XIV
フェルディックは、城内を歩いていた。
その両脇で、肩を並べて歩くのは、ベンとフランクの二人だ。
所見の間での出来事が終わった後のこと。
フェルディックは、騎士団長の部屋に来るよう、ゲイルに呼び出されたのだ。
夜の闇も深くなり。松明の炎が廊下を照らしてはいたが、それだけでは少々心もとない。
いまは彼ら二人が手にしているランプのおかげで、暗闇の恐怖と戦わずに済んだ。
「しかし、まさかこんなことになるなんて……」
フェルディックと並んで歩く、ベンの声は低かった。
「君には、どう詫びればいいのやら……」
彼らは、まさか自分が極刑になるとは思いもしなかったのだろう。
話を広めて大きくしてしまったことに責任を感じているようだった。
「いえ、あなた達が気にするようなことではありませんから」
そう――。どちらにしても、自分はこうなる運命だったと思う。
だから、彼らがそれを気に病む必要は無い。
「ふむ……君は強いな」
フランクが含み笑いをした。
「――え?」
その言葉の意味が理解できず、フェルディックは思わず声を漏らしてしまった。
「普通なら、この状況で人の心配などできんよ」
「そう……ですか……?」
「そういうものだ」
うーん……そうなのかな……。
普通ならどうするのだろう――。そんなことを考えているうちに、ベンが目的地に到着したことを知らせた。
「さあ、ここが騎士団長の部屋だ」
二人に促されて、フェルディックは木製のドアの前に立つ。
廊下に並ぶドアの中でも、ひときわ目立つ両開きのドアだ。
フェルディックは、ゆっくりと呼吸を整える。
この扉の奥に、あの人が――。
ゲイルのことを思い出し、自然と胸が高鳴るのをフェルディックは感じていた。
目を瞑れば、あの――所見の間での出来事が、鮮明な映像となって蘇る。
――その時は、この話を提案した私めも騎士団長として責任を取り、彼と同じ死刑台に立ちましょう!
彼は、何故そうまでして自分を助けようとしたのだろう……。
あのゲイルという人には、聞きたいことが山ほどある。というか、聞かなければ前に進めない。
「ありがとうございます」
フェルディックは二人に礼を告げ、ドアノブに手を掛ける。
直後、ベンが慌ててそれを制止した。
「あ、ちょっと――」
「はい?」
フェルディックは首を傾げる。
「もし、何か私達にできることがあれば、遠慮なく言って欲しい」
ベンの気持ちは嬉しいが、これ以上甘えるわけにはいかない。
「ですが――」
「でなければ、私達の気が収まらんのでな」
断ろうとする前に、フランクが言った。
どうやら、自分が何と言おうとしたのか、見透かされていたよう
だ。
「ありがとうございます」
二度目の礼を告げるフェルディックの表情には、自然と笑みが浮かんでいた。
「それじゃあ」
「ああ、いつでも会いにきてくれ」
ベンが微笑む。
二人に見守られる中――フェルディックは手に掛けたドアノブを――今度は最後まできっちりと回した。