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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第二章《to dress, un-dress and, re-dress》
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第24話『馬車の中』

     ☆


 学院の制服に着替えた私は、ベルナデット様の朝食を受け取る際に挨拶をしそびれたシェフのクーペさんに改めて挨拶をしてから、そのまま階下の裏口を出てお屋敷の正面へと回った。


 なぜわざわざ裏口から出たのかというと、プランシュがそうしていたからだ。

 考えすぎかもしれないけど、使用人は正面玄関を使ってはいけない、なんてルールがあるかもしれないからね。


 そして実際、予想は的中した。

 玄関先で待っていたラフィーネさんと合流した折に、ロードナイトの本邸ではそのような慣習が存在していると言われたのだ。


 だがここは『プティ・シムティエール』。

 主人であるベルナデット様は、その慣習を別に無くても構わないと考えているらしく。

 緊急時や掃除の際の使用は当然許可するものとして、通常時の使用も各々の判断に委ねているだとか。


 なので、己を律する意味で裏口を使うのでも、タイムパフォーマンスを追及して正面玄関を使うのでも、どちらでも構わないらしい。


 そんな話をしているうちにベルナデット様がいらして、三人で門の外に止めていた馬車に乗り込む。


 その際、窓際の席に座った私はふと。


「――――」


 改めて目にするお屋敷の全景に、息を呑んだ。


「どうかしたか」


「……昨日は既に日が沈んでいましたので。明るい時間帯に見るお屋敷は、こんなにも壮観なのですね」


「そう思ってもらえて良かった。一度改装工事をしたとはいえ、あれは古い建物だからな。君が居た時代の物と比べると些か快適さに欠けたり、肌に合わなかったりしないかと少し気がかりだったのだ」


「そのアンティークの重厚な雰囲気が、私にはとても素敵に映っています。でも言われてみれば、『プティ・シムティエール』はこの世界の基準で見ても、かなり古風ですよね。以前西区の邸宅にお邪魔する機会があったのですが――」


 お邪魔するというか、誘拐されて軟禁状態にあったのだけども。


「――あちらは現代の豪邸といった佇まいでした」


「西区は八重城のお膝元だからな。こちらは北区の中でも東寄りだし、それにプティエールは元々、修道院だったのだ」


「修道院、ですか」


「何でも宗教特区が成立した際、その区画内に入れなかったことを理由に運営が難しくなり廃院したそうだ。その後にどこかの富豪が所有し何か商売の拠点になっていたそうだが、それも上手くいかなかったようでな。またもや廃墟になりかけたところを……知人から紹介してもらい、私が買い取ったというわけだ」


「なるほど……」


 修道院を紹介できる知人とは。不動産業でも営んでいる方だろうか。

 お屋敷を買い取ったという部分については、もう散々驚いているからともかく、また新たに出てきた令嬢のディティールに、やはり唸るしかない私だった。


「お嬢様。マリモの役職について、今のうちにお伝えするべきではないかと」


「あ――ああ、そうだな。……疑っていたわけではないが、マリモの意欲は我々の想定よりもずっと高い。君、やれることは何でもやるつもりなのだろう?」


「はい」


 スカイブルーの瞳を真っすぐに見返して、私は返事をした。


「よろしい。ではマリモには清掃、給仕、キッチンなど、とにかくすべての補佐という形で屋敷内の役職に関わってもらう。そして屋敷の外では、私の侍女として振舞ってもらいたい」


「た、大役ですね……!」


「周囲への良いアピールになるし、それは君の身を守ることにも繋がるからな」


「それにこれは、お屋敷にとっても利のあることです。プティエールの使用人は良くも悪くもこれまで代替わりをしていません。ですが今後もそうとは限らない。ゆえに、誰もが後進を育成する力を養っておく必要があるのです。何が言いたいか、分かりますね?」


「…………、はい」


 ――たった八日。そんな短い期間で去る者に、手間暇をかける必要があるのか、誰だって疑問を抱くはずだ。

 私自身、何もしない客人でいたほうが、双方にとって正しいことであると、考えなかったわけじゃない。


 だから最大限、マリモジュナが居るということでこのお屋敷の方々に不便を感じないよう、私に許される努力のラインを探りながら精進しようとしていた。


 けれどラフィーネさんの言葉は、そんな私の余計な思考を削ぎ落す、逆転の発想だ。


 どれだけ教育に力を入れても、入れなくても、八日間で去ってしまう厄介者。

 しかし裏を返せばそれは、お互いにどれだけ失敗を重ねても、八日経てば自動的に解消される関係ということなのだ。


 ――私は使用人として働くことを。お屋敷側は人を育て使うという経験を。それぞれ獲得することができる。


 お互いに迷惑をかけあえる以上、遠慮はいらない。

 言外にそう伝えているラフィーネさんの言葉に、いい意味でのビジネスライク加減に、私は感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


「ありがとうございます。そのお役目――謹んでお引き受けいたします」


「では晴れてマリモを我が家の……ふむ、メイド・オブ・オールワーク、でよいだろうか?」


「メイド・オブ・オールワーク……?」


「侍女、メイド、料理人など、数人に割り振られるべき仕事を一人の使用人が請け負う役職のことをそう言います」


「……なるほど」


 名称こそ初耳だが、私がメイドと聞いてイメージするものに近い役職らしい。


「本来は複数の使用人を雇う余裕のないお家に仕える者が就く役職ですが、例外には例外を適応するということでよろしいのではないでしょうか。正確には全役職の補佐役ですから、正式名は――アシスタント・メイド・オブ・オールワーク、というのは?」


 雑用係ならぬ雑用補佐、あるいは雑用の見習い。そんな感じだろうか。


「ふっ、また随分とアドリブな命名だな? まあウチは例外のほうが多い。それでよしとしよう。マリモも尋ねられたらそう答えなさい。誰もが首を傾げて、魔術詠唱をしているのかと怪訝に思うだろうがね」


 実際にその光景を想像したらしく、ふふ、と笑みを溢すベルナデット様。

 一方、まだ魔術について学び始めたばかりの私は、そのジョークの出来も温度感もイマイチ判断が付かず、困惑しつつも愛想笑いを返すしかなかった。


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