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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第三章《fly me to the sky blue sky》
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第56話『式典開始直前』

     ☆


 アプステラ魔術学院の敷地中心部に建てられた、高等部と中等部の校舎。

 その北側にはノーザンクロスの名を冠する湖があり、さらにそこから東――つまり校舎から北東にいったところに、その会場は存在する。


 普段は屋内ではできない授業や魔術の試験場として使われる、半円形の、古代劇場のような建造物――『テアトルム』。


 そこがアプステラの創立百周年を記念した催事、百年祭の幕開けとなる会場だ。

 要は天井のない体育場。あるいは仰々しい校庭といったところか。


 時刻は午前九時。式典が始まる会場に移動する生徒の集団から逸れ、設定した合流地点で待機する。

 そうして移動する生徒が見えなくなった頃。

 足音が二人分、近づいてきた。


 一人はハイネ・ヨハネス・ヒルデブラント。

 以前仄めかしていたように、今朝出した依頼に早急に対応してみせた、頼もしき中立の傭兵。

 そしてもう一人は、火花が焼き付いたようなバーミリオンの瞳が特徴的な。


「クロヴィス……? どうしてここに?」


 ハイネと並んでいる姿が不思議に見えて仕方がない隣人に、困惑の声が出る。


「どうしてって、マリモさんが依頼したんでしょ。学院内の人間で、実戦経験があって、相手を殺さずに済ませられる実力持ちの助っ人に来て欲しいって」


「え、ええ……ハイネにね……?」


 そう、ラルエットの会場襲撃を阻止するにあたって、さすがに怪我の一つや二つは覚悟したとしても、死者だけは絶対に出すわけにはいかない。


 よって今回、部外者である使用人の方々や、もしものときは一線を超えるというライナさんは言わずもがな、何より実戦経験のない魔術師の手を借りるわけにはいかなかった。


 喧嘩で出る死者の大半は力加減が分からない不慣れが原因だという。

 そして実践経験がないにもかかわらず魔術という人知を超えた力を扱う魔術師は、敵であれ味方であれ、その最悪が起きてしまう可能性が高い。

 つまり助っ人を求める場合、殺さないという自覚とその実力がある事が絶対条件。


 ゆえにハイネに相談し、依頼を受諾してもらったのだが……まさかクロヴィスが来るとは。

 まあでも……不思議ではない、か。

 実力については知らないのでさておくにしても、二人の間には私の持ち得ない、友情が存在しているように感じていた。

 まあ、クロヴィスとしては、一方的にハイネと犬猿の仲を気取っているようだけど。


「……仲良いわよね、二人って」


「はぁ? 滅多なこと言わないでくださいよ、マリモさん」


「……こいつには保険の保険で来てもらっただけだ」


「保険の保険ンン~?」


「実力はある。心配はいらない」


「……確かに、物騒な物は用意されているようだけど」


 クロヴィスの腰元に目をやる。

 そこには彼の魔導具パルマティアだと思われる、一振りの日本刀が提げられていた。

 同じようにハイネも騎士を思わせる西洋剣を携えていたが、クロヴィスの場合、注目するべきなのはその鞘……だろうか。


 なんだか魔術的ではないというか、むしろ機械的、科学的とさえ言える鞘。

 抜刀の際に左手を添える場所――鞘口の付近には、まるで拳銃の引き金のような物が取り付けられていて、さらには弾丸が込められていそうな弾倉までセットだ。


 何となく刀自体にも何か神秘的なものを感じるし、どちらかと言われたらまあ、頼もしくはある。


「けど、クロヴィスはいいの? 多分戦うことは避けられない。怪我する危険だって……」


「なーに、利害の一致ってヤツですよ。頼まれたから来たんじゃなくて、来たくて来たんで。そういう確認は結構です」


「そ、そう……。なら、よろしくお願いするわ」


 落ち着いた様子で言うクロヴィスに、これ以上の忠告は野暮だと悟る。


「改めて確認しよう」


 私が納得したのを察してか、ハイネがブリーフィングを始めた。


「相手の目的はベルナデット・M・ロードナイトが行う式典演説の妨害。動いているのはおそらく三人だ。

 会場の外周に沿うようにして地中で魔術式の外縁を作る植物使い。

 次に地下水路を使って式の内側を作る水使い。

 そして最後に着火役の爆破魔術使い。

 三人で一つの魔術式を構築することによって規模と威力の拡大を図っており、予想される被害規模は甚大だが、しかしその性質上、術者が一人でも欠けた時点で魔術は不成立となる。

 着火役をマリモが抑えるなら、オレがその保険で残りのどちらかを行動不能にすればそれで終わりだが、ダメ押しでクロヴィスを配置する。ここまではいいな?」


 私とクロヴィスは頷く。次は実際の動きについてだ。


「私は会場の中に入るわ。ラルエット――着火役の魔術は、目視で照準を定める必要がある。今の彼女の精神状態を鑑みれば、特別身を隠すことはしてないはずだから、見晴らしのいい場所に山を張れば会えると思う。

 次に植物使いは会場の外、この桜の群れのどこかにいるはず。これは……」


「俺が担当しますぜ」


「ありがとうクロヴィス、任せたわ。となるとハイネは水使いということになるけれど、相手はおそらく会場の地下水路、それも爆風と崩落の被害を受けない場所にいる――と言って、思い当たる場所はある?」


「問題ない」


「んじゃ、これで会議終了ですね。さっさと行きますか」


 本当に最低限のことだけを話し終えたところで、会議を切り上げるクロヴィス。

 ハイネも短く頷いて、もうすぐにでも動き出しそうな感じだ。


「なんだか……二人とも、慣れているのね?」


 あまりにもスムーズな移行に、驚いたというほど大げさではないけれど、意外そうに言う。

 すると返ってきたのは、何の気負いもない普段通りの声。


「学院じゃこんなの普通ですよ。むしろ何にもないほうが特別ってなもんです」


 ……何もないのが特別、か。

 それは、ええ。きっと至言ね。


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