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Nightmare Knight  作者: tillé.o.fish
第四章 Resumption and encounter.(再会と出会い)
15/41

XV

 部屋に入ったフェディックを出迎えたのは、ゲイルの鋭い視線だった。

 ゲイルは、机に両肘をつき、両手を口元で組みながら、神妙な面持ちをしていた。

 静かながらも、堂々とした彼のその威圧感に、フェルディックは思わず身を強張らせる。

 ゲイルの隣には、若い――フェルディックよりは少し年上だと思われる――青年が立っていた。

 ゲイルは、硬直したまま動かないフェルディックを見かねてか、軽く含み笑いをしてから、言った。

「そう構えることはない。楽にしたまえ」

 低く、重みのある声だった。

 だけど、それだけじゃない。

 その声のなかには、彼が間違いなく騎士団長だと思わせる――優しさや、心の温かさのようなものも、確かに感じられた。

 ゲイルは、先ほどまでの姿勢を崩して、フェルディックに微笑んでみせた。

 そのせいか、先ほどまでのフェルディックの緊張は、自然と和らいでいた。

「――あの、先ほどはありがとうございました」

 深々と頭を垂れるフェルディックに、ゲイルが答える。

「なに、礼には及ばんよ。君のことは、君の母上からよろしく頼ま

れているからね」

 ゲイルの言葉をきっかけに、フェルディックは思い出した。

 そういえば……ゲイルは国王の前で宣言していたのだった。

 推薦したのは私だ、と……。

「その……推薦状を出して頂いたのは、あなただったのですね」

「そうだ。ヤツの息子のことだから、いつかとは思っていたが……。

まさか自ら志願してくるとはね。君の母上から手紙を受け取ったと

きは、さすがに驚いたよ」

 ゲイルが、柔らかな笑みをたたえる。

「そう……ですか……」

 ヤツの息子――。

 ゲイルのその言葉を、フェルディックは心中複雑な思いで受け止

めていた。

 おそらく、ゲイルは――この城の人達みんなは――偉大な騎士であった父の息子のことだから、父と同じく、さぞ勇敢ですごい人物なのだろうと、期待の眼差しで自分を見ているに違いない。

 そのことは、所見の間で、自分がクロウスターの息子だと宣言したときの、貴族達の反応で十分に理解していた。

 だからこそ、フェルディックには、それが不安でたまらなかった。

 これ以上――過度な期待を持たれたくなかった。

「ただ、正直に言うと僕は……父さんのような、立派な人になりたいと思っているわけではありません」

 胸の内の不安を抑えきれないフェルディックは、思わずそれを声に出してしまっていた。

 ゲイルは、「ほう……」と、声を漏らし、興味深いといった視線で、フェルディックを見据えた。

「騎士団に志願したのは……、今の生活を少しでも楽にしたかったからです。それに……、生まれてから一度も見たことがない父のことを言われても、なんだか……実感がなくて……」

「では、君は父の背中を追ってではなく、母上のために志願したと?」

 ゲイルは、真剣な眼差しでフェルディックを見据える。

 それに負い目を感じたフェルディックは、顔を伏せて、答えた。

「……はい」

 それを聞いたゲイルは、咽喉を鳴らしながら頷く。

 僕は、この人を失望させてしまっただろうか……。

 二人の間を、気まずい空気が漂う……。

 沈黙を破ったのは、ゲイルだった。

 彼は、再びフェルディックを見据えると――。

「騎士団は……それほど甘くはないぞ?」

 淡々と、低い声で告げた。

 フェルディックは、奥歯を噛みしめ、ぐっと堪える。

 いかに父が偉大な人物であろうとも、今の自分にとっては、これが本心なのだ。

 ゲイルの期待を裏切ったかもしれない。

 だが、ここで誤解を解いておかなければ、あとになってもっと後悔するだろうと思った。

「……だが、誰かのためにその身を投じるのも――また騎士道というもの……」

 ふっ――と、ゲイルが微笑んだ。

「父のようになりたいと、背中を追いかけるようではむしろ駄目だ。私は君の意思を尊重するよ」

 そう告げたゲイルの口調は、とても優しいものだった。

「あ……ありがとうございます!」

 フェルディックは、深々と頭を下げる。

 自分の本心を、そっくりそのままゲイルが受け入れてくれた。

 それが、嬉しかった。

 無意識のうちに頬が緩んでいる自分に気がついた。

「では、改めて自己紹介をしよう」

 それまで椅子に腰を下ろしていたゲイルが、立ち上がる。

「私の名はゲイル・ブリュンハルド――知っての通り、この城で騎士団長を務めている」

 ゲイルが右手を差し出す。

 その意味に気づいたフェルディックも、右手を差し出し――二人は握手を交わした。

「それから――」

 ゲイルは、彼の脇に立っている青年を、ちらりと横目で見る。

「これは私の息子で、名はオスカーという」

「オスカーと申します、以後お見知りおきを」

 オスカーは、軽く一礼だけで自己紹介を済ました。

 落ち着き払った声とは裏腹に、フェルディックを見据えるオスカーの視線は、鋭い――。

「あ、あの……、フェルディック・ブライアンです。こちらこそ……よろしくお願いします」

 フェルディックの口調は、ぎこちない。

「そんなにかしこまることはない。たしかに、年齢こそは君より少し上になるだろうが……。なに。気にするほどでもないさ。これから、仲良くしてやってほしい」

「は、はい……」

 はたして、仲良くなれるのだろうか?

 オスカーには、人を寄せ付けない雰囲気があった。まるで、人と関わるのを頑なに拒んでいるようだった。

 彼の装備している鎧よろしく、その心の鎧を突破して仲良くなるなどという自信は、とてもじゃないが、フェルディックには持てなかった。

 なによりも、彼の視線からは、自分に対する怒りの感情を感じて取れたからだ。

 そんな二人をよそに、ゲイルはふと背を向けると、窓の外に視線を落とし、独り言のように呟いた。

「さて、夜も長い……」

 ゲイルが、振り返る。

「まずは、事の経緯を詳しく話して貰おうか」

 そう言って、ゲイルは微笑んだ。

 ただ、これまでの“騎士団長”としてではなく、親しい友人を出迎える温かさが――、そこにはあった。

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