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林道で倒れているフェルディックのポケットから、チゲが、ズルズルと這いずり出た。
レッドキャップと出会って、気絶してから、ようやく目覚めたのだ。
そのまま、ちょうどフェルディックの股間の上まで這ってから、立ち上がる。
――ここは、どこでやスか。
キョロキョロと視線をを動かす。一体、何がどうなっているのだろうか。
考えていると、道の先で立ちはだかる、妙な威圧感に気がついた。
視線を上げると――そこには雲と同じくらいの高さの城壁が、堂々と、まるで山脈のように左右に広がっていた。
「ナ……ナンジャコリャーッ!?」
チゲは驚きの余り、歯茎をむき出しにして叫んだ。
目の前の巨大な建造物にも驚いたが、何故自分がこんなところにいるのか、わけが分からない。
しばらく放心状態で、そのまま硬直していた。
「――ハッ!?」
アニキ――アニキはどこでやスか!?
フェルディックの姿を探して、今度は空中に飛んでから、視線をキョロキョロと動かす。
しかし、辺りに彼の姿は見当たらない。
ガックリと肩から息を落とす。――と、視界の隅に何かを見つけた。
「ア……アニキ! 大丈夫でやスか!?」
チゲは半ば条件反射のように叫ぶと、フェルディックの顔に飛びついた。彼は意識を失っているのか、ピクリとも動かない。
「ア、アニキ! 大丈夫でやスか!?」
言いながらチゲは、フェルディックの頬を、こねるようにぐいぐいと、何度も押した。
「マ、マサカ……あっしを置いて先にイッちまったんじゃ……」
そんなはずない。アニキが、そう簡単に死ぬはず――あるわけない!
「おーい、大丈夫かー!」
突然、遠くから声が聞こえて、チゲの思考は中断する。城壁の方から――男が一人、歩いてくる。
「ゲッ! ニンゲンでやス!」
チゲは声を上げて、咄嗟に上空へと飛び上がった。悪魔は人間に嫌われているから、見つかると切り殺されてしまう。
男がフェルディックを担いで、城壁の方へと戻って行く。それを、チゲはただ見つめていることしかできなかった。
――アニキィ……ついてイクって決めたばかりなのに……。
もう二度と会えなくなると思うと、胸が締め付けられて、切なくなって、なんだか熱いものが込み上げてくる。
――イヤ、こんなんじゃダメでやス! あっしは――アニキについてイクんでやスからっ!
チゲは決意したように頷くと、フェルディックを追って、城下町へと翼を動かした。