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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第三章《fly me to the sky blue sky》
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幕間『舞台裏の暗躍』

     ♰


「……ちょっとちょっと、さすがにそろそろ止めないとまずいでしょ、これ……」


 式典会場。

 その教師席で、新米教師のキャロラインはひとり、焦りを覚えていた。

 それは会場の地下で構築されているとんでもない術式に対してでもあるし。

 同時に。


「待ちなさい、キャロライン先生」


 事態の収拾に全く乗り出すつもりのない同僚たちに対してでもあった。


「レイヴン先生⁉ 何言ってるんです、取り返しがつかないことになるかもしれないんですよ!」


「人生、すべてが取り返しのつかないことでしょう」


「いや、そういう哲学的な話じゃなくて! 生徒を守るのは教師の役目でしょ⁉」


「……いいから座れと言っている。教師が生徒の成長機会を奪うなど言語道断」


「じゃ、じゃあ何かあったとき……レイヴン先生は、その責任を取れると?」


「責任は私が取ると言うだけで引き下がるなら、当然そう答えよう。大体、今回の『出番』を任せた生徒が会場に何人いると? 大人が先に痺れを切らしてどうする」


 キャロラインは自分が全く間違っていないことを確信しながらも、言い負かされてしまった悔しさに歯噛みする。そしてその怒りを、やたら立派な理想論に向けた。


『――先日、一人の生徒がこの学院を去りました。

 多くの人の幸せ願い、人類の繁栄に多大な貢献を果たし、そして何の見返りも求めず、その身を使命に費やすことを選択したのです。

 そこにあったのは――祈りです。

 この小さな箱庭で必死に生きている命の道行きが、幸福であるようにと。

 そしてその終わりを優しく抱擁するための、祝福でした』


「狙われているのが彼女なら……なんて空虚な演説。どこまで本気で言っているんでしょうね……」


「さあ――翼を広げてみろ、雛鳥」


 レイヴンはキャロラインなど眼中に入れず、そう呟いた。

 一方で式典会場の三階。南側通路の影。

 同じように静観の体勢を取っていた青年――ライナもまた、呟く。


「そろそろ潮時だよ、マリモちゃん。……さて、与えたヒントは役立つのかな」


 そして、地下水路に現れる新たな人影。

 彼女は暗闇に鳴らした紫色の右目で、舞台裏に潜む魔術師を見据えて、


「やあ、黒幕」


 気楽に挨拶をした。振り返る魔術師。空間には念のため偽装を加えていた。なぜ侵入者が現れたのか、そもそもなぜ自分の存在が知られたのか、理解が追い付かないまま口が動いた。


「――ッ、なぜボクの」


「居場所が分かったのか? うーん――『親愛なる光輝(ディア・シリウス)』だから」


「だ、だってボクは一度も」


「舞台に上がらなかったのに? そうだね。だからベルナデットさんは最終的に、今回の一件は委員会と協会の抗争に必要な火種作りではなく、ラルエット・マルシャン個人の復讐だと結論した。

 けど実際のところは、まあ半分正解で半分間違っているって言ったところだよね。つまり復讐と抗争の下準備、両方の軸があったわけだ。

 だから魔術で彼女たちの意識に介入し、私と仲のいいマリーを標的にし、君はラルエットの復讐を隠れ蓑にして、二つの組織の対立を煽るつもりだった」


「……ボクのことを忘れろっ!」


 すべてを看破された魔術師が動く。魔術式が展開され、魔力の波が彼女を襲う。

 しかし。


「んー、無理」


「なんで魔術が効かない⁉」


「そもそも精神干渉なんて立派な魔術じゃないでしょ、君の。先に暗示があって初めて成立するっていうか。君自身も、より大きな悪意の手駒っていうかさ。まあでも」


 そこからは一瞬だった。彼女は人並み外れた身体能力を以て魔術師に接近し、そして拳でノックアウト。小賢しいことに、魔術の特性上、操られている人形たちの意識を取り戻すことまではできなかったが、それも問題ないだろう。


「これで道は開けた。あとは――マリー」


 ――此方から彼方へと、風が吹く。

 虹色の粒子を、キリスキリエとマリモジュナだけに視える光を、載せた風が。

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