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Nightmare Knight  作者: tillé.o.fish
第六章 An empty knight.(空っぽの騎士)
24/41

XXIV

 その日の夜。

 宿から一人抜け出したフェルディックは、丘の斜面で仰向けに寝そべっていた。

 夜空に輝く月を、ぼうっと眺める。

 ――もうすぐ、満月かな。

 フェルディックは、「ふぅ」と溜め息をついた。

「どうしたでやスか? アニキィ」

 もぞもぞと胸ポケットからチゲが顔を現した。

 フェルディックは、さっとチゲから顔を背ける。

 うぅ。近くで見ると、やっぱ気持ち悪いなぁ……。

 フェルディックは、一息ついて、また夜空を見上げる。

「考えごとだよ」

「……?」

 言葉の意味がわからないのか、チゲは目を丸くして指をくわえたまま、黙っている。

「アザレアさんも……オスカーも……。二人ともすごいや。それにくらべて僕は……、いざ戦いとなると、まるで役に立たなかった。みんな、僕のためにしてくれているのに」

 ただよう雲が、月と重なった。

「……って、お前に言ってもしかたないか」

 フェルディックは上半身を起こして、両手を斜面について座った。

 胸ポケットから落ちそうになったチゲが、慌てて飛び出し、翼をはためかせる。

 僕にできることって、なにもないのかな――。

 ぼんやりと景色を眺めていると、チゲが「ハッハァーン」と、ひらめいた口調で言う。

「もしやアニキは、チカラが欲しいと、そう思っているでやスねェ?」

「……」

 どうしてだろう。コイツに言われるとすごくイラッとするのは。

「フッフッフ。こう見えてもあっしは悪魔の端くれ、邪悪なチカラを求めるニンゲンを、その道に引きずり込むのも悪魔の使命。さあ、アニキもいざ闇のチカラをその手に――」

「いらないよ」

 フェルディックはあっさりと断った。

「イッ!」

 チゲが目をカッと見開く。

「さ、さすがはアニキ……。そうカンタンには悪魔のさそいにのらないでやスか……」

 力のない声でそう言うと、チゲは、へなへなと地面に落ちてゆく。

「べつに、力がいらないってことじゃない」

 遠い目で景色を眺めるフェルディックに、何かを感じたチゲが、再び浮上する。

「僕だって強くなりたいさ。けど、他になにか役に立てることはないかって……。そう考えていただけだよ」

 それを聞いたチゲが、「ほぅほぅ」と、納得したように頷く。

「役に立つことでやスか。……それならカンタンでやスよ! アニキがビシッとバシッと、この町の連中を困らしてる悪党をとっ捕まえればいいんでやス!」

 まるで全てを解決したかのようなチゲの笑顔に、フェルディックはあきれて息を吐き出す。

「お前……、簡単に言うなぁ……」

フェルディックは、顔を上げて夜空を眺める。その傍らで、チゲがぱたぱたと翼をはためかせる。

「……ぷっ」

 突然、フェルディックは吹き出した。

「ははは……あはははは……!」

 お腹を抱えて、笑い声を抑えようとするフェルディックに驚いたチゲが、大きく目を見開いた。

「オォォ! ついにアニキが闇のチカラに目覚めたでやス!」

「違うよ。どうしてお前にこんなこと話してるんだって思ったら、急にバカらしくなっただけだよ」

 笑いながらフェルディックは、うっすらと目に浮かぶ涙を指でぬぐった。

「そ、そんナァ! アニキ……しどイ……。あっしは、あっしは……アニキのためを思っテ……グスッ!」

 背を向けたチゲから、ズルズルと鼻をすする音が聞こえる。

「わ、わかったよ。言いすぎた。だから、なにも泣くことはないだろ?」

 フェルディックは、こめかみに汗をかきながら、チゲをなだめる。

 振り返ったチゲが、フェルディックの顔に飛びついた。

「ウヒョー! アニキィ、アニキィ!」

 チゲが嬉しそうに、フェルディックに甘えてくる。

「うわっ、気持ち悪っ! こら、やめろって!」

 フェルディックは、チゲを捕まえようとする。だが、チゲがひょこひょこと素早く移動するので、中々捕まえられない。

 顔、肩、腹と、フェルディックの手を避けるチゲを、股間に移動したところで、ようやく捕まえた。

「ほら、帰るぞ」

 フェルディックは立ち上がり、チゲをひょいと後ろに投げ捨て、歩き出す。

「ア! チョット待ッテ! アニキィ!」

 浮上したチゲが、慌てて追いかける。

 ――と、その時だった。

「ヨォ、ヤッパリ、チゲじゃネェか」

 突然の声に、二人は振り返る。

 だが、辺りには誰もいない。

「まったく、テメェはどこまでマヌケなんだ。……上ダ、上!」

 声に従って、二人は夜空を見上げた。

「オ、オオ……オマエはァァ……!」

 驚いて目を見開くチゲの声は、震えていた。

「オマエは……、アムでやスか!」

 そう言い放ったチゲの視線の先――。

 月を背景に空中で羽ばたいていたのは、チゲと同じ、インプであった。

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