胸にガツンと(キャラ紹介6)
「ココナが着いていながら何でこんなのを選ばせたの!」
ビタミンカステラ先輩がポニテ先輩に怒られている。
「だってなあ……これがいいって聞かないから……」
「すみません、胸にガツンと来たんです、すみません」
必死に弁解する果々子。
四月二十九日、月曜日、昭和の日。
有志の『裏カレー大会』開催の日。場所は寮の前庭のピクニックベンチ。
しかし調理をする為に集まった一同は、果々子の持っている『それ』に、何とも言えない顔を見合わせて、大きな息を吐いている。
昨日、ビタミンカステラ先輩に連れられて訪れた都会の山用品店で、果々子はとりどりの携帯コンロに目を惑わされた。
「色々あり過ぎて迷ってしまいます」
「今日は下見だけでいいんじゃない? パンフ貰って帰ってゆっくり検討すればいいよ」
先輩はガスカートリッジと糧食を買い、それで店を出たのだが、通りすがりの珈琲店のウインドウで、果々子の目が釘付けになった。
「ビタミ……南原先輩、あれ何ですか」
そこには渋い色合いのディスプレイで、アンティーク調のランプやミル等が並べられていたのだが……
「ああ、まぁあれも携帯ストーヴの一種だけれど……」
「わたし、あれがいいです!!」
「いや待って、あれは多分売り物じゃないって……ちょっと、遠山さん!」
先輩を置いて、果々子はズンズンと店に入ってしまった。普段小心者な癖に思い込んだら猪突猛進は、忘れた頃に発動する。
「売り物じゃないしなあ……」
カウンターのマスターに同じ事を言われている果々子に、先輩はやっと追い付いた。
「遠山さん、あれならさっき秀缶壮にあったでしょ?」
「本当ですか? ありましたか、あんな素敵な、美しい色のコンロ」
「ああ」
壮年の、よく雪焼けのしたマスターがニコッと微笑んだ。
「あれは育てる物だから」
そうして、店の二階に上がってクッキー缶みたいなのを持って下りて来て、果々子たちの目の前で展示品より少し小さい『それ』を組み立ててくれた。
「昔、大中小で揃えたんだけれど、中だけ使い処が無かったんだよね」
「これは育てるコンロなんですって。だから私もこれから育てるんです!」
通りすがりの珈琲店のマスターに格安で譲って貰ったという新古の『マナスル121』を前に、元気に言い切る果々子。
先輩たちは呆れて脱力しながら、ピカピカ光る真鍮を眺める。
この金ぴかを、あの珈琲店のウインドウにあった奴みたいに深みのある飴色に育てるんだ!
胸踊らせる果々子の頭からは、この灯油コンロが笑っちゃうほど人を選ぶ事や、きめ細かな点火手順を誤るとエラい目に遭う事など、親切なマスターがレクチャーしてくれた教示は吹っ飛んでいる。
確かに美しいフォルムのコンロなのだ。誰だって一度は目に止める。だけれど、憧れと実用を天秤にかけて多くの者は首を振る。
(この子、顔だけのダメンズに引っ掛かる素質アリアリだわ……)
先輩たちは心ひそかに心配した。




