックは声を上げて立ち止まった。

 小屋で待つ、マントンの顔が脳裏に浮かぶ――。帰ることばかり気にして、すっかり忘れていた。

 ――コレを見たら驚くだろうな……。

 マントンがチゲを見たときの反応を想像してみる。

 ギャーっと叫んで逃げたり、おのれ悪魔めとチゲに剣を構えたり、あげくの果てには、悪魔の手先めチェストーッ! とフェルディックに切りかかるなど、全然良いイメージが浮かばない。

 ……やっぱり、隠し通そう……。

 フェルディックは視線を落として、服のどこかにチゲが隠せないかと、探してみる。

 ズボンのポケットくらいか――。

 ちらっと、チゲを横目に見る。爬虫類のような、冷たくて、ざらざらしてそうな肌――。

「ううぅっ!」

 ポケットに入れたときの感触を想像すると、寒気がした。

「どうしたんでやス、アニキィ?」

「ああいや、ちょっと……。気にしないでくれ」

 チゲに怪しまれないよう、軽くごまかすようにして歩き出す。

「ふーん、アニキがそういうならベツにかまわないでやスけど……」

 マントンに限らず、チゲを人に見せるのは止めたほうがいい。

 ここは我慢するしかないか……。

 ふぅっと、溜め息が漏れた。

「アッ! アニキ、アレ!」

 何かに気づいたチゲが、暗闇の先を指差した。

 フェルディックはチゲの指差す方へと視線を向ける。

 暗闇の先には、わずかな月明かりが――うっすらと見覚えのある小屋のシルエットから、明かりが漏れていた。

「あっ……あれだ! やっと帰ってこれた……」

 フェルディックは、長い旅を終えてようやく家に帰ってきた時のような気分になり、気が抜けた。

 帰ったらマントンにうるさく言われるだろうけど、今はそんなことどうだっていい。

「アッ……アッ……」

 安堵の表情を浮かべるフェルディックの横で、喉から搾り出すような声――。

 ふと視線を向けると、チゲはドルイドの小屋を指差したまま、カタカタと震えていた。

「どうかした?」

「……アッ……アニキ……アニキの向かってる小屋って――」

「ドルイドの小屋だけど?」

「――イッ!?」

 チゲの目がカッ! と見開いた。

「ア、アニキ! あそこには近づいちゃダメでやス!」

「……どうして?」

 フェルディックは首を傾げる。

「知らないんでやスか!?」

「……何を?」

 フェルディックはさらに首を捻った。

「あ……あそこには、レッドキャップって恐ろしい化け物が棲んでいるんでやスよ! これまで何人もの旅人を惨殺してきた恐ろしいヤツなんでやス! イッたら絶対に殺されるでやスよ!」

「うーん……そんなふうには見えなかったけどなぁ……」

 誰も居ない寂れた小屋くらいにしか思えないけど――。

「いいでやスか!? ヤツは夜に現れるんでやス!」

 いまいちピンとこないフェルディックに、チゲは人差し指をビシィッ! と立て、続けた。

「ヤツは昼間、小屋の近くを通り過ぎる旅人を見張っているんでやス。そして、その小屋で一夜明かそうとする旅人がいようものなら……」

「……いようものなら?」

「その巨大な斧で一人残らず惨殺し、後でゆっくりと……死んだニンゲンの血で帽子を赤に染め直すんでやス……! その恐ろしい習性と、どんなに遠くからみてもすぐにそれとわかる真っ赤な帽子から、ついた名前がレッドキャップ! さらに噂によると、燃えるような赤い眼をしているらしいでやス!」

 チゲは警告するように、声を張り上げて説明した。

「そんなまさか――」

 フェルディックは肩をすくめる。

 血に染まった赤い帽子と、燃えるような赤い眼だって? そんな化け物いるわけ……。

「――っ!?」

 瞬間、フェルディックの背筋を強烈な悪寒が突き抜けた。

 同時に、昼間――馬車の中から見たあの“赤い何か”が、脳内で鮮明に蘇る。

 ……まさか……?

「ア、アニキィ……どうかしたでやスか?」

 一点を見たまま動かないフェルディックを、チゲが心配そうに見る。

「行くぞ――チゲ!」

 フェルディックは真剣な面持ちで、言った途端に走り出した。

「――イッ!? なんでそうなるんでやスか!?」

 チゲは驚きながらも、すぐにフェルディックを追いかけ、肩の辺りにピッタリとくっついて離れない。

「あそこには、僕の知っている人が三人もいるんだ! ――早く知らせないと!」

「そんなぁ……アニキィ、それは人が良すぎるでやスよぉ!」

 チゲの声はフェルディックに届かない。

 フェルディックは、迷いなく明かりの方へと走る。

 どうか、たどり着くまで無事でいてくれ――。

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