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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第二章《to dress, un-dress and, re-dress》
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第41話『ラザリオ・ミラーの訪問』

     ☆


 その日の午後三時を過ぎた頃。お屋敷に新たなお客様が訪れた。


 ――ラザリオ・ミラー。

 このヘリオスレッタ中央都市において、あらゆる商業に強い影響力を持つ組織『ミラー商会』の現当主であり、そして私やベルナデット様と同じようにアプステラ魔術学院に通う青年。


 前当主であった父の死をきっかけに、大企業のトップという重責を背負わされながらも、むしろ周囲の大人や世間を振り回し続けた放蕩息子――なんて、知った風な形容をしてみるけれど。


 私と彼は特に親しいわけでも、そのパーソナルに詳しいわけでもない。

 ……ごく一部を除いて。


 彼にまつわる知識といえばせいぜいが、ミラー商会とは生前の世界で例えると某密林のようなモノ――あくまでイメージ――であることと。

 彼が父親の敷いたレールから外れようとして、あらゆる強権を自暴自棄に振り回していたことぐらいで。


 ――誘拐犯と人質。

 そんな物騒なところからスタートした関係ではあるが、それさえ解消されてしまえば、私の中ではちょっとした顔見知りぐらいの距離感であった。

 面と向かって話をしたのだって、実際のところ小一時間程度なものだし。


 顔を合わせれば挨拶ぐらいはするが、わざわざお互いの近況を追ったりはしない程度というか。そもそも深まるほどの親交もないというか。


 とはいえ、こうしてベルナデット様のお屋敷で再会することになったのも何かの縁だ。美味しい紅茶ぐらいは、きちんと淹れてみせたい。


 そんな思いで私は、ベルナデット様のビジネスパートナーとして共に出席されているラフィーネさんの代わりに、人数分の紅茶の用意をこなす。


 ちなみに、同じくビジネスパートナーであるはずのジュリエッタ先輩は、何でも広報が領分とのことで参加していない。


 元々今回お屋敷を訪れたのも、次に売り出すらしいジュエリーアクセサリーの宣材写真を、映画のセットみたいなこのお屋敷で撮影するためなのだとかで、今はジスティさんをモデルに絶賛撮影中だ。


 まあ実際のところ、ベルナデット様が姉妹間の軋轢に対して気を回した部分もあるのだろうけど……と、応接間の扉の前に立ちながら、野暮な推察をしてみる。


「…………」


 一仕事終えたはずの私が、なぜ階下に戻らずここで待機しているかというと、実は先ほどラフィーネさんにそういった指示をされたからである。


 会議が始まってまだ数分だが、元よりそう長い話ではないのだろう。

 さくっと用事を済ませたラザリオを速やかにお見送りするべく、その場での待機を命じられたわけだ。


 紅茶の用意が終わると、すぐにラザリオから資料の受け渡しが行われた。

 差し出されたそれに、素早く目を通すベルナデット様とラフィーネさん。

 それからラザリオは口頭で、素人の私には難解な説明を一通り繰り広げて……そして。


「……このプロジェクトが商会の信用を立て直すために重要であることは認めましょう。その通りです。この不祥、ラザリオ・ミラーが自ら失墜させたモノを取り返すための大仕事なのです。

 ですが、だからこそこの案件、先代があなたと進めていた当時のプロジェクトよりも多くの利益をもたらすよう、最大限の考慮をして――」


「無論、正しく理解しているつもりだ。ゆえにこちらも慎重に検討させてもらう。何かあれば矢面に立つのは私だ。必要があれば頭を下げる覚悟はしている。

 しかしアネモネ氏のときのような、後ろから刺されるような事態は話が別だ。あのような真似はご勘弁願いたい」


「…………」


 ……息を呑む。

 面と向かって釘を刺されたラザリオも、それを傍から聴いていた私も。

 ベルナデット様の口調は普段より厳しく、同時に事業に携わる者としての、責任ある立場としての、確固とした姿勢が窺える。


 ――アネモネ氏。その名前が出たのは、学院でのお茶会のときだ。

 この世界の著名人だという氏とのコラボ商品として、その名を冠した茶葉が発売された。

 しかし流通に関わった商会が責任を果たし切れず、それは散々な結果に終わったのだ――と、そのときに聴いた話を思い出す。


 なるほど。ベルナデット様はその騒動を、一人の紅茶好きとして体験するのと同時に、取引を進めていた企業先の大きな失態として認知していたのか。


 そしておそらく、ミラー商会の先代と進めていたプロジェクトとやらは、その失態とそれに伴ったベルナデット様の判断、あるいは先代の急逝によって凍結された。


 それをラザリオが、商会の信頼を取り戻すための一大プロジェクトとして再始動するべく、話を持ってきた――か。


 一応彼は、その目論見を正直に告白し、その上でベルナデット様側のメリットを充分に考慮したそうだけれど……。


「マリモ、お客様のお見送りを。ミラーさん、今日は良い話をどうもありがとう」


「……ご不明点、改善点の指摘があれば、いつでもご連絡を」


 どう見ても、旗色は悪そうだった。


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